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"信じたい"という欲望|ロマンス暴風域

先日、片桐はいりさんのエッセイ『わたしのマトカ』を読んでいたら自分に通づる部分を見つけた。それは「妙なところで正義感を発揮する」というもの。これは決してポジティブな意味合いではなく、ページを捲るとこう言い換えられている。

そんなふうに、何かの拍子でわたしの中にちょっとゆがんだ正義の味方がやってくる。

片桐はいり『わたしのマトカ』幻冬舎文庫 p162

ゆがんだ正義の味方。この表現が自分にぴたりと当てはまった。自分の中の正義が相手にとって正しいとは限らないし、押し付ける正義はもはや正義なんかじゃない。
そう思った。のに、すぐにわたしはやらかしてしまう。ドラマ『ロマンス暴風域』の芹香ちゃんに対して「ゆがんだ正義」を振りかざしてしまうのだ。

非常勤で高校の美術教員をしている佐藤民生(渡辺大知)が風俗に訪れ、芹香(工藤遥)と出会うところから物語は始まる。いや、出会うだけではない。すぐにさとみんは風俗嬢である芹香ちゃんに恋をする。そこから物語は動き出す。

芹香ちゃんはすごい。とても魅力的な女の子だ。1話時点でわたしもさとみんと同じく恋をしてしまった。安心しちゃうかわいい笑顔、まっすぐで深い視線、ちょっと渇いたハスキーな声、2つの県が混ざった方言でのおしゃべり。

やめとけ、と友人・芝内(内田理央)は言う。嬢に本気になるなよ、と。
それに対しさとみんは言うのだ。「純粋を感じた」と。
わかる、と思った。
わたしも芹香ちゃんに純粋を感じた。

1話のラスト。芹香ちゃんの言葉に思わず「え」って声が出た。たぶん、さとみんと同じ表情をしていたと思う。ああ、『ロマンス暴風域』ってそういうことか、と気付いたころにはすっかり荒れ狂う暴風域に巻き込まれている。

正確に時間を測るタイマーが、残り時間を減らしていくのが切なかった。ほかのお客さんの話なんて、してほしくなかった。自分と話をしているときの芹香ちゃんの笑顔は本物だと思った。仕事だからなんて、嘘だなんて、一瞬たりとも思わなかった。こんなにも、さとみんと一緒に芹香ちゃんを好きになると思わなかった。
好きになる、どころじゃない。
わたしは芹香ちゃんともっと一緒にいたいと思ってしまう。「ゆがんだ正義」を振りかざして、幸せにしたいと思ってしまう。

幸せになってほしい、じゃない。幸せにしたい、だ。
男性主人公にズブズブに感情移入して、こんな欲を持つことになるなんて、と驚いた。そう、これは欲だ。芹香ちゃんを信じていたい、というわたしの勝手な自己中心的な欲望。あれ、芹香ちゃんは、幸せにしてほしいって望んでいるんだっけ?信じたい、ってこんなにも欲に溢れていたんだっけ。

こういう気持ちになるドラマは新鮮で、自分のことがすこし怖くなってしまったほどだった。だけど、どうしたっておもしろい。新たな感情を知る機会なんて大人になればなるほどに失われていくものだから。

1話わずか24分、全5話。
ドラマファンにもハロプロファンにも勧められていた理由がよく分かる。(芹香役の工藤遥ちゃんは元モー娘。メンバー)深夜ドラマのためそこそこ過激です。観るなら1人で観ることをお勧めします。

密度の濃い暴風域に巻き込まれる覚悟のある方は、是非。

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