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大阪市の神社と狛犬 ⑲阿倍野区 ②阿部野神社~北畠親房・顕家父子を守る狛犬~


大阪市阿倍野区の地図と神社



大阪市には、現在24の行政区があります。阿倍野区は、上町台地の南の高台に位置し、古くから大阪南部の交通の要衝として栄えてきました。天王寺区との区境にある北部には交通機関が集結し、多くの商業施設が建ち並んでいます。特に、地上300mの高さを誇る超高層複合ビル「あべのハルカス」は、天王寺・阿倍野のランドマークになっています。区名の「阿倍野」は、古代にこの地を領有していた豪族「阿倍氏」の姓からとする説が有力です。

今回は、阪堺電軌阪堺線「天神ノ森」駅から南東へ徒歩で5分ほどの住宅街に鎮座する阿部野神社です。「あべの」の漢字表記は、明治以前は「阿倍野」「阿部野」「安倍野」などいろいろありましたが、明治以後、地名や地図などに「阿部野」を使うようになります。しかし昭和18年に阿倍野区が誕生したとき、区役所の土地台帳が「阿倍野」の字を用いていたので「阿倍野」の字になりました。以後「阿倍野」で統一されていくようになりますが、神社は明治以来の歴史があるので、名前を変えることはせず、「阿部野」のままにしているということです。

阿部野神社

■所在地 〒545-0035 大阪市阿倍野区北畠3-7-20
■主祭神 北畠親房ちかふさ公、北畠顕家あきいえ
■由緒  現在の社地は北畠顕家公が足利軍と戦った古戦場で、明治初期に地元の有志が顕家公を祀る祠をこの地に建立した。明治11年(1878)には神社創建運動が起こり、明治14年(1881)、御祭神を顕家公とその父親房公の両神とすることに決定した。翌明治15年(1882)、太政官の正式決定となり、阿部野神社と号して別格官幣社に列せられた。


〈阿部野神社境内図〉



南参道

〈阿部野神社 南参道一の鳥居〉


〈阿部野神社 南参道二の鳥居と狛犬〉

狛犬1

■奉献年 昭和四十三年十一月吉日(1968)
■作者  不明
■材質  花崗岩
■設置  二の鳥居前

二の鳥居前狛犬
二の鳥居前狛犬(阿形)
二の鳥居前狛犬(吽形)

阿部野神社は、社殿の南側に正面参道がある。民家と接するように一の鳥居が建っている。参道を進むと、左側に祭神の北畠顕家公の像がある。さらに進むと二の鳥居があり、その手前に昭和43年奉献の狛犬が安置されている。
阿部野神社の旧社殿は、昭和20年の大阪大空襲で全焼し、その再建がやっと実現したのが昭和43年(1968)だった。この狛犬もそれに合わせて氏子によって奉献されたのだろう。


西参道

〈阿部野神社 西参道鳥居と神馬〉


阪堺電軌阪堺線や南海本線の駅から阿部野神社に参拝しようとすると、西側の参道が近い。急な石段の上に、一対の神馬が安置されている。向かい合う神馬像は「幸誘う語らい神馬」と呼ばれている。これは平成14年(2002)に、北畠親房公生誕700年記念事業として奉納されたものである。

鳥居をくぐって進むと、瑞垣に囲まれた入口手前に一対の狛犬が据えられている。


狛犬2

■奉献年 昭和五十九年(1984)
■作者  不明
■材質  花崗岩
■設置  西参道

西参道の狛犬
西参道の狛犬(阿形)
西参道の狛犬(吽形)

昭和59年(1984)奉納の石造狛犬である。このタイプは、比較的最近に狛犬を設置した神社でよく見かける。巻毛や筋肉の盛り上がりなどを誇張して表現する。顔の表情はどこか漫画っぽい。


〈手水舎の陶製獅子〉

西参道の鳥居と狛犬2との間に、右手に手水舎がある。この手水舎の水口として、陶製獅子が置かれている。





かなり大きなもので、備前焼のような色合いだが、よくわからない。口の中の竹筒から水が流れ出るようになっている。尻尾が貧弱に見える。脊梁部分にガラスのようなギザギザがあるのは後補か。右側の臀部に銘があるが、判読が難しい。最初は「木内」か「森」か。最後は「七十翁」。


阿部野神社境内

やっと拝殿にお参りする。本殿・拝殿は、昭和43年に再建された新しいものだ。この建物の前には狛犬は置かれていない。

阿部野神社本殿


拝殿の西側に、勲之宮と祖霊社が並んで鎮座する。勲之宮は、南部師行公とその一族郎党百八名の霊をお祀りする。この両社の左右に一対の狛犬が安置されている。

左・祖霊社 右・勲之宮


狛犬3

■奉献年 昭和四十三年十一月吉日(1968)
■作者  不明
■材質  花崗岩
■設置  勲之宮・祖霊社前

勲之宮前狛犬(阿形)
祖霊社前狛犬(吽形)

この狛犬も、台座に「昭和四十三年十一月吉日/氏子中」という銘がある。正面南参道二の鳥居前の狛犬と同時期に、社殿再建の際に奉納されたことがわかる。狛犬の像容は、二の鳥居前の狛犬よりも西参道の狛犬に似ている。中国で量産されているものかもしれない。



ここからは、いくつかの境内社を紹介します。

〈御魂振之宮(奥宮)〉

本殿の背後に鎮座する。祭神は、中央が天照大御神、向かって右側が三輪大神と少彦名大神、向かって左側が菅原道真公である。阿部野神社は戦災に遭い社殿が焼失したが、宮司、氏子一同がその復興を祈願してきた社である。「一願一遂の宮」とも呼ばれる。



〈旗上稲荷社〉

祭神は、豊受稲荷大神、高倉大明神、白鷹大明神の三柱。「旗上」には、精進努力し、成功をおさめて「一旗上げる」という意味がある。



〈旗上芸能稲荷社〉

祭神は、大宮能売大神。別名を天宇受売命ともいわれており、芸能上達の守護神である。


〈白姫大明神〉

「土宮」と呼ばれ、白姫大明神という阿部野神社の土地を守護する神をお祀りする。別名、大土地主之神ともいわれている。





北畠親房・顕家の父子を祀る阿部野神社は、近代になってから設立された新しい神社ですが、境内もきれいに整備され、地元の尊崇も篤いという印象を受けました。そういえば、ここの地名も「北畠」でした。
狛犬が新しいのは仕方がありませんが、二の鳥居前の狛犬は他の二組の狛犬よりも優れていますね。

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