今井雅子作「北浜東1丁目 看板の読めないBAR」四つばばばかり膝入れバージョン
〈はじめに〉
看板の読めないBAR開店
ナレーターの下間都代子さんが運営されていた「うっかりBAR」(残念ながら閉店してしまいました)で2023年1月に開催された新年会のために、脚本家の今井雅子先生が書き下ろされた、「北浜東一丁目 看板の読めないBAR」。
今井先生が「○○かりBAR」のチェーン店を作ってください、とアレンジ作品を推奨してくださったことで、たくさんの方が、二次創作の「チェーン店」を作られて、ノートに発表され、clubhouseで朗読もされています。
↓こちら「看板の読めないBAR・○○かりBAR」の作品をまとめたマガジンです。
わたしも書いています(さりげなくPR)↓
わたしが個人的にお気に入りのお店は、今井先生が自ら出店された「ばばばかりバージョン」↓
元気な関西弁のおばあちゃん風で読んでいると、私まで元気になれそうです。
膝枕リレー1000日祝いに、テナント建て増し&膝入れ
音声SNS clubhouseで脈々と読み継がれてきた「膝枕リレー」
やはり今井雅子先生作品「膝枕」からスタートし、今では200作品以上の「外伝」が作られ読み継がれています。
clubhouseの膝枕リレーハウス↓
短編小説「膝枕」と派生作品
↓
膝枕リレーが2024.2.24で1000日を迎える記念に、朗読仲間4人で何か読みたいよね、と話ていたところ、急な思いつきで、大好きな「ばばばかりBAR」のテナント建て増しし、膝入れした、四つばばばかりバージョンを作ってしまいました。
私たち4人を「四つ葉カルテット」と呼んでくださったのは、やはりお膝つながりの成孝さん。
素敵な呼び名。グループ名として頂いちゃいました。
成孝さんも、たくさんの素晴らしい作品をnoteにアップされています。
★clubhouse内での朗読大歓迎です。
作品中のセリフは、四つ葉カルテットそれぞれのお国言葉で書いていますが、どんな言葉でお読みいただいてもオッケーです。
幾分突貫工事感のある建て増し店を、暖かく見守って下さり、アドバイスくださった今井雅子先生に心よりお礼申し上げます。
では、本編お読みくださいませ。
※太字は、今井雅子先生の「ばばばかりBAR」よりアレンジした部分です
今井雅子作「北浜東1丁目 看板の読めないBAR」四つばばばかり膝入れバージョン
名前を呼ばれた気がして振り返ると、そこに人の姿はなかった。
「今、呼んだ?」
4人同時にそう言って、顔を見合わせ、首を振る。
4人とも黒の上下に身を包み、出涸らしの緑茶のような色の紙袋を提げている。葬式の帰りである。しかし、4人ともグリーンのベレー帽をかぶっている。
何年か前、一緒に行った旅先で見つけ、4人でかぶると四つ葉のクローバーのようだ、とお揃いで買い求めた。
4人で会うときは必ずこの帽子をかぶることが慣わしとなった。
時がたち、ベレー帽もずいぶんくたびれてきた。
「四つ葉じゃなくて四つ婆(ばば)やな」と久しぶりに会った4人は笑いあった。
「今、呼ばれた気がしたんやけど」そう言ったのは、こもにゃん。
「もしかして、連れて来てしもた?」そう言ったのは、ヒロ。
「連れて来たってなに?」そう言ったのは、おもにゃんだ。
「気持ちわりごど言わねで〜」怖そうに身を震わせたのは、すずじゅん…
大学時代のあだ名で今も呼び合っている。
「ごめん。言うてみただけ」とヒロも肩をすくめる。
4人とも霊感なんてものはないと思っているが、一人で先に逝く淋しさはわかる。たしかに道連れが欲しい。
もう一度、恐る恐る振り返ると、道端に置かれた小さな看板が目に留まった。
