ホラー
その朝、いつもより1時間早く目覚ましをセットし、5時に起きた。
休日にトレッキングに出かけようと思い立ち、天気予報を前日に確認した所、午後から下り坂とあったため、早めに出て早めに帰宅しようと計画していたのだった。
しかしながら、目を覚ましスマホをチェックすると事情が変わった。
男は当初の計画とは違う行動をする事に決めた。
カメラは相変わらず、出かける時に持ち歩くようにしている。
この時も右手に持ち、いつでも撮れる体制にあった。
薄暗いトンネル、未舗装の道。
トンネルを抜けると左手に林が見え、その中には大きな建物が。
「うん?こんな所にあったっけ?」
そう思いながら、近づくと安田講堂にも似た作りの建物で、
中央上部に大きな時計が付いている。
時刻は16時5分で止まっている。
少しペースが遅いな、早く帰ろうと思いつつもその廃墟の美しさは格別で、
「これは撮らないと!」
と一気にカメラマンモードの頭になった。
木々の間から見える時計。
森に還ろうとする建物。
美しい、先ずはズームで時計を…
オートフォーカスが定まらない。
今まで全面的に信頼を寄せていたのに、こんな時に限って。
マニュアルフォーカス時の様に、ズームアップの画像が繰り返しファインダーに映し出される。
違う、違う、とキャンセルボタンを連打し、通常のファインダーに戻すが、意図を無視するかの様にズームアップされる。
そして、カメラは横のままなのにファインダーだけが縦になる。
「ああ、もうチクショ。こんな良い被写体の時に限って、何だよ」
更にファインダーは漫画の様な白黒に。
白バックに、線画になってしまった。
もういいや、マニュアルにしてそのままシャッター押してしまえば良いだろう。
それでも、カメラは撮影を拒むかの様に、ファインダーの画像が途切れる。
迷い込んだだけとは言え、偶然見つけたこの美しい廃墟。
これを一枚も撮らずに帰れない。
林に佇む白い建物。
ええい!もういいから!!
男はシャッターを押した。
その瞬間、さっきまで見えていた時計は
不気味に笑う女性になった…
アッと思い、指を止めようとしたがさっきまでのもどかしさから
強めに押し込んだ指は止まらず。
カシャ。
いつも通りのシャッター音が響く。
もうファインダーにその不気味な笑顔は見えないが、
「うふふ」
とどこからか声がした。
ファインダーから目を離し、林を見るがもう建物はない。
一気に背筋が寒くなり
「マヂカヨ・・・」
そう口走った瞬間、目が覚めた。
寝言で発した言葉だったようだ。
自分の声で目が覚めた。
天気が悪化して、二度寝をかました日曜の朝だった。
全てを記憶している悪夢で目覚めた、本日の朝。
自己肯定が爆上がりします! いつの日か独立できたらいいな…