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オッズから払戻率を推定してみる:WINNER発売記念

スポーツファンのみなさま,めっきり涼しくなり観戦環境が改善している昨今いかがお過ごしでしょうか.

1試合ごとに購入できるスポーツくじ(ギャンブル)ができたってよ.

新しいスポーツくじ「WINNER」が,2022年9月26日から発売開始されました.

1試合の結果のみを対象としたくじです.サッカーの場合,購入項目として各チームの得点の組み合わせを選びます.

WINNER購入画面(一部のスクリーンショット) 名古屋対横浜FM
(https://www.toto-dream.com/landing/winner/ad/index.html)

様々なサッカーメディアもTwitterアカウントでキャンペーンを行っています.

少額購入で,日本版「サッカーマティクス」をやってみようかな…というアイデアが一瞬頭をよぎりました.サッカーの応用数学的側面を網羅的に紹介した書籍で,後半が「自腹でブックメーカーに挑んでみた」という内容です.

(10月に文庫版が出るんですね!調べてみるものです.)

オッズの決まり方

ギャンブルは可能性のある複数の項目に対して参加者が予測を購入し,予測正解者が全購入金額を山分けすることが原則です.簡単な例を作ってみます.

簡単なオッズ例

3個の項目の売り上げがそれぞれ500, 300, 200のとき,それらの全体に占める割合の逆数がオッズ(当選したときの倍率)となります.1000の売り上げがそれぞれの正解に対してすべて分配されることがわかります.

オッズは当選したときに購入金額が何倍になって払い戻されるか,を示した値です.この例では,項目1が当選となった場合,項目1を100購入した人には100x2.0=200が払い戻されることを意味します.

ただ,これだとギャンブル主催者の利益がありません.売り上げの1000をすべて当選者に返してしまっているからです.そこで主催者は「払戻率」を設定し,売り上げのうち一部を利益として取り除いた後の金額を当選者に分配します.(以下参考リンク)

先ほどの簡単なオッズ例で,主催者が売り上げの20%(200)を利益として取り除き,残り80%(800)を当選者に払い戻すとします.オッズを0.8/(割合)とすればこれが実現できます.

簡単なオッズ例:払戻率を考慮した場合

売上比率のみに基づくオッズは(2.0, 3.3, 5.0)ですが,払戻率0.8をかけるとそれぞれ(1.6, 2.7, 4.0)となります.それぞれの払戻金が800となっていることも確認できます.項目1を100購入した当選者には1.6x100=160が払い戻されます.

実際のギャンブルではオッズのみが公開されています.上記の手順をさかのぼることで払戻率を推定することができます.

各項目オッズから払い戻し率を推定する

オッズが(1.6, 2.7, 4.0)と公開されている場合,その逆数は(0.625, 0.375, 0.250)です.これの合計が1.250.その逆数1/1.250=0.8が推定払戻率となります.

WINNERをはじめ各種推定払戻率

JRAは各馬券方式ごとに払戻率を公開しています.(上記と同じリンク)

最近行われた重賞レース(神戸新聞杯)の単勝オッズから払戻率を推定してみると,0.790でした.公開されている払戻率は0.8ですので,端数切捨ての影響(中央競馬のオッズは小数点1桁目まで)がありそうです.

WINNERの初回,10月1日の名古屋対横浜FM戦のオッズから払戻率を推定すると,なんと0.497(!)という値でした.きょう(2022年9月29日)開幕するBリーグの名古屋D対三河でも0.497

実はこんな計算をしなくても,WINNERをはじめとしたスポーツ振興くじの払戻率は公開されています.払戻率は50%です.

ちょっとだけ0.5を下回っているのは,こちらもオッズの端数切捨ての影響だと思われます.
この払戻率の低さでは,どうやって予測を頑張ったところで長期的なもうけを狙うのはほぼ不可能です.たまにお金が返ってくるスポーツ業界への寄付と考えるのがよさそうです.「チケット代にちょっと上乗せして,ひいきのチームが勝ったら打ち上げがちょっと豪華になるかなー」という使い方でしょうか.(少なくとも私はその認識です)

比較してみよう!

ここで紹介した払戻率の推定方法は,払戻率を明記していないギャンブルがどの程度主催者に有利なのか?を推定することに役立ちます.

例えば,上述の名古屋対横浜FMの試合でのpinnacleのオッズに基づいて払戻率を推定してみます.

一目でWINNERとのオッズの違いが明確です.一例として,名古屋1-0の勝利のオッズはWINNERでは8.5,pinnacleでは12.24です(執筆時点).pinnacleの方が1.5から2.0倍程度大きなオッズになっています.

各チームの得点を当てるオッズでは推定払戻率0.885,勝/分/負のみを予測するオッズでは0.971(!)と算出されました.主催者の利益は売り上げの3%以下です.一般的に,最大オッズが大きい(項目数が多い)場合は払戻率が小さく,逆に最大オッズが小さい(項目数が少ない)場合は払戻率が大きいようです.(前述のJRAでもそうなっています)

こういったブックメーカーでは,売上ごとに主催者の利益は薄利ですが,対象とする試合を増やして全体の売り上げを大きくすることで利益を確保していると推測しています.

前述の「サッカーマティクス」では,払戻率の高さという前提のもと,オッズの何かしらの歪みを検出できるのであれば長期的な勝利が可能なのではないか?という発想からブックメーカーへの(自腹での)挑戦が始まっています.繰り返しになりますが,日本のWINNERでは払戻率があまりに低く,同様の企画は無理です.

結論

ということで,WINNERを利用した「日本版サッカーマティクス・ブックメーカーに挑む!」は行いません!!! (続けるごとに勝つ見込みが急速に0に近づいていくのが明白ですからね…)

ただ,サッカーメディアのキャンペーンは元手が0円で,かつ試してみたいアイデアを思いついたので,これには9試合参加したいと思います.結果やアイデアについては試合後に何か書くかもしれません.

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