「あれ? なんか看板あるけど。BARて書いてる」
こもにゃんが言うと、あとの3人が看板を覗き込む。
ヒロ「やってるん?」
おも「看板出してるってことはやってるんじゃない?」
すず「なんか恐ろすなあ」
日はまだ高いが、お酒を飲みたい気分だ。
こも「入ってみよか?」
チョークで手書きされた頭の文字のいくつかが消えている。残されているのは、ひらがなの「か」と「り」とアルファベットのB-A-R。
ひろ「看板の文字消えてるけど、何BARなんやろ?」
顔にハテナを浮かべ、消えた文字を想像してみる。
「四つばばばかりBAR?」
4人の声が重なり、笑い声が路地に弾けた。
「まさかなぁ」
そんなBARがあったら、どんなお酒を飲ませるのだろう。誘われるように地下へ続く階段を降りて行く。4人とも転ばないようにと幅広の歩きやすい靴を履いている。ヒールのついた靴なんか履いて、うっかり転んで骨でも折ったら大変だ。オシャレよりも安全第一なお年頃である。
重みのあるドアを開けると、カウンターの向こうにバーテンダーの顔が見えた。オールバックに髪を撫でつけた男性を勝手に想像していたが、若い女性だった。30そこそこ、といったところか。娘より若い。だが、よそよそしさはない。どこかで会ったことのあるような顔立ちに柔らかな表情を浮かべている。
「お待ちしていました」
鎧を脱がせる声だ。
他に客はいない。
「ここに置かせてもろてええ?」
返事を待たずに四つ婆は紙袋をカウンターの隅に置き、革張りのスツールに腰を下ろす。カウンターに手をつき、「よっこらしょ」と唱和して、肉の薄くなったお尻を持ち上げる。
おそろいのベレー帽がカウンターに並んだ。
「ようこそ。四つばばばかりBARへ」
おしぼりを出しながら、バーテンダーがそう言った。
「四つばばばかりBAR!?」
四つ婆の声が勢いよく合わさった。
こも「ここって、四つばばばかりBARなん?」
真ん中に陣取ったこもにゃんが左右に目をやり、横並びの顔を見合わせる。
ついさっき看板の消えた文字を補って、4人が思いついた名前。それがこの店の名前だった。そんな偶然があるのだろうか。
「ご注文ありがとうございます。はじめてよろしいでしょうか」
四つ婆の動揺をよそに、バーテンダーが告げた。
「どうなってるん?」とヒロが囁く。
「誰か他の客と勘違いしてるんじゃない?」とおもにゃん。
人違いですよと正そうとして、思いとどまった。その4人組は、ある程度、私たちと属性が共通しているのではないだろうか。年齢、性別、醸し出す雰囲気……。だとしたら、注文の好みも似通っているかもしれない。
「このまま泳がせてみっぺ?」
すずじゅんがそう言い、四つ婆はうなずき合う。
「はじめてください」
「かしこまりました」
バーテンダーがシェイカーを振る音を確かに聞いた。だが、カウンターに出されたグラスはどれも空っぽだった。
「これ何?」とこもにゃんが顔をしかめ、バーテンダーを見る。
「ご注文の四つばばばかりです」とバーテンダーは真顔で告げる。手違いがあるとは微塵も疑っていない口ぶりだ。
「ばばあばっかりでバカにしてる、いうわけ?」
ヒロが喧嘩腰になるが、バーテンダーは動じない。
「どうぞ。味わってみてください」
自信作ですという表情を浮かべている。
「どうぞ、って言っても空っぽじゃないの!」とおもにゃんが噛みつく。
「うちら葬式の帰りで、うんめぇお酒飲みで気分なんだ」とすずじゅんも負けじと加勢する。
「葬式帰りの生き残り
ばばばっかりの4人組
四つばばぁに空のグラス出BAR
何のつもりなん?ボッタクリやん!」
昔から言葉遊びが得意だったこもにゃんが、即興で韻を踏み、節回しをつけて歌う。
「Googleにレビュー書いたる! 星ひとつや」とヒロが吠える。
