日常生活時の心拍数と寿命との関係 〜1000万件のビックデータから明らかになったこと〜

 心拍数は、血圧、体温などとならび生体情報の一つであり、健康状態に関係する重要な情報が反映される。平均寿命が 80歳を超える日本人の平均的な生涯の総心拍数は、約30億回にもなる。心拍の積み重ねによって、心血管の老化や血管障害が進み、寿命を迎えるともいえる。そう考えると、日々の心拍数を配慮することは大変重要である。
 厚生労働省が発表したデータ 1)によると、2015年時点で男性 80.79歳、女性 87.05歳となっている。女性のほうが寿命が長い理由は、安静時心拍数の観点では説明できない
 ところで、これまでも身体的要因などから女性の方が安静時心拍数が高いという報告はある 2)。
しかし、これは病院などで安静な状態で測定しているものであり、日常生活の外的要因(ストレッサー、行動、天候、住んでいる地域など)の影響が反映されているとはいえない。
 そこで本研究では、日常生活の外的要因が加味された日常生活時の心拍数を分析することで、日本人の心拍数と寿命との関係を検証した。

「COCOLOLO」を利用する
 スマートフォンを用いた自律神経測定アプリケーション『COCOLOLO』を利用して、日常生活時の心拍数を分析した(図1)。このアプリは、スマートフォンのカメ ラ部分に指先を当て、指先の血流のヘモグロビンをカメラによって捉える。血流に応じて皮膚の色(輝度)の変化として現れる。この変化から心拍間隔(R-R間隔)をミリ秒単位で検知し、その変動を計測し、従来の心電計と同じように自律神経を解析する(特許:特願 2013-012308、出願日 2013年)。
 このアプリは、いつでも、どこでも、どんな時でも、日常生活の “局所”で簡易に自律神経や心拍数が測定でき、いまだかつてないビックデータを採取することが可能となった。
ここでは、測定者 94万 4775名(男性:26万 144名、女性:68万4631名)を対象として、2015年 2月から 2017年 2月の間に測定さした延べ 1144万 3795件(男性:308万 2010件、女性:836万 1785件)の日常生活時の心拍数の分析を行った(表1)。

心拍数と平均寿命の関係
 哺乳動物の心拍数と寿命との間に相関関係があることが報告されている 3)。その研究によると、心拍数と寿命は反比例し、心拍数が低いと寿命が長くなるという。具体的には、心拍数の低いゾウなどの動物ほど寿命が長く、心拍数が高いネズミなどの小動物ほど寿命が短くなる。
 また、心拍数と死亡率あるいは心血管事故発生率との関係を調査した疫学研究によると、高心拍数ほど総死亡(一定期間の死亡者数/人口)や心血管死亡が高率であることが報告されている 4)。
このように、心拍数が低いほど死亡リスクが低下し、寿命が長くなる。そこで 本研究では、日常生活時に測定された1000 万件にもおよぶ心拍数のビックデータを対象に、心拍数と年齢との関係を分析した 3)。
ここでは、10 歳代から 60 歳代以上の 6 グループに分類した。グループ間の差を調べるために、Games-Howell の手法によって多重比較を行った。この方法は、正規分布にしたがい、しかも等分散性が仮定できない場合に用いられる標本の多重比較法である。
 その結果を図2に示す。年代別の傾向をみると、女性は 30 差代の72.43(bpm:心拍数/分)をピークに、年代が上がるにつれて心拍数が下降する傾向がみられた。
一方、男性は、40 歳代~ 50 歳代まで心拍数が上昇傾向を示し、60 歳代以上では 70.88(bpm)と40~50歳代に比べて約 3 拍/分ほど低下する傾向がみられた。
 男性の年代別の心拍数の傾向は、加齢変化などの内的要因の影響だけでなく、女性に比べて仕事や身体活動などの外的要因が大きく関与していると考えられる。
仕事によるストレスは、血圧を上昇させ、心肥大などの循環器系臓器障害の要因となるほか冠動脈疾患のリスクにも関係するといわれている。
今回の結果では、男性は 60 歳代以上で心拍数がガクッと低くなる傾向を示している。多くの人が仕事の定年を迎え、仕事上のストレスが減少し、心のゆとりがでたことが心拍数の低下の一因であると考えられる。
 また、社会的責任が重くなる 30歳代以降で、男性が女性よりも心拍数が高い傾向がみられたこのことから、日常生活時の心拍数の観点からは、女性のほうが長寿である理由を説明できる可能性がでてきた。
今後も、生体情報に関する最先端の研究成果を世の中に発信することで、日本人の健康の向上に貢献したいと考えている。

参考文献
(1) 厚生労働省、「平成 28 年簡易生命表」、2016 年 7 月(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life16/dl/life16-15.pdf)
(2) 例えば、Sagie A1, Larson MG, Goldberg
RJ, Bengtson JR, Levy D., “An improved method for adjusting the QT interval for heart rate (the Framingham Heart Study),” Am J Cardiol, Vol.70, No.7, pp.797-801, 1992 年
(3) Levine H.J., “Rest heart rate and life expectancy,” J Am Coll Cardiol, No.30, pp.1104-06, 1997 年
(5) M. Komazawa, K. Itao, G. Lopez,Z. Luo, “Evaluation of Heart Rate in Daily Life Based on 10 Million Samples Database,” Global Journal of Health Science, Vol.9, No.9, 2017 年(4) Okamura T. et al., “Resting heart rate and cause-specific death in a 16.5-year cohort study of the Japanese general population,” American Heart Journal, Vol.147, No.6, pp.1024-1032, 2004 年
(5) M. Komazawa, K. Itao, G. Lopez,Z. Luo, “Evaluation of Heart Rate in Daily Life Based on 10 Million Samples Database,” Global Journal of Health Science, Vol.9, No.9, 2017 年

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駒澤真人

WINフロンティア株式会社 取締役、芝浦工業大学 客員准教授。150万ダウンロード突破!ストレスチェックアプリ『COCOLOLO』の開発者、人間情報学研究者。
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