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Jクラブの強さと年月を合わせて評価する:累積伝統値(仮)の算出

Jリーグに参加しているプロサッカークラブ,サガン鳥栖を擁する佐賀県の知事が独自に考案した「伝統蓄積ランキング」を発表し,ツイッターランドのごく一部がざわざわしました.紹介している記者も「謎ランク」と表現されています.

ランキングの算出基準(順位に対する重みづけなど)がかなり雑な印象を受けます.児童・生徒の自由研究であればほほえましいのですが,Jクラブを擁する県の知事が発表してしまうのは特定クラブを過大評価する意図があってもおかしくないよね…という印象を持ちました.

張り合って「ぼくのかんがえたさいきょうランキング」を計算してみた

こうしたランキングの難しい点は,「カテゴリの異なるリーグ(入れ替えあり)の成績を同一基準で定量化する」ことです(JリーグはJ1, J2, J3の3つのカテゴリに分かれていて,J1が最高峰.毎年成績に基づいてカテゴリ間のチーム入れ替えがあります).具体的には,上記資料内にある「J1は100倍,J2は10倍,J3は1倍」「順位と評価値が線形」という定量化基準に何か適切な根拠はありますか?という疑問に答えなくてはなりません.

以下,佐賀県知事さまが気にしておられるであろう要素を考慮し,それを反映させられるランキングを考えてみます.

  • 試合結果,リーグ順位のみを利用する.勝利が多いチームを高く評価したい.

  • 時間軸に対する累積を評価したい.長くリーグに参戦しているチームほど高く評価したい. 

設計方法とかどうでもいいよ,という人はページ下部まですっ飛んでください.

累積伝統値(仮)算出アルゴリズム

以上の要素を満足するため,以下を仮定します.

  • 前提として「それぞれの試合の瞬間に,リーグ全体で一定(例えば,全クラブの合計が1)となるような「伝統値(仮)」」があるものと仮定する.

  • 「伝統値」が試合の結果に依存して両チーム間を移動する

    • チームA, Bが対戦してAが勝利した場合:試合後に以下の規則で伝統値が移動する.Bが勝利した場合はこの逆.

      • (伝統値A:試合後)=(伝統値A:試合前)+1/2*(伝統値B:試合前)

      • (伝統値B:試合後)=(伝統値B:試合前)-1/2*(伝統値B:試合前)

        • ここの「1/2」のみが調整を必要とする値です.佐賀県知事さま考案の,各順位に対する重みに比べると調整が必要な値が圧倒的に少ないです.

    • 引き分けの場合

      • (伝統値A:試合後)=(伝統値B:試合後)=((伝統値A:試合前)+(伝統値B:試合前))/2

      • リーグ初期やカップ戦のPK決着は引き分けとします.

  • 上記の計算をJ開幕後からのすべての公式戦に対して行う.初期値はJ開幕戦に勝利した横浜マリノスのみが1.

  • すべての試合に対してその直後の瞬間的な伝統値(仮)が算出できるので,これを通算して累積伝統値(仮)と定義する.

    • オリジナル10は10チームのみで伝統値をシェアしていた期間が長い一方,新規参入チームは多くのチームでシェアかつ期間が短くなります.

この定義だと以下の性質を満たすため,佐賀県知事さまのご意向に近いのではないかと思います.

  • 伝統値(仮)は上位カテゴリの勝利チームに集まりやすい

    • シーズン内で各カテゴリ内の伝統値(仮)の合計はほぼ保存される.

    • 昇格・降格で伝統値(仮)が移動するが,(多分)移動量が均衡するように調整されている(と思う.未調査)

  • 勝利が多く,参入期間が長いことが有利に働く指標である.

算出結果

上記の処理を実装して(コンピュータが)計算してみました.利用した試合結果は以下です.
・J1リーグ,J2リーグ,J3リーグ,JリーグYBCルヴァンカップ,チャンピオンシップ,J1・J2入れ替え 戦,FUJI XEROX SUPER CUP,J1参入決定戦,J1昇格プレーオフ,J2・JFL入れ替え戦,J2・J3入れ替え戦,J1参入プレーオ フ,明治安田生命チャンピオンシップ

累積伝統値(仮) 1位から20位 (2022/7/8)

ここでもやっぱり鹿島ですか.さすが国内最多優勝回数を誇るクラブです.Jリーグ開幕からあったクラブやタイトル複数回のクラブが続きます.佐賀県知事さまが気にかけておられるであろうサガン鳥栖は19位.我らが名古屋グランパスは7位です.

上位の推移をアニメーションにするとこんな感じです.

実はこのアルゴリズムはUFJC(非公式サッカー日本チャンピオン)のアルゴリズムの焼き直しなので,その在位試合数と似た結果になります.UFJCでは「在位」=1を持つのが1クラブのみであるのに対し,伝統値(仮)は0から1の連続値を全クラブでシェアするので,伝統値(仮)の方が表現の細やかさに優れています.

名古屋までのトップ7クラブの累積伝統値(仮)の推移を示します.それぞれのクラブのいい時期に伸びており(例:浦和レッズの2014年~2016年,川崎フロンターレの2020年以降,など),(適当に作った割には)いい感じな指標に見えます.

累積伝統値(仮)上位7クラブの推移 (2022/7/8)

21位以下を示します.皆様の推しクラブの順位は納得できるものでしょうか?

累積伝統値(仮) 21位から40位 (2022/7/8)
累積伝統値(仮) 41位から63位 (2022/7/8)

既知の課題

以下,既知の課題です.

  • 活動停止チームの扱い.(横浜F,U-23,J-22)

  • 常に瞬時的な伝統値の合計が1のままでよいのかどうか.

  • 勝敗時の分配の係数は1/2でよいのかどうか.

  • 累積の単位を期間(日数)とするべきかどうか.


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