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「ラジオといるじかん 」Vol.6 #ふらっとに、いつもの朝を

絵はんこ作家でエッセイストとしても活躍するあまのさくやさんの連載企画「ラジオといるじかん」の第6回。今回は、勤め人でもある現在のあまのさんが朝の時間帯にタイムフリーで楽しんでいるという『パンサー向井の#ふらっと』について。日替わりのパートナーの中でも特にあまのさんが注目したのが、月曜日の滝沢カレンさんによる悩み相談コーナー。独特の認知、言語感覚をあますところなく発揮しているそのコーナートークから感じたものとは?   

 色々な朝がある。スッキリと爽やかに起きる朝もあれば、前日の疲れを引きずる朝や、今日も大変な一日だと思わず身を固くしてしまう朝もある。

 仕事や学校に向かうまでの朝の時間、みなさんはどんなふうに過ごされているのだろう。顔を洗い身支度をして、朝ごはんの支度をする間に、音楽をかけるか、朝ドラを見るか、Youtubeを見たりもするのだろうか、そんな余裕はないのだろうか。私は最近、もっぱらTBSラジオ『パンサー向井の#ふらっと』(以下:#ふらっと)を聴いている。
 
 フリーランスで時間の自由がもっときいていた頃は、朝は朝の、昼は昼の放送をリアルタイムでも聴いていたが、今は朝8時半に出勤をしなければならないのでそうもいかない。月曜〜木曜日の8時半から11時放送の#ふらっとは私の出勤時間には合わないが、タイムフリーで前日朝の放送をさかのぼって聴いている。やはり朝のラジオは、朝が一番似合う。

 しつこいようだが、私の中で実家のような存在だったTBSラジオ『たまむすび』が2023年の3月で終了した。変化が多い日々を生きる上で、いつもの雰囲気に触れられる場所というのはとても大事な存在だった。朝にラジオを聴きたくなるライフスタイルへの転換のタイミングもあいまってか、現在は#ふらっとがその存在になりつつある。たまむすびが実家だとしたら、#ふらっとは友達の家。今まで番組のパーソナリティといえば自分より年上の人が多かったのだけれど、パンサーの向井さんとは同い年。向井さんが出世頭であるとはいえ、私も朝の帯番組を担当する世代になったのかと思うと感慨深い。

 番組のタイトルを体現するようにフラットな姿勢で誰とでも話せる向井さんの物腰の柔らかさが、そこに出入りする人たちを自由にさせる。中でも月曜日の色は濃厚で、楽しみなコーナーがある。一つは月曜パートナー、滝沢カレンさんの「カレンに解決!天秤相談室」だ。

 カレンさんは番組開始当初から相談に答えるコーナーをされている。前身コーナー「カレンに解決!相談相談室」では、リスナーさん自身の悩みではなく、「こんな相談をされたんだけどどう答えればいいか」という形でカレンさんに相談が寄せられた。直接の悩みでないということもあり深刻さが薄く、軽く聴けるのも大きな魅力だった。今は「天秤相談室」としてリニューアルし、二択で悩んでいるリスナーさんから悩みが寄せられるという形式だ。カレンさんは二択に回答するか、時に三つ目の選択肢を提案する。

 5月ごろ、こんな悩みが寄せられた回があった。

「お昼ごはんをお腹いっぱい食べるか、そこそこ食べるかで悩んでいます。
お腹いっぱい食べると、お昼以降睡魔に襲われて仕事の効率が落ち、そこそこの量にすると夕方にお腹がすいてイライラしてしまって仕事の効率が落ちてしまいます」
                       (RNサンボの妻さん)

「全人類の悩みですね(笑)」と向井さんが受けた上で、カレンさんが答える。

「そのお腹いっぱいも、そこそこの量もあなたに合ってない。モデルの仕事では「空腹を気づかせずにいかに眠りにつけるか」というのを長年探しています。気づかせてるんですよ、このかたは。胃袋にすべてを。おなかいっぱいだと胃袋に気づかせてしまっているから眠いわけで。そこそこの量だなと思っているからそこそこの量だと気づかせてしまっている」

 カレンさんは独特な例えを挟みながら続ける。
「胃袋を自分のワンちゃんだとするじゃないですか」

 パワーワードをさっと置いて颯爽と爽やかな笑顔で立ち去らんばかりのカレンさん。途端に、「えっ!? ちょっと待って?」とぐいっと引き寄せられ、次のことばを全身で待ってしまう。
「(胃袋を)自分じゃない、人のものだと思うようにしてるんです。人のものに押し付けがましく詰め込んでも、下品じゃないですか。ダイエットに対しての考えですが。私は、この胃袋は、借りたものだとして綺麗に返さなきゃいけないと思った時に。ちょっといいものを入れておこうかなあ、自分の胃袋のために幸せになってもらおうかなという入れる時の気持ちなんですね。
 おなかがすく・すかないじゃなくて「いい胃袋でいてもらう」ためには。一生使うものなので。人から借りたものだと思うと、入れる量も慎重になって自分のベストが見つかるってことなんですね」