「こう見えても私たちスマホ使えるのよ!」とおもにゃんも吠える。
「んだんだ!おんめぇ、クラブハウスで膝枕リレー1000日続いたってことも知らねぇべ!」とすずじゅん。
4人がかりで思いつく限りの悪態をついたが、バーテンダーは落ち着き払っている。
「ご感想は、お味を見ていただいてから、うかがいます」
なんと憎たらしい。
「わげがらって年寄りバカにしたら、いつか仕返しされっぞおめぇ」
すずじゅんがカウンターをドンと叩く。
「うちらの半分も行ってへんのとちゃう? 30かそこら?」
こもにゃんに聞かれて、バーテンダーは「25です」と答えた。
「25!?」
四つ婆の声が重なる。
「昭和ですよ」とバーテンダーが言う。
「はあっ?」
「昭和25年生まれです。私」
「はあっ?」とまたしても四つ婆がのけぞる。
「昭和25年ですって? 私たちと変わらないじゃない!!」とおもにゃん
ヒロ「さすがにそれはないわ」
四つ婆が縦皺の刻まれた首を揃って振る。
いくら若造りをしているとはいえ、せいぜい誤魔化せて10歳20歳だ。30そこそこに見えて実は70代というのは、バケモノだ。
「女優ライト、焚いてますから」
涼しい顔をしてバーテンダーが言う。
「あ? これ女優ライト?」とすずじゅん。
「確かにこのライトは不自然やわ。バーテンダー照らすん、おかしいやろ」
こもにゃんがうなずき、続ける。
ヒロ「ライトのチカラやとしたら、あんた、ほんまに昭和25年生まれ?」
「化粧品、何使ってるの?」とおもにゃんも身を乗り出す。
「ちょー待でー」とすずじゅんが口を挟む。まだお酒が入っていない頭は冷静だ。
「嘘に決まってっべ!空のグラスすすめで味わってみてください、つぅ人だぞ」
途端にあとの3人は、せやな、となる。
「バーテンダーもパチモンいうこと?」とこもにゃん。
「食わせもんや。出よ出よ。グラス、口つけてへんからタダでええわな?」とヒロ。
スツールを降りようとするが、若い頃のようにサッと降りられない。怒りに任せようにも時間がかかる。
「せっかくよじ登ったんだから。もうちょっと座っておこうか」とおもにゃんが言い、座り直す。
ぼったくりだかなんだか知らないが、このまま一人暮らしの部屋に帰るのは淋しい。わびしい。空っぽのグラスを傾けながら思い出話をするのも悪くないではないか。そう思うと、空のグラスでも酔える気がしてきた。
「空白は想像を膨らませる余白」
ヒロがぽつりと呟くと、「それ、なんだっけ?」と、おもにゃんが聞いた。
ヒロ「マウマウが言うてたやん」
「出た、マウマウ?」とおもにゃん。
「英語の山内?」とすずじゅん。
「山内やなくて山口な。マウンテンマウス略してマウマウ。山内だとマウンテンインサイドになってまうやん」とこもにゃんがツッコミを入れる。
若手英語講師マウマウ。当時は随分年上だと思ったが、60年近く経った今思えば、7、8歳の違いは誤差だ。
「空白は想像を膨らませる余白である」
それがマウマウの口癖だった。英語の長文の行間を味わい、読み物として楽しもうとマウマウは呼びかけていたが、学生達は居眠りをしたり化粧をしたり。
「どうせヒマやし、遊びにつき合うとしよか」とヒロが言う。
おも「芝居の心得なら、ある」
「おもにゃん、言い切ったなあ」とすずじゅん
こも「あるやん、うちら4人とも」
「まぁ、舞台度胸やったら」とヒロが言い、うなずき合う。
空っぽのグラスに老眼の目を近づけたり遠ざけたりし、そこにある「四つばばばかり」を想像する。さもあるがごとく。さもあるがごとく。
グラスを手に取り、口に近づけたそのとき、「あ……」と声が漏れた。4人同時に。
こも「何、今の?」
