見出し画像

『DIY葬儀ハンドブック』スピンオフ企画VOL.4 故人、そして遺族にも納得してもらえる「いい葬儀」とは? 葬儀のプロに聞く舞台裏と式づくりの心構え

弊社で2019年10月に刊行した『DIY葬儀ハンドブック』の著者、松本祐貴さんが、葬儀に関する単純な疑問や知りたいことを教えてくれる企画。今回は、「いい葬儀」「納得できるお別れの会」というものを実体験を含め考えます。

6割が仏式葬儀だが、お別れ会は多様化

 いいお葬式を定義することはとても難しいです。なぜなら一個人として喪主を務めることは、人生で経験することがあるかないか程度で、比較することができないからです。
 それでも、残された遺族が心から満足し、故人が納得したと思えるのであれば「いいお葬式」といえるのではないでしょうか。
 葬儀には、それぞれのご家庭の宗派が関係してきます。しかし、近年、その意識にも変化が出てきました。
 10年前のデータですが、葬儀を手がける日比谷花壇のアンケートによると、葬儀の宗派は、仏教が36%無宗教だが仏式で行うが23%と、全体の6割を占めました。無宗教の方でも、菩提寺やお墓のことを考えて、仏式の葬儀を選ばざるを得ないともいえます。このアンケートでは、無宗教の葬儀を望む方は14%でした。現在ではより多くの方が無宗教の葬儀を望まれているのを感じます。
 中堅葬儀社から独立し、葬儀社を経営するAさんは実情をこう語ります。
「現在は無宗教で花祭壇の葬儀件数が増えつつあります。私のところでは、火葬のみを合わせれば、全体の3割程度が無宗教葬儀です。仏式葬儀の場合でも、花祭壇を飾り、僧侶がくることで対応しています。昔ながらの白木祭壇は、今ではあまり使われません。ほかの宗教でいうと、神道の神式祭壇やキリスト教(の花祭壇)祭壇などが数%を占めている程度です」

画像2


 Aさんの扱う首都圏の葬儀では、すでに無宗教が多く、あと数十年も経てば、ほぼ無宗教になる可能性は否定できません。
 またコロナ禍の現在、最少人数の近親者で火葬のみをすませての通夜、告別式やお別れの会(偲ぶ会)を開くケースもあります。
 お別れの会は、式場での焼香、読経など宗教色のあるものから、ホテルで行う無宗教のパーティー形式のものまで、喪主が自由にアレンジすることができます。
 お別れの会では、一般的には献花、会食、あいさつ、希望があれば故人の映像視聴などが行われます。香典の代わりに会費制にしたりと費用やお返しの手間の面でも融通がききます。
「私が担当したお別れの会では、亡くなられた方がワインマニアで、親族、友人によるワインの会になっていました。通常の葬儀ほど湿っぽくならないので、朗らかに送ることができます」
 有名人の例になりますが、『男はつらいよ』の寅さんとして知られた俳優、渥美清を偲ぶ会は『大船撮影所』で行われ、ファン4万人が集まりました。また、ミュージシャンの忌野清志郎の葬儀はロック葬となり、武田真治が生演奏を披露しています。
 故人の好きだった場所や趣味に合わせ、有名司会者を呼んだり、出し物をしたりなど、これからのお別れの会は多様化が進むと思います。内容や場所も葬儀社の方とよく話し合い、故人、残された人たちが納得できるお別れの会をできるようにしたいですね。

葬儀社が故人の思いを代弁するのはサービス

 では、葬儀社の方が「葬儀」に対して、心がけていることはあるのでしょうか。ひき続きA氏に聞いてみました。
「私が葬儀社に入社したとき、上司、先輩に言われたのは『葬儀に飲み込まれてはダメ』ということでした。つまり、プロなんだから、葬儀屋が泣いてはダメということですね。
 なぜ泣いてはいけないかというと、泣くと感情に気を取られて、現場で動けなくなる人が多いんです。そうなると、一度現場を離れて、気を落ち着かせるしかありません。
 ただ、私も人間なので、何千回と葬儀をしていても、お気の毒で同情してしまうときがあります。また、感動の涙もあります。私はそのまま感情を出して、泣いてしまいますね。もう体が仕事を覚えているので、私は泣いていても、葬儀の進行、作業ができますよ」
 葬儀のベテランが思わず感動してしまうとは、一体どんな葬儀だったのでしょう。
「故人に対しての喪主のあいさつが素敵だったり、喪主が若いのに意外なほどしっかりしていたりすると、グッときて、泣いてしまうときがあります。お寺の僧侶の法話が、その家族、故人のことを思いやっているものも心を打たれますね」
 では、葬儀社の人たちは、参列者を感動させる式がいい葬儀だと思っているのでしょうか。
「故人、ご遺族が望んでいるであろう、好きであろうということをスタッフが汲んで、(結果的に、ご遺族や参列者を)感動させることはあります。
 通夜・告別式の司会のスタッフも、故人の思いを代弁するようなことがありますね。それは、葬儀社として必要なサービスだと思っています。
 例えば、リクエストにはないけれど、故人が3種類の花が好きだったというので、サービスしたりだとか。本来、お花の色や種類のオーダーには料金がかかります。状況にもよりますが、追加料金を取らないこともあります。
 ただ、過剰に演出するのは問題です。『感動を求めていない』というクレームがあったということを他社からも聞いたことがあります。ご遺族の望んでいないことをするのはダメですね」
 A氏の考えるいい葬儀とは?  
「葬儀は対人のサービス業です。すべての葬儀の状況は異なり、会う人も場所も違います。接し方、対応を考えながらベストな判断をします。葬儀社としては、喪主から『どのような葬儀をしたいのか』を聞き出し、故人のことを思いながら、残された人が納得できる葬儀を行うのが一番です」

