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The Rust Song

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その国では、国王が絶対的な権力を持っており、民に自由はなかった。ある日、理不尽な罪で捕らえられた少年少女たちはみな死刑執行を待つ身であったが、反国王勢力の革命が起きて助け出される… もっと読む
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記事一覧

第7話 神田涼の章(2)

 私と優は、なんとか敵に見つからずに兄貴たちと会うことが出来た。

そして、そこで恐るべき、信じがたい惨劇について聞かされることになった。

知りたくなかったが、目を背けることは出来なかった。

耳をふさぐことも出来なかった。

私たちは、もう子どもではないのだから。

色々なことを知らなければならないのだから。

 兄貴は淡々と告げる。

桃がテロリストになり、兵士を率いて反旗を翻した。

その

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第6話 須代優の章(2)

 俺たちが涼の兄貴と一緒に働いてるなんて、ちょっと前じゃ想像もできなかった。俺はただの高校生だったし、革命軍なんてちょっと怖いって思ってたからさ。

でも一緒にいるうちに、すごく気のいい人たちばかりだってわかったし、ここでの生活もなかなか楽しいもんだ。

井口さんという人とは特に気が合う。

大学生なのに悪ガキみたいなひとで、涼にも優とそっくりだねなんてからかわれた。まあ学校なんか退屈だったし、い

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第5話 簸川正の章

 捕虜の視察が終わり、出口まで革命軍メンバーの山内が見送ってくれる。

「本日はありがとうございました。簸川さん、お気をつけてお帰りください。」

山内の言葉は普段通りだが、俺はその裏側にあるものに気がついてしまっていた。

「ああ。山内もお疲れさん。」

あくまで笑顔で、自然に答える。

今日の出来事を思い返すと、どうしても笑顔が引きつりそうになるのを必死で堪える。

 捕虜を収容している故宮は

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第4話 神田真の章

俺は元内務省、現臨時政府の一室の椅子に深く腰掛けている。

ここはリーダーである簸川さんと俺の合同執務室として設えてもらった部屋だ。

 革命が成功して3日がたった。

見込んでいたとおり、国王軍の兵士はろくな訓練もされていなかった。

やつらは、武器の面で劣る一方で高い士気を持った革命軍を前に臆病風に吹かれて降伏し、大きな戦闘もほとんど発生しなかった。

精鋭部隊であるはずの近衛兵も国王を守るど

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第3話 高海桃の章

 1週間ぶりに家に帰ったあたしは、メガネを外し、ベッドに寝転びながら、なんだか現実感がないような不思議な感じを味わっている。

よくわかんない罪で逮捕されて、助けが来て解放されるなんて漫画みたいな話だ。

それにしても。涼のお兄さん、カッコ良かったなあ。涼はあんなお兄さんがいていいなあ。きっといい家族がいるんだろうなあ。いいなあ。

 あたしが帰ったとき、家族は特に喜んではくれなかった。

むしろ

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第2話 神田涼の章

 ここに捕らえられてから5日が経った。

わたしたちはまだ生きている。

しかし、決して楽観視できる状況ではない。

いつ死刑が執行されるかわからないのだ。

明日生きていられるかどうかわからない状況というものは、人の精神を極端に摩耗させ不安定にさせる。

わたしたちは、会話の量が目に見えて減った。

誰の精神にもそんな余裕がないのだ。

無理もない。わたしたちは一介の高校生で、なにか主義主張にも

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第1章 須代優の章

 この国はクソッタレだ。いままでもずっとクソだったが、今日ほど強くそう思ったことは無かったよ、ホント。

この国を牛耳っておられる国王様ってのは、そんなに偉いのかね。

俺みたいな下賤の民なんかは会ったこともないから、そのありがたみってもんがわかんないんだよな。

 

 俺はいま、刑務所にいる。空が狭いよ。刑務所の窓に切り取られた空ってのはこんなに味気ないんだな。

部屋の中も殺風景で、物は毛布

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