ヒロ「香り、せんかった?」
おも「香りっていうか…匂い?」
すず「んだんだ、確かに、したな」
顔を見合わせ、答え合わせをするように、その匂いを告げる。
「たこ焼き」
鼻先を通り抜けたのは、学園祭のたこ焼きの匂いだった。
その匂いに連れられて、遠い日の記憶が蘇った。
ビートルズの来日に湧いた1966年。それぞれ出身地は違っていたが意気投合した4人でバンドを組み、大学の学園祭のステージに立った。エレキギターではなくアコースティックギター。ビートルズのごとく4人で弾いて歌った。女子だけのバンドはひと組だけだったが、よりによって、くじ引きでトリを取ることになってしまった。あとの4組は学年の人気者がボーカルを務め、最高潮に盛り上がった形で出番が回ってきた。
「こんにちは! 『四つばばばかり』です!」
場内が微妙な空気になった。ここは笑うところなのだろうかと。
なぜこのバンド名にしたのか激しく後悔した。
こもにゃんの名字が馬場で、ヒロの家は床屋、つまりバーバー。そしておもにゃんの名字、高田といえば高田馬場。すずじゅんの下宿の大家さんは四つ葉のマークで有名な牛乳を販売している、というこじつけで、「四つばばばかり」と、安易につけたバンド名だったが、「四つ葉のクローバー」を想定されてラッキーではないか。
動揺が演奏に表れた。音がズレ、歌詞が飛び、せっかく温まった会場が冷えていった。ステージに背を向けて出口へ向かう生徒の流れが太くなっていく。いたたまれず、持ち時間の10分を使いきらずに袖にはける4人の背中に、パラパラとまばらな拍手が憐れみのようにかけられた。
体育館を出ると、出待ちがいた。ベニーだ。いつも焼きそばパンを食べている以外は特長のない、同じクラスの男子。紅しょうがからベニーとあだ名がついた。
「むっちゃ良かったで」
目を潤ませたベニーが「これ、今、買うてきた! みんなで食べて!」と差し出したのが、たこ焼きだった。
匂いと記憶がよぎったのは、流れ星が通り過ぎるような一瞬のことだった。手にしたグラスからはもう、なんの匂いもしなかった。
グラスから顔を上げた四つ婆がうなずき合う。同じ景色を見たようだ。
たこ焼きは10個入りだった。「4で割れんやん」とこもにゃんが不機嫌そうに言った。「5で割れるで」とベニーは言った。たこ焼きには爪楊枝が5本差してあった。ちゃっかり一緒に食べるつもりだったらしい。それだったら、そこは、「みんなで食べて」やなくて、「みんなで食べよ」ではないか。
「5人目のメンバー気取りやったな、ベニー」とヒロ
「最初で最後のファン、ベニー」とおもにゃん
「ベニーて、なんで、うちらのファンになったんだべ?」とすずじゅんが聞く。
「何言うてるん? うちらが焼きそばパンの歌、作ったからやん」とこもにゃん。
すず「だっけー?。どんな歌?」
ヒロ「焼きそばなんか、パンなんか、どっちかにしぃ、いう歌」
おも「そういえば歌った気がするわ」
「うれすがったんかなあ。女子が自分の歌作っでぐれで」すずじゅんがそう言ってベニーの顔を思い出す。その口のまわりが、紅しょうがの名残で赤くなっている。
「どっかずれとったけどな。『四つばばばかり』て、ええ名前や、焼きそばの『ば』が入ってる、いうて」とこもにゃん。
「焼きそば基準」とヒロ
「それはそれで幸せなのかもねぇ」とおもにゃん
すず「なんか偲ぶ会みたいになってんな」
こも「偲ぶ会やん」
こもにゃんにつられて、カウンターの隅に並べた紙袋に目を向ける。カタログギフトになったベニーに、
ヒロは、「なあ、あんた、あれからも焼きそばパン食べてたん?」と聞いてみる。
ベニーが亡くなったと知らせてくれたのは、同級生の連絡網だった。「四つばばばかり」は学園祭の1度きりで自然消滅し、ベニーとは卒業以来、会っていなかった。
