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葬儀屋さんに聞く、お葬式について知りたいことあれこれ~『DIY葬儀ハンドブック』スピンオフ企画VOL.2

 
 弊社で2019年10月に刊行した『DIY葬儀ハンドブック』の著者、松本祐貴さんが、葬儀に関する単純な疑問や知りたいことを教えてくれる企画。第2回のテーマは「葬儀にまつわるお金」についてです。

葬儀にまつわるお金の大事な話

 さて、今回は葬儀にまつわるお金について語りたいと思います。葬儀の際、 葬儀社に支払うお金とお寺に支払うお布施の2種類がかかります。
 まずは葬儀社に支払うお金について。前回も書きましたが、葬儀には、一般葬、家族葬、一日葬、直葬があります。違いは参列者の規模、費用です。参列者は一般葬で30名以上、家族葬・一日葬は10名から30名程度、直葬の場合は近親者数名となります。
 依頼する葬儀社により幅がありますが、一般葬で60万〜300万円、家族葬で60万〜150万円、1日葬で50万〜150万円、直葬で15万〜30万円が目安となります。
 その中でも費用が安く『DIY葬儀ハンドブック』でも取り上げた直葬について、詳しく見ていきます。 

火葬のみの直葬で遺族は後悔しないのか?


 直葬を選ばれる場合、その理由は、「お金がない」、「(葬儀に)お金をかけたくない 」、そして「事件や自殺などの事情を抱えている」の3つに分かれます。3番目の自殺については、別項で後述します。
 金銭的余裕のない方は、直葬でも仕方ない面があります。生活保護を受けている状態であるなど、経済的に厳しければ、直葬以外の手段がとれないこともあるでしょう。
 お金をかけたくない人はここ十年ほど増えてきていると思います。「葬式=高い、火葬のみでいい」という考えをお持ちの方もいるでしょう。
 直葬は見た目の費用は抑えられます。大まかな費用は、直葬は20万円、家族葬、一般葬は100万円です。ただ、一般葬だと、香典により自己負担額が軽減されることがあります。
 小規模の葬儀社で行われる直葬の割合は、全体の5%〜10%程度です。これは新型コロナウイルスの流行があってもそれほど変化しませんでした。
 葬儀社の担当者によると 、直葬を選んだことを後悔する遺族が多いように見受けられるそうです。特に葬儀社のアドバイスを聞かずに直葬を選んだ方は大変です。葬儀を終えた後も、自宅への弔問客が、数カ月、長ければ半年以上続くこともあります。 故人が多くの人に慕われていたことを後から知り、通常の葬儀をしておけばよかったとなるのです。
 直葬で納得できるケースというのは、遠縁の親戚で、100歳などかなりの高齢で亡くなった故人の場合です。故人のお友達もご親戚も亡くなられていて、参列者がいないのなら、直葬も間違いではないでしょう。
「お金を出したくない、だから直葬」という考えは、故人を思う気持ちが薄く、割り切れる人ならできなくはないです。
 そもそも葬儀とは、故人の人生を称える儀式でもあります。お金をかけなくてもやり方を考えればいいのです。相見積もりを取り、会食をなくし、参列者を減らすことなどで、葬儀費用を抑えることができます。少ない予算でも故人に思いを馳せ、記憶に残る葬儀を行うことも可能です(ただ、香典を受け取った場合、その方へのお返しはきちんとするべきです)。
 葬儀は残された遺族の思い次第で、形式にとらわれるものではありません。例えば、高齢の夫婦が連れ合いを亡くし「自分と子どものふたりだけでも葬儀をしてもいいですか」という方もいます。また「引っ越してきたばかりで近所に知り合いがいないですがお葬式をしたい」という方もいます。
 心ある葬儀社ならば、どんなリクエストでも相談に乗ってくれます。インターネットの葬儀屋紹介所ではなく、しっかりとした葬儀社に相談することをオススメします。

葬儀が増えるのは冬「春秋は自殺、冬は年寄り」


 自殺で亡くなられた方の直葬についても考えてみましょう。
 葬儀のシーズンという言い方はおかしいですが、寒い季節、12月から3月ぐらいは亡くなる方が増えます。葬儀に関わる人の間では「春秋は自殺、冬は年寄り」との言葉もあるほどです。
 自殺された故人の葬儀も葬儀社側のやるべきことや式に変わりがあるわけではありません。ただし、喪主・参列者側の雰囲気は重くなりがちです。なにも手につかなくなってしまう喪主の方もいらっしゃいます。
 10代、20代の若い方が自殺で亡くなってしまった場合は、告知せずともご友人がたくさん集まってしまうことがあります。それ故、ご友人とのお別れの場としての一日葬など、簡単な葬儀でもすべきと考えます。ご遺族のショックが大きいなら、後日、落ち着いてからお別れ会などを開くのもよいと思います。
 そうしないと実家や火葬場、式場などに数十人から100人を超えるご友人がつめかけてしまったりすることあります。前項の直葬でご紹介したように、何ヵ月も自宅に弔問客が来てしまうという事態は避けた方が、ご友人たちにとってもご遺族にとっても望ましいことではないでしょうか。

突然のお葬式!!  お寺に払うお布施はいくら?

