読書備忘録_1

【読書備忘録】クィア短編小説集からプラハの墓地まで

クィア短編小説集
*平凡社ライブラリー(2016)
*アーサー・コナン・ドイル ハーマン・メルヴィル(他) 著
 表題に対抗的・革新的な意味合いがあり、メルヴィルやドイル等19~20世紀初頭を飾る作家たちの短編を通してクィアに言及する体裁をとっている。小説自体は勿論、作品群に如何なるクィアが含まれているのか、そうした主題探しにも面白味がある。
http://www.heibonsha.co.jp/book/b239698.html


日本漁業の真実
*ちくま新書(電子書籍版 2016)
*濱田武士 著
 漁業問題はよく耳にしても、具体的に何がどう問題視されているのかは案外わかりにくい。そうした「何」と「どう」を漁法・卸売・漁協などの視座から概観する本書は、本邦における漁業問題の入門書に適していると思った。よいとっかかりになった。
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480067708/


方法異説
*水声社(2016)
*アレホ・カルペンティエール 著(本書の表記に合わせている)
*寺尾隆吉 訳
 啓蒙的暴君たる第一執政官の人生を表した本作はラテンアメリカ文学の三大独裁者小説に数えられるだけあり、凄まじい密度を誇る。芸術・美術全般への言及を盛り込む緻密にして重厚な書き込みは圧巻だ。
http://www.suiseisha.net/blog/?p=6262


南十字星共和国
*白水Uブックス(2016)
*ワレリイ・ブリューソフ 著
*草鹿外吉 訳
 短編集の1編が表題に使われているが、南極大陸に建設された新国家を舞台とする同作はむしろ特殊で、全体的に怪奇的・幻想的な物語が多い。扇情性と猟奇性を直に描写する表現法。時代を見越したような発想力。お見事。
http://www.hakusuisha.co.jp/book/b219952.html


ヌメロ・ゼロ
*河出書房新社(2016)
*ウンベルト・エーコ 著
*中山エツコ 訳
 筋だけなら情報操作に明け暮れるジャーナリストの騒動。ところが概観すると虚実入り混じる構造が浮きあがり、作中でも語られる「ニュースのリサイクル」にメタ的な響きを感じて身震いした。小説、なのか。非常に奇妙な小説。
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309207032/


年月日
*白水社(2016)
*閻連科 著
*谷川毅 訳
 大日照りが続く中、1本のトウモロコシの苗を守る老人と盲目の犬の物語。枯渇した大地で繰り広げられる壮絶な生存競争、少ない糧をわけ合う種族の壁を越えた友情、灼熱の太陽に焼かれた大地、農民と自然の戦いが魔術的・童話的・感動的に活写された傑作。
http://www.hakusuisha.co.jp/book/b251315.html


エドウィン・マルハウス
*河出文庫(2016)
*スティーヴン・ミルハウザー 著
*岸本佐知子 訳
 ミクロの世界に踏み込むような細緻をきわめた描写に驚かされた。観測対象の偏執性に焦点が絞られていながら、全体を概観することで観測者自身の視点にも別種の偏執性が浮きあがる構造は圧巻だ。自分自身の規律に忠実な、融通の利かない頑固な2人の人生が印象に残る。
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309464305/


フェティシズム全書
*作品社(2016)
*ジャン・ストレフ
*加藤雅郁 橋本克己 訳
 古今東西、映画に文学に哲学、歴史上の人物にまつわる逸話からマニアックな広告まで網羅したフェチの宝庫。図版1200点。資料としても読みものとしても充実している。それにしても日本に関する記述の多さよ。改めて我が国の文化は変態と縁が深いと実感した。
http://www.sakuhinsha.com/history/23732.html


莫言傑作中短編集 疫病神
*勉誠出版(2014)
*莫言 著
*立松昇一 訳
 全11編を収録した日本オリジナルのアンソロジー。疫病神と呼ばれる整形美人、空飛ぶ嫁、標準語と方言を巡る村内のいざこざ、そうした複雑な主題が歴史的・政治的・風刺的な筆致で緻密に表現されている超良書だった。莫言作品にはずれなし。
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=100356


プラハの墓地
*東京創元社(2016)
*ウンベルト・エーコ 著
*橋本勝雄 訳
 改めて偉人を亡くしたと痛感。実在の人物や資料をコラージュし、歴史小説的体裁をとりながら虚構性を追究する奇妙な構造。ある偽書を主題としているせいか作品自体が偽書的で信頼の境界線が見えなくなる。混乱の面白味。
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488010515


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 読書備忘録ではお気に入りの本をピックアップし、感想と紹介を兼ねて短評的な文章を記述しています。翻訳書籍・小説の割合が多いのは国内外を問わず良書を読みたいという小生の気持ち、物語が好きで自分自身も書いている小生の趣味嗜好が顔を覘かせているためです。読書家を自称できるほどの読書量ではありませんし、また、そうした肩書きにも興味はなく、とにかく「面白い本をたくさん読みたい」の一心で本探しの旅を続けています。その過程で出会った良書を少しでも広められたら、一人でも多くの人と共有できたら、という願いを込めて当マガジンを作成しました。

 このマガジンは評論でも批評でもなく、ひたすら好きな書籍をあげていくというテーマで書いています。短評や推薦と称するのはおこがましいかも知れませんが一〇〇~五〇〇字を目安に紹介文を付記しています。誠に身勝手な文章で恐縮ですけれども。

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