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兵庫県立美術館「ボストン美術館所蔵 THE HEROES 刀剣×浮世絵―武者たちの物語」~展覧会#24~

ボストン美術館の日本美術コレクション

ボストン美術館は、アメリカ建国100周年を記念して、同地の有志によって1876年に設立・開館した歴史ある美術館です。収蔵品の数は50万点を超えますが、そのうち日本の美術工芸品は、およそ10万点を数え、日本国外における収蔵品としては随一の質と量を誇っています。

これほどの日本美術品が集まったのは、明治時代に来日した動物学者のエドワード・モース、医師であったウィリアム・ビゲロー、東京帝国大学で教鞭を執ったアーネスト・フェノロサらのコレクションが、このボストン美術館に収蔵されたからでした。

今回の展覧会「ボストン美術館所蔵 THE HEROES 刀剣×浮世絵―武者たちの物語」では、浮世絵の武者絵が121点、それらと共通のイメージがデザインされた刀剣の鐔が27点、そして英雄たちの活躍を彩る重要な要素である刀剣が26口が出展されています。

工夫された展示

今回の展示の中心は浮世絵の「武者絵」ですが、見る人がよくわかるように、その展示の仕方が工夫されていました。
「武者絵」とは、『平家物語』などの軍記物語や武勇伝説に登場するHeroである武者たちや、歴史の名場面などを描いたもので、多くの浮世絵師によって手がけられています。江戸時代の庶民にとっても、よく知られた場面だったのでしょう。

展示の工夫とは、たとえば次のようなものです。
①武者絵はすべて壁面に展示され、すぐ近くで鑑賞できる。
②作品は適度な間隔があけて展示されている。
③作品の解説に、4コマ漫画が掲示されているものがある。
たとえば、今日の五条橋で牛若丸と弁慶が戦う場面。

歌川国貞「武蔵坊弁慶 御曹子牛若丸」

④同じ場面をデザインした刀の鍔が展示されていることもある。
たとえば宇治川の合戦で、梶原源太景季と佐々木四郎高綱が先陣争いをする場面。

歌川国芳「宇治川合戦之図」
宇治川先陣争い図鐔   銘「江州彦根住喜多川藻柄子  入道宗典行年七十一歳製」

⑤すべて写真撮影OK。

平日に訪れたこともあって、観客の数は適度で、鑑賞に不自由することはまったくありませんでした。
『今昔物語集』などの説話集や『平家物語』などの軍記物語で、馴染みのある人物がたくさん登場しますが、英雄譚や怪異譚でおもしろい話がいっぱいあるということを、再認識しました。

作品紹介

ここからは、たくさんの展示作品の中から、写真撮影をしたものを紹介します。たくさんありますので、時間のあるときに、ゆっくり見てくださいね。

〈神代の武勇譚〉

歌川国芳「小子部栖軽豊浦里捕雷」

〈平安時代の武者〉

勝川春亭「藤原秀郷の百足退治」
歌川国芳「龍宮城 田原藤太秀郷に三種の土産を贈る」
歌川芳艶「頼光足柄山怪童丸抱図」
歌川国貞「渡辺ノ綱 坂田金時 平井保昌 源頼光」
歌川国芳「源頼光の四天王土蜘退治之図」
歌川国芳「源頼光」
歌川国貞「茨鬼  戻橋綱逢変化」
月岡芳年「美談武者八景  戸隠の晴嵐」
月岡芳年「明治十五壬午季秋絵画共進会出品画  藤原保昌  月下弄笛図応需」
勝川春亭「八幡太郎義家公  安倍貞任」

〈源平時代の英雄〉

葛飾北為「福原殿舎怪異之図」
歌川国芳「清盛入道布引滝遊覧  悪源太義平霊討難波次郎」
北尾政美「鵺退治」
歌川国貞「牛若鞍馬兵術励」
歌川国芳「天狗の加勢を得て戦う牛若丸と弁慶」
歌川国芳「生田森追手源平大合戦」
歌川国芳「義経之軍兵一ノ谷逆落シ之図」
歌川豊国  しころ引き「七兵衛影清 三保の谷四郎国俊」
月岡芳年「義経八島之名誉」
歌川国芳「長門国赤間の浦に於て源平大合戦  平家一門悉く亡びる図」
葛飾北為「摂州大物浦平家怨霊顕る図」
歌川国芳「程義経恋源一代鏡 三略伝」大物浦
豊原国周「文治四年摂州大物浦難風の図」
歌川芳虎「加賀国安宅の関にて斎藤武蔵坊弁慶勧進帳を読図」
歌川国芳「加賀国安宅関弁慶主従危難救図」
北尾政美「巴御前」
歌川国芳「巴御前」
勝川春亭「粟津合戦  三枚続」
歌川広重「源平盛衰記 粟津原合戦」
歌川国芳「袈裟御前 遠藤武者盛遠 渡辺渡」

〈鎌倉時代の物語〉

歌川国貞「河津三郎祐安 海老名源八弘綱 俣野五郎景久」
歌川国貞「源頼朝公富士之裾野牧狩之図 三枚続」
歌川国芳「建久四年五月廿八日富士之裾野曽我兄弟夜討 本望之図」
歌川芳虎「楠正成赤坂城籠城」
歌川国貞「大森彦七」

〈小説のヒーローたち〉

卍楼北鵞「椿説弓張月  巻中略図 山雄(狼ノ名也)主のために蟒蛇を噛んで山中に骸を止む」
歌川国芳「里見八犬伝一覧」
歌川芳虎「犬飼現八庚申山で化け猫を射る」
歌川国芳「伊賀寿太郎  将軍太郎平良門  滝夜刃姫」

すべての絵に、それぞれの「物語」があります。「物語」の内容を知ると、絵の面白さが倍増します。当時は、浮世絵師もこの絵の享受者である庶民も、描かれている「物語」をよく知っていたのでしょうね。

刀剣

ボストン美術館は約600口の日本刀を収蔵しており、その収蔵品数と作品の質は群を抜いているとのことです。今回の展覧会では、そのコレクションから20口が出展されました。さらに国内所蔵の刀剣も6口展示されています。その中には、源氏の重宝であり源義経所持の伝承もある「刀 折返銘 長円(薄緑)」や、上杉謙信の愛刀である「太刀 銘 国俊」などが含まれています。
刀剣の写真も撮りましたが、ここでは太刀とこしらえを各1点だけ紹介します。

「太刀  銘  備州長船住兼光」鎌倉時代(14世紀)

「金梨子地家紋散糸巻太刀拵」江戸時代(17世紀)

大学で私が博物館学を学んだときの先生(元大阪市立博物館・館長)は、刀剣の専門家で、当時はいろいろ教えてもらいましたが、刀剣を「知る」ことは難しいですね。いまは、その美しさを「感じる」ことができればいいかなと、思っています。

今回の展覧会は、かなりゆっくりと観ることができました。展覧会に行くと、よくくたびれるのですが、今回は2時間半ほどかけて観たうえ、さらに常設のコレクション展まで観ました。あっという間に時間が過ぎていったようでした。
楽しめる展覧会は、いいですね。

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