就活遠征の合間に

 水上バスに乗るのは記憶にある限り初めてだった。遊覧船は乗ったことがあるけれど。

 私はちょうど就職活動の真っ最中で、あと何社かの試験を控えているところだった。地方在住だった私は、東京の親戚の家に居候しており、就活の合間に東京観光をしようと思い立ったのだった。

 桜が美しく咲く浅草寺の波止場から、隅田川をくだる。無数のビルのあいだにスカイツリーが見える。いくつもの橋の下をくぐり、浜離宮へとたどり着く。浜離宮は菜の花が見頃だった。目にも鮮やかな黄色は、観賞用でも食用でも私をご機嫌にさせる。

 春の日差しの下、花畑の中を歩きつつ、将来に思いをはせる。

「どの会社も落ちたらどうしよう」
「来年の今頃は何をやっているんだろう」

 のどかな景色とは裏腹に、私の心中は不安の嵐だった。結局その後、なんとか職を得たのだが、あの必死の就活遠征の合間の、霞みがかった春の東京観光の記憶は、今でも不思議と私の中に残っている。

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小波 季世|Kise Konami

随筆家。徒然なるままに徒然なることを。フリーで編集やライターもやっています。 平成生まれ。大学では文化人類学を専攻。

旅にまつわるエトセトラです。
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