 葬儀には欠かせないお寺の話です。日本での葬儀の約8割は仏式葬儀だといわれています。ここではお寺にまつわるお金について書いていきます。
 葬儀とは葬儀式を略した言葉です。仏教の葬儀式で最も重要なのは、故人に「引導を渡す」ことです。そして、仏の弟子になるための戒名を授けます。
 代々法事・葬儀を頼んでいて、先祖のお墓があるお寺を菩提寺といいます。そのお寺の檀家であれば、檀那寺とも呼びます。菩提寺を変えることは可能ですが、お墓の改葬や離檀料などが必要となります。遠方に菩提寺がある場合は、問い合わせれば同じ宗派の近くの寺院を紹介してもらえることがあります。菩提寺がわからない場合、またはないという場合は、葬儀社に問い合わせ、新しく菩提寺を決めることも可能です。また、今までの関係を断ち切って、無宗教で葬儀を行い、お墓を作ることもできます。
 葬儀の際、お寺にはお布施と戒名料を納めることが必要となります。
 首都圏であれば、葬儀の際、お寺へのお布施・戒名料は30万円〜100万円ほどです。この金額の差は、戒名の位とお寺の知名度です。
 戒名の位は、いわゆる院号の方が、戒名料は高くなります。宗派による差はそれほどありません。
 お寺の知名度・格式は、末寺より大本山の方が格式は高くなります。よって、全国的に誰もが知っているようなお寺のお布施は高額なことが多いです。
 ほとんどのお寺はまっとうな宗教施設として職務に励んでいますが、まれに儲け主義のお寺もあります。
 今から30年ほど前の話ですが、ある有名なお寺ではお布施の提示額が1,000万円というとてつもない値段でした。しかもこのお寺はお布施の額を自ら提示することなく、葬儀社を通して遺族に伝えさせていたのです。
 ときに、葬儀屋が高額なお布施を要求するお寺と喪家の板挟みになることもあります。葬儀社が遺族に代わり、お布施の値段を交渉することもあります。高額なお布施がどうしても払えない家には、戒名の位を下げたり、お経の回数や僧侶の訪問を減らすことで対応します。
 あこぎなお寺は、地元の人の口コミなどで見つけるしか手段がありません。最近は、お布施の料金表があるお寺や領収書を発行してくれるお寺も出てきました。気持ちよく故人を見送るためにもお寺のお布施・戒名料の健全化を願いたいと思います。

お坊さんにはスゴいパワーがあるの?


 お坊さんには、神通力やスゴいパワーがあるのかという問い合わせをいただくこともあります。葬儀社の方に取材をしてみると、
「故人を降臨させるというイタコのようなお坊さんはいました。ただ、本当にスゴいお坊さんは人間性がしっかりした人ですよ」
 と笑い話で返されました。
 葬儀で重要な役割を果たすお坊さん。
 お経の滑舌や声のよさ、法話の上手なお坊さんは人気です。「お坊さんは立派な人」というみなさんの意識を態度で示してくれる方が一番ですね。
 中にはひと昔前の意識を持ったままで「寺が喪主より偉い」と傲岸なお坊さんや会食を楽しみにしている食い意地の張ったお坊さんもいるようですが……。

コラム:
リモート葬儀、ドライブスルー会葬
次世代の葬儀形態はどうなる?

 新型コロナウイルスの流行もあり、注目されるのが、非接触型やインターネットを利用した次世代の葬儀です。
 すでにリモート葬儀を実施している葬儀社もあります。そこで気になるのはお坊さんの存在です。現状、無宗教で葬儀をする場合、お坊さんがいないことは珍しくはありません。ただし、リモート葬儀でお経をリアルタイムで聞くには、お寺や式場の設備も必要になってくるでしょう。
 リモート葬儀を今までの葬儀に近づけるためには、インターネットで中継し、遠方の方にも見られるようにすることが一番の近道です。
「地方出身で都市部に住んでいるが、葬儀に参加したい」「入院中だが葬儀だけはリモートで参列したい」「高齢で移動が大変だがせめて葬儀を見たい」などのニーズは確実にあります。
 機器や人件費などのコストはかかりますが、サービスとして始める葬儀社が出てきてもおかしくはありません。
 今回の取材でも、コロナの時期、喪主の方が自宅から動けなかった葬儀がありました。このときはオンラインではなく、エンゼルケア、納棺、お骨を収めるようすを記録した動画を編集し、視聴者限定の動画サイトにアップロードしました(火葬場はプライバシーの関係で撮影禁止のところがほとんどです)。
 その動画を見た喪主の方はいたく感動してくださいました。スマートフォンだけあれば、誰でも見ることができます。葬儀の様子を収めた動画というのも、新しい葬儀の形態になる可能性があります。
 また、リモート葬儀とは別に、ドライブスルーで葬儀に参列できるシステムが地方で稼働しています。葬儀会館の窓口に車で入れるのです。参列者は窓口で記帳し、スタッフに香典を渡します。焼香も車の中で済ませて、祭壇も見ることができます。
 リモート葬儀、葬儀の動画撮影、ドライブスルー葬儀などは、本来は歩行が困難な高齢者のために開発されました。これからは新型コロナウイルスの影響などもあり、さらにこの動きが普及する可能性があります。また、通常の葬儀にも対応できる香典や供花のキャッシュレスシステムも実用化が始まっています。
 次世代葬儀への流れにシニア世代は気持ちが追いつかないかもしれませんが、利便性やコロナ時代ならではのメリットもあるので、徐々に普及していくのではないでしょうか。

文・構成:松本祐貴

著者プロフィール
松本祐貴
(まつもと・ゆうき)
1977年、大阪府生まれ。ライター&フリー編集者。雑誌記者、出版社勤務を経て、雑誌、ムックなどに寄稿する。テーマは旅、サブカル、趣味系が多い。著書『泥酔夫婦世界一周』(オークラ出版)。

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-遺体搬送から遺骨の供養まで- DIY葬儀ハンドブック』(駒草出版) 
四六変型判/並製 176ページ
ISBN 978-4-909646-25-5
定価(税込み) 1,540円
好評発売中!



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