ご遺族に響くナレーションを目指すプロ

 もうひと方は、葬儀スタッフ派遣会社の経営者であり、自ら葬儀の司会、エンゼルケアなどの実務も担当する女性のBさんです。葬儀、お別れの会でどのような対応をしているかを聞いてみました。
「葬儀のナレーションを担当するときは、ご遺族の方とのコミュニケーションを大切にしています。『(亡くなった)お母さんからあなたはなんと呼ばれていました?』『(亡くなった)お父さんはどんな人でした?』というように、ご遺族との会話の中に知りたいことを織り交ぜて、意識させずにおうかがいするんです。葬儀にお集まりのご家族、ご親族の方も故人のお話をしたいはずです。ときには親族どうしがお話をされているところに聞き耳を立てることもあります」
 だが、このようなプロのやり方で対応する葬儀社のスタッフはいまでは少なくなってきています。
「私のようなスタイルではなく、通夜前のご遺族に『インタビューをさせていただきたいです。ご質問ですが……』と直接的に問いかける葬儀社もあります。すると、ご遺族は身構えてしまって心を開けないし、答えづらいですよね。
 ほかには、故人の経歴や好みなどの情報を告別式前日までにFAXかメールで送るようにお願いする会社も増えています。そういった情報を元に司会をすると葬儀社が作った自分勝手なナレーションをになってしまうんです。ご遺族の心に響かないですよね……」
 プロフェッショナルは、聞き耳を立ててでも情報収集し、故人、ご遺族の思いに応えようとしているのです。

自分の父を納得して送り出せなかった後悔

 私自身の体験も話しておきましょう。私は4年前に父を亡くし、ネット系の葬儀社紹介所の言うままに、敷かれたレールの上をなぞる葬儀をしてしまいました。いい葬儀ができなかったという反省があったからこそ、『DIY葬儀 ハンドブック』が書けたともいえます。
 最も後悔したのは、生前映像系の仕事をしていた父なのに、葬儀では映像を用意できなかったことです。せめて写真のスライドショーをするなど映像を用意して、好きだった曲で送ってあげればよかったと今でも考えます。父の友人も数人ではなく、もっと大勢呼んで、お別れ会をしてもよかったかもしれません。
 葬儀後、うっかりしていた失敗談もあります。
 生前父は「わが家は浄土真宗だから」と言っていました。亡くなってからは、父の実家近くの菩提寺の僧侶にお願いし、通夜、告別式、初七日をすませました。そのときには、菩提寺に頼んだ安心感で、宗派のことなど頭から抜け落ちていました。
 問題が起きたのは四十九日です。四十九日の法要は父の自宅で行いたかったのですが、父の実家からは電車で1時間半以上もかかるため、高齢の僧侶にきてもらうのはとても気の毒です。そこで自宅近くの浄土真宗の僧侶に頼み、法要をしてもらうことにしました。法要当日、父の自宅に来てくれた初対面の僧侶は、位牌を見るなりこう言いました。
「これは浄土宗の位牌ですよ。戒名を見ればわかります。宗派が違うからお経をあげられませんね……」
 私は驚いて棒立ちになりました。生前父は「わが家は浄土真宗だから」と言っていました。故人から直接宗派を聞いたはずなのに。父が間違えたのか、私が聞き間違えたのか!!
「宗派が違うのはわかりました。私としては、故人を思う気持ちがあればいいと思うので、お経をあげてもらえませんか」
と、僧侶に頼み込みました。
「本当はいけないのですが、そこまで仰るなら」
 僧侶の心遣いで無事に四十九日をすませることができました。長年葬儀を経験していないと宗派を忘れることもあります。事前に確認するなど、気をつけてください。

求められているのは、人の心に寄り添う葬儀

 これからの葬儀を考えると、無宗教の葬儀やお別れ会が主流になってくるかと思います。その内容は多様化していくでしょう。もしかすると,、結婚式のように華々しくなっていくかもしれません。
 自分の葬儀のイメージができているのなら、ぜひ葬儀社の事前相談を利用してみてください。葬儀社はたくさんあります。ひとつの葬儀社の対応が気に入らなければ、相見積もりを取るのも問題ありません。
 故人を思う気持ちがあり、遺された者が納得できる葬儀は、やはり人の心に寄り添うことが大事です。そんな葬儀ができるようになるには、葬儀の流れ、葬儀社の選び方も書かれている『DIY葬儀 ハンドブック』を参考にしていただくのもいいと思います。
 みなさんぜひ、よいお見送りを。

画像1

-遺体搬送から遺骨の供養まで- DIY葬儀ハンドブック』(駒草出版) 
四六変型判/並製 176ページ
ISBN 978-4-909646-25-5
定価(税込み) 1,540円
好評発売中!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?