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アゴ出汁と蒸留酒

狛江スリムは「アゴ出汁と蒸留酒のお店」、というちょっと不思議なコンセプトで始まりました。不思議というよりは、「ちょっと変」と言った方が的確かもしれません。

そもそもが、営業が金土の深夜のみという時点でまぁ色々と課題が見えていたのですが、なにより最初に考えたのは「周りのお店とぶつからない」ということでした。

お店は狛江ショッピングセンターという、なかなかレトロなスナック街にあることもあり、きちんと周りの店との住み分けができることを考えた挙句「カラオケをしたいなら他に良いお店ありますよ」「うちはビールないので、お隣さんはいかがですか」といった形でお客さんを流せるようにしたのです。

また、醸造酒の類はどうしても劣化が進んでしまうので、早めに消費する必要があります。週二日の店では品質保持に影響がないハイアルコールを中心として、この辺の他のお店では飲めない様な面白いものを並べよう、ということにしました。

また、店主の片方はそもそも「今際の際には、アゴ出汁を点滴してくれれば本望」というくらいのアゴ出汁愛を持っていました。今でこそラーメンや鍋つゆにアゴが使われることも珍しくなくなりましたが、アゴ出汁そのものをじっくり味わう機会はなかなか都内ではありません。

だったら、生(き)で飲んでも本気で美味しいアゴ出汁をお通しで出したら面白そうじゃね?という相変わらずの伊達と酔狂で前に進み、先のハイアルコールとあいまって「アルコール度数40度以上か0の店」という、わけのわからない店の方針が固まりました。(その後、泡波を入れたため30度まで引き下がりました)

開店当初は毎日アゴ出汁を提供していましたが、多くのお客様が一口飲んで「ふうん、まぁこんなものか」という反応をした後に、少し経って「ん?んん?!」と二口三口夢中になって味わう様は、店主連ともども内心快哉の声を上げたものです。

ただ、アゴ出汁に満足するとお酒を飲む気が削がれてしまうという致命的な問題もあったため、アゴ出汁はお通しではなくて最後のシメにお出しする流れになりました。

今ではフードの提供などにも合わせるため、アゴ出汁の仕込みの頻度は随分と下がりました。研究を重ねたお店の原点ですので、機会があれば別稿でまたこの銀鱗のエリクサーについて触れたいと思います。

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