「おなかがいっぱいだと胃袋に気づかせない」「胃袋を人のものだと思う」
胃袋を人格化して自分と切り離して見ているカレンさんの世界観に驚く。

 「相談相談室」コーナーの時代、「早く結婚したいのに、いい出会いがなくて困っている」と相談を受けたリスナーさんの相談に対し、カレンさんはこう回答している。

「「誰かと出会わなきゃ」って思う時って、「出会い」も緊張しちゃうから、ちょっと今のこの方に出会うって、ドキドキしちゃうな、って。その運命すらがその人を一回緊張させちゃってるんですよ。
 あまりにこの人が出会いを求めちゃってる。なので、一回出会いたいっていう心を一回、、もういいや出会えないじゃん!って思ったぐらいの時に、「あ、この感じなら、よし、運命の登場だ」って「運命」も出やすい」

 カレンさんは、いろんな対象とフラットに会話している。胃袋やら出会いやら運命やら。自分の進む先の未来や、体内にあるはずの臓器すらも、自分の存在と切り離して客観的に付き合っている。何かが悪いのは自分という人間のせいだ、という気持ちになりがちな私にとってはこの考え方が本当に新鮮に感じるし、救われる。自分が悪いのではなくて付き合い方の問題だとしたら、コミュニケーションで解決できるのかという希望をもたらしてくれる。

 カレンさんの「切り離し」性質は他者との付き合いに対しても表れているように感じる。誰にでも心を開くというよりは、自分がプライベートで「身内」とみなすような人は極めて少なそうで、それ以外に対して全てフラットな印象。ちなみに向井さんに対しては、結婚報告など大事なことを事前に一切発表しないという方針を貫いている。それはそれ、これはこれ感がとてもはっきりしている人である。

 カレンさんの相談コーナーの数分後には、ロバート秋山のシェアオフィス「ザ・専門」がはじまる。 “とある仕事”を専門に行う「専門のひと」が集うシェアオフィスから、秋山さんが演じる「専門のひと」のインタビューをお届けするコーナーだ。初回放送は「集合写真の一番前に横たわる専門の人(横たわりスト)」だった。秋山さんの紹介もなく突然始まったので、本当に戸惑った。あの時間帯にサプライズを仕掛けられる経験もなかなかないのでよく覚えている。「ロバート秋山のクリエイターズファイル」よろしく、このコーナーに関しては、容赦なく秋山ワールドが全開だ。

 そんなふうに、#ふらっとは、朝の番組ながらカオス感もはらんでいる。ファミリーというよりは、大学から一番近い友達の家に溜まって「スマブラ」をやり続けているのを見たり、お菓子食べたり、方々が勝手に喋ってるような、あの感覚に近い居心地の良さがある。真ん中に立つ向井さんが朝にチューニングを合わせてくれているからこそ聞ける安心感だ。

「ラジオラジオはTBS 僕の一日のBGM
 誰かの声って嬉しいね これがなくちゃ始まらねぇ」
           (「ラジオはTBS」(作詞・作曲:関取花)より)

 オープニングに流れる関取花さんの「ラジオはTBS」のテーマソングは、耳から離れなくなる。ラジオ好きが全身から溢れている関取花さんのこの曲の歌詞には共感しきりだけれど、特に「誰かの声って嬉しいね」のフレーズが好きだ。そう、誰かの声が嬉しくて、私はラジオを聴いているんだよ。

 朝のラジオは、やっぱり朝が似合う。爽やかな日も疲れた朝も、いつもの歌といつもの声を聴けば、いつもの自分を取り戻せて、安心する。疲れた朝ほど「いつもの」声が聴きたくなるものだから、自分の心身のバロメーターにもなっているのかもしれない。

文・イラスト:あまのさくや

【著者プロフィール】
あまのさくや

絵はんこ作家、エッセイスト。チェコ親善アンバサダー。カリフォルニア生まれ、東京育ち。現在は岩手県・紫波町に移住。「ZINEづくり部」を発足し、自分にしか作れないものを創作し続ける楽しさを伝えるワークショップも行う。著書に『32歳。いきなり介護がやってきたー時をかける認知症の父と、がんの母と』(佼成出版社)、『チェコに学ぶ「作る」の魔力』(かもがわ出版)ほか。
SNSは、Twitterアカウント(@sakuhanjyo)、Instagram(https://www.instagram.com/sakuhanjyo/)、また、noteで自身のマガジンも展開中。

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