デパ地下

午後6時半の割引シール

実家の近所のスーパーにて。
生鮮食料品売り場のレジ後ろのカウンターで、夕方に見ず知らずの中年男性に話しかけられた。
気さくで感じの良い、仕事帰りのビジネスマンやった。

「ひとり暮らしでっか?」 そのおっちゃんは綺麗なナニワ口調で私に言った。

私 「はあ? あっ はい・・・ いいえ・・ あの・・・」

そのおっちゃんは今年初めから単身赴任中で、家は奈良。聞きもしないのに自己紹介してくれた。

「私、遠方に住んでるんですけど、実家の片づけのためにちょっと今こちらに帰省してるんです。」
とこれまた聞かれもしないのに、初対面のこのおっちゃんに説明している自分がなんだか滑稽。

「ああ、大変やね。 わかりますよー。うちも去年実家の片づけやりましたから」などと見知らぬこのおっちゃんは私を労ってくれた。

手短かに不用品引き取り業者の選び方などもアドバイスしてくれはりました。

先月の日本一時帰国中、実家の片づけに追われた。
夕方にスーパーでおひとり様用のおかずを買って、隣町に嫁いでる妹が事前に冷蔵庫に入れてくれていた缶ビールで晩酌して夕食・・という日がしばらく続いていた。
父が介護サービス付き高齢者住居に引っ越す前、ネットで大量購入して死蔵品と化した「さとうのご飯」をチンして。

以前は、帰省のたびに父の手料理でふたりで晩酌してたのになあ・・・

近所のこのスーパーでは午後6時半になると、3割引きから5割引きのシールが貼られて超お買い得の品が沢山ある。
聞いてはいたけど、ほんま高齢者含めて独り暮らし用の食材や出来合いの食品が充実してることを今回は実感した。

私のバスケットの中に3割引きと半額のシールが貼られたおひとり様用出来合いパックが複数入っていたのを見て、このおっちゃんは私に声をかけてくれたのだと思う。
多分そう。
そのおっちゃんのバスケットの中にも、割引シールのパックがいくつかあった。 
そして缶ビールも。

「ここね、お刺身とお寿司は特にお値打ちやで。」とおっちゃんは言った。

おっちゃんは舶来っぽい上等なビジネスバッグを横に置いたまま、手際よくバスケットの中のお買い上げ品をエコバックに詰めた。
このスーパーの常連なんやろう。
ビジネスバッグの中にエコバッグ入れて通勤してはるんやね。
どう表現していいのかわからんけど、単身赴任の悲哀よりもむしろひとりの生活を楽しもうとしている様子が何となく感じられる。

おっちゃんの手元ふと見たら、カフスボタンが目に留まった。
これで上着の内ポケットから黒の長財布と名入りの万年筆なんか出てきたら、もう私のタイプ。
なーんて、これは後で思ったこと。

「さあ、帰ろかぁー」とため息まじりにおっちゃんは自分に言い、ビジネスバッグとエコバックを持ち上げた。
「ほな」と私に短く声をかけてくれたので 「お疲れ様でした」と返す。

この日の夕方、ちょっと元気出た。

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