「勝点のばらつき」についての私の考え方.

概要

・「勝点はばらつくもの」という主張のためのいくつかの道具立てについて書きます.

はじめに

早いものでJリーグが開幕です.サッカー観戦での関心事の一つ,「シーズン終了時の勝点」についてお話します.なんとなく,クイズ形式にしてみます.予想しながら読んだほうが面白いかもしれません.確率の知識があるとよくわかる内容です.

Q1:Jリーグで「引き分け」が起こる割合はどれくらいでしょう?

A1:およそ24%程度です.

Q2:では,同じ実力のチームが対戦したときの勝ち‐引き分け‐負けの確率はどれくらいでしょうか.引き分けの起こる確率は同じとして,ホームアドバンテージは考慮しないものとします.

A2:勝ち負けがつくのは1-0.24=0.76.従って,勝ち‐引き分け‐負けの確率は0.38-0.24-0.38です.

Q3:では,同じ実力のチームが対戦したとき,1試合でそれぞれのチームが得る勝点の平均は何点でしょうか?

A3:3*0.38+1*0.24+0*0.38=1.38[点]です.

Q4:では,全チームが同じ実力で,各試合の結果が他の試合に影響しない(確率論の言葉で言うと,「独立な事象」)としたとき,あるチームがシーズン終了時に獲得している勝点の平均が何点でしょうか?

A4:34試合行われて,それぞれ独立だと仮定しているので,1.38*34=46.92[点]です.

(ここまでは一般的な確率の話(高校の教科書に載っている範囲くらい)です.Q5以降はちょっと発展的かつ私独自の見解が混ざります.)

Q5:勝敗が確率的に決まるとすると,各チームの勝点はばらつくことになります.上記の条件で取りうる勝点とその確率を計算したとき,上位5%と95%はそれぞれ勝点何点でしょうか?

A5:数値シミュレーションを行った結果を示します.横軸は勝点,縦軸はチームの番号です.黒線は上位5%から95%,青線は上位25%から75%,赤丸は平均を示しています.

黒線の両端は34と60です.

本論:勝点はばらつくものである.

ここからがこの記事で言いたい内容になるんですが,実力が同じチームだけで対戦したとしても,勝点はばらつくんですね.

[100人でじゃんけん大会やったときに必ず優勝する人と最初に負ける人がいる,という現象に近いです.じゃんけん大会で優勝者がいるとき,その人が明確に高い技術を持っているとは通常思わないように,少数の試行の結果に差があったことのみを根拠として,もともとのパラメータ(技術など)に明確な差があると結論付けてはいけないのです.もちろん,ある人が100人規模のじゃんけん大会で10連覇,というような成績であれば技術の差について検討する価値はあります.]

ありうる範囲(上位5%と95%)の勝ち点差は16点です.上位25%と75%だと10点です.この計算でわかることは,34試合の後の勝点5程度の差は,実力の差なのか,競技そのものが持っている不確実性に起因するものなのか,を切り分けることはとても難しそうである,ということだ,と私は理解しています.


では,実際のデータに基づいて同様のシミュレーションを行ってみましょう.2018年J1の試合結果から各チームの実力を推定し,対戦時の勝敗確率を求められるモデルを作ります.以下の記事で使っていたものと同じ方法です.

上図がシミュレーション結果です.縦横軸は先ほどと同じ(縦軸は実際の順位ではありません).黒青赤の意味も同じです.各チーム,ありうる範囲(上位5%と95%)の勝ち点差はおよそ25点です.上位25%と75%だとおよそ11点です.ますます,34試合の後の勝点5程度の差は,実力の差なのか,競技そのものが持っている不確実性に起因するものなのか,を切り分けることはとても難しそうである,ということを確信することになります.

もう一つ,試合数が少ないことが,統計的にパラメータを推定する際に不利に働きます.34というサンプル数は,統計的な判断にぎりぎり使えるかどうか,というのが個人的な感覚です.二つの量の間の有意差を調べるとき,信頼区間の重複の有無で判定するのですが,上図では1位と18位しか実力の有意差が判定できないことになります.

そこで,実際には不可能ですが,各チーム340試合後の1試合あたりの勝点を計算してみます.

試合数が多いことは証拠が多いことで,証拠が多くなると信頼区間は狭くなる傾向にあります(中心極限定理とかその辺の話です).平均の相対的な関係は変わっておらず,信頼区間が狭くなっていくので,実力に有意差が有ると判定できる組み合わせが増えています.

ただ,1シーズン後には34試合の結果しか残されないんですよね...

結論:おおらかに応援したい.

選手スタッフ関係者が万難を排したとしても不確実性があるのがサッカーですし,そこがまた魅力でもあります.そして34試合という試合数は実力の差を明らかにするのに多すぎるとも少なすぎるとも言えない,絶妙な設定だと思います.

今シーズンも,「選手スタッフ関係者が万難を排したとしても,勝点±5点くらいは平気でありうる」という気分でおおらかに応援したいと思います.

名古屋在住ゆるグラサポのつぶやきでした.

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