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わたしの人生をエンタメにするのは、

エンタメ、いわゆるエンターテインメントが好きだ。

人々を楽しませる娯楽。
小説も映画もドラマもアニメも音楽も、みんな好き。

だけど、自分が「エンタメ化」されるのはあまり良い気がしない。


SNSの流行により、良くも悪くも「自分の人生を他人がエンタメ化」する事例が増えてきたように思う。

エンタメ化される代表といえばアイドルだ。そしてそんなアイドルの花形でもあるジャニーズに所属しながら小説家としても活動している加藤シゲアキの『オルタネート』には「他人に人生をエンタメ化」されてしまう高校生が登場する。



高校生限定のSNSアプリ『オルタネート』で人気だったカップルが別れた。

自分のスマホの情報を読み込ませることによって『オルタネート』は学習していく。スマホの操作時間、好きなもの、購入履歴、そういった情報をオルタネートに提供することによって、集めたデータを元に相性が良い人とその割合を%で表示してくれるのだ。

見た目や直感ではなく、オルタネートによるデータで運命の相手と出会いたいと思っている凪津(なづ)にとって、そのカップルの別れはショックだった。
オルタネートが失敗したように感じられたから。

「ご報告」というタイトルで上げられた最新の動画にはカップルの1人しか映っておらず、彼は泣きながら別れたことを報告する。

動画が配信された翌日、彼が学校に来ているのを見た友人は言った。

「いやー、凄まじいわ。でも思うんだけどさ、泣きながら別れた話してるところを自撮りして、編集までしてアップするってさ、なんか異常だよね」(p62)



1、オルタネート信者の凪津
2、オルタネートをやらない蓉
3、オルタネートをやりたくてもやれない尚志

この本は上記の3人をメインにした群像劇だ。

相性の良い人とのマッチング、高校生の料理コンテスト、部活動、文化祭、バンド演奏、シェアハウス、と夢みた青春がぎゅっと詰め込まれていて、終盤で3人の葛藤や焦燥が加速しながら絡み合うシーンには胸が高鳴った。


そんな真っ白な青春の中に、さり気なく落とされた言葉。

「なんか異常だよね」

言った本人にとっては大した意味を持っていないのだろう。
それでも引っ掛かりを覚えてしまう言葉。

「みんな噂してるのに、二人とも全然動じてなくて、びっくりしたよ。やっぱり動画配信で有名になったりする人って、神経どうかしてるんだわ」(p68)

言った直後「ってか冴山さん、」と話題は変わる。
残酷な会話にしないための無意識な軽快さ、かもしれない。

…彼は「異常」で「神経どうかしてる」のだろうか。


別に有名になりたかったわけではない。

自分を発信しているうちに人気が出てしまった。
綺麗に撮影できる場所を基準にデートするようになってしまった。


恋人に「ビジネスパートナーだから」と言われた彼の気持ちは。

恋人だと思っているのに「ダイキだってそうだろ」と言われた彼の気持ちは。

今まで応援してくれていた人たちになんて言われるか分からなくて怖い、と零した彼の気持ちは。


高校生の彼は「ご報告」しなければいけない立場なのだろうか。

自分の肩書きが変わったら、変わったことをちゃんと報告しなくてはいけないのだろうか。誰に?応援してくれている人たちに。では、なんのために?

彼は「ご報告」することを選んだ。
泣きながらでも自分の言葉で話すことを選んだ。
応援してくれたみんなに感謝を伝えるために。


それでも彼の選択を「異常」で「神経どうかしている」と言う人がいる。


自分で発信しているものが、発信した意図とは別の意図で読み取られてしまうことがある。いま書いているこのnoteだってそうだ。100人が読んで100人同じ感想を持つことは無いだろう。だから、発信することは怖い。発信する以上「他人にエンタメ化」される可能性はゼロじゃない。

それでも、いや、それなら尚更、自分が一番自分の人生を楽しみたい。
どうせ「エンタメ化」されるなら自分が一番自分の人生を「エンタメ化」してしまいたい。他の誰にも負けずにわたしはわたしを楽しみたい。


彼の学校生活がその後どうなっていくかは是非本を読んで欲しい。

「ご報告」する必要があるかについて、別件で他の登場人物の視点でも描かれているあたりが群像劇としての面白さだ。


ようこそ2021年。わたしは、わたしを楽しむ。



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