「献杯しようか。5人目のメンバーに」
おもにゃんの呼びかけでグラスを持ち上げ、紙袋のほうへ向ける。
ベニーの遺影の下でお焼香をしたときには実感が湧かなかったが、ベニーはもういないのだなと空のグラスを見て思う。ベニーがいたのだな、とも思う。私たちの青春に。そして、今でも。
グラスをカウンターに置くと、「いかがでしたか」とバーテンダーが聞いた。
すず「『四つばばばかり』でした。どういう魔法を使ったんだー?」
「ここは『四つばばばかりBAR』ですから。お客さまが、この店の名前をつけたんですよ」
バーテンダーがにこやかに告げた。4人の「これまで」も「これから」もお見通しのような目をして。
頭の文字のいくつかが読めない看板を見たとき、思い浮かんだのは「四つばばばかり」だった。それしか考えられなかった。学園祭の演奏も、たこ焼きの匂いも、4人のそれぞれの頭の中にはすでにあった。けれど、口に出すことを避けていた。
10分間の持ち時間に耐えられなかった、あの日。4人では割り切れなかった気持ちとたこ焼きを5人で分けた。その味は覚えていないが、久しぶりに思い出した文化祭の後味は、苦味が消えて、随分まろやかになっていた。
こもにゃんが出涸らしの緑茶色の紙袋を引き寄せ、ギフトのカタログをパラパラとめくり始めた。
生活雑貨、キッチン小物など、ありきたりな写真が掲載されていたが…
こも「ちょっとこれ見て」
他の3人もカタログを取り出してページをめくる。
ヒロ「これ、膝枕やん」
おも「今流行ってるよね」
すずじゅん「一人暮らしの息子も持ってるわ。人の言葉に反応してくれる人工知能の膝枕」
こも「むっちゃええやん」
ヒロ「お得すぎやな」
おも「ベニーなかなかやるな」
「偲ぶ会」のしんみりな空気は吹き飛び、店内がわちゃわちゃ賑やかになる。
すずじゅんが、「あっ」と、声をあげた。
老眼鏡を取り出し巻末の注文ハガキに膝枕の番号を書こうとしていた3人の手が止まる。
すずじゅん「ここ見て」
すずじゅんが指差したところを見ると、老眼鏡でも見えるか見えないかの小さな文字で「※ 人工知能は搭載されていません」と書かれていた。
「はぁーーーーー???」
四つ婆が一斉に叫ぶ。
こも「こんなちっさい字読めるかいな!」
ヒロ「パチやん!」
おも「詐欺よ詐欺!」
すずじゅん「べにーーーーー!」
あの日の「四つばばばかり」があったから、今の私たちがある。そのことを確かめ合うきっかけを心のどこかで求めていたのかもしれない。「四つばばばかり」の日の私たちと今の私たちはつながっている。そう思えたら、風船の端っこを持ってもらっているような安心感がある。
階段を昇り、地上に出ると、文字が消えて読めなかった看板は、看板ごと消えていた。
看板があった場所には、小さなお稲荷さんの祠があった。お供え物の油揚げに四つ婆の目が止まる。さては狐につままれたかという顔になる。
「やっぱし化けてたんやな、あのバーテンダー」とこもにゃん
「あれで昭和25年生まれて、ありえへん」とヒロ
「店ごと化けられるの?」とおもにゃん。
「そういうことにしとくべ」とすずじゅんが言い、「な?」と祠に声をかけた。
歩き出した足取りが軽くなっている。ぺったんこの靴で、さっきより大股で歩く。鼻の奥に、学園祭のたこ焼きの匂いがかすかに残っている。
クローバーが風に揺れている線路脇の道にぺったんこの靴の音を響かせ合って、グリーンのベレー帽を揺らした四つ婆が、ぺったんこになったベニーを連れて駅へと歩いていった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?