酒田 紺

小説を書いたり愛鳥を愛でたり文具やガジェットで遊んだりする。 Twitter→http…

酒田 紺

小説を書いたり愛鳥を愛でたり文具やガジェットで遊んだりする。 Twitter→https://twitter.com/sakatakon Site→http://kon.blue

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  • 今日はまだ夢の中【サンプル】

    短いお話を詰めました。2019年11月の文学フリマ東京で頒布したショートショート小説集のサンプルです。

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23グラムの幸福

人間の魂の重さは21グラムなのだという。昔の、眉唾物の研究によると。 私の飼っている幸福は、それより少し重い23グラム。名前はまる。 白と赤のコントラストが美しい、白文鳥の形をしている。 手のひらサイズの文鳥の中でも、ひときわ小さい男の子だ。 小さな小さな鳥に、私が救われた話を聞いてほしいと思う。 --- まるちゃんと出会ったのは動物に癒やされたくて入ったペットショップだった。 手乗りにしつけられた物怖じしない鳥たちの中で、ひときわ元気に、そして熱烈にアピールをしてき

    • 私のブルーデイの救世主、吸水ショーツの話をさせてほしい

      生理中のデリケートゾーンの肌荒れに悩まされ続けて十数年。ついに救世主が現れたので聞いてほしい。これはダイマです。 女神の名前は『吸水ショーツ』。 マジでマジでマジで良かった。 肌荒れからも不快感からも綺麗に解放された。しかも女神はユニクロに売ってる。二千円くらいで。 というわけで、誰にも頼まれていないのに吸水ショーツの魅力をお伝えしていきたいと思います。 皆使って、あわよくば市場広がってほしい。かわいいやつとか、気軽に買えるようになってほしいので。 また、魅力を紹介する

      • テレビを楽しめない女の話

        若者のテレビ離れが叫ばれて久しい昨今、テレビ業界は度々批判にさらされているようだが、これは全然、そういう話ではない。 元々あまりテレビ好きではなかった私が、その理由に気づいた時の話だ。 実家ではいつもなんとなくテレビがついていて、だから私も、実家暮らしの頃は見るとはなしにテレビを見ていた。 毎週楽しみにしている番組などはなくても、朝のニュース番組は時計代わりだったし、情報番組を見てぼんやりとこんなものが流行っているらしいな、という情報を得ることもあった。つまりテレビを見なく

        • 私はセルフレジが好きです。

          本屋で会計をするとき、友人がセルフレジは嫌だと言った。 面倒だし、店員が提供するべきサービスを客側に押しつけているだけでは、というのが主張で、納得するより先に驚いた。そんな事考えもしなかった自分自身に。 確かに自分で手を動かすのは、面倒と言えば面倒だ。レジ打ちが「店員が提供するべきサービス」かどうか断言出来ないけど、確かに元々当然のように提供されてきたものではある。本屋だと、定価販売だから人員削減されればその分利益になるわけだし。そんなに突飛な主張でもない気がする。 で

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        23グラムの幸福

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        • 今日はまだ夢の中【サンプル】
          6本

        記事

          あの日君と見た朝焼けみたいな

          「綺麗」という言葉が好きだ。 「キレイ」でも「きれい」でもなく、「綺麗」。 大抵の言葉は漢字とひらがなで印象が違うけど、「綺麗」という言葉はその中でもぶっちぎりのトップだと思う。 例えば、洗剤の広告に使われるのは圧倒的に「キレイ」。 「きれい」と「綺麗」の用途にはそこまで差がないけど、「きれい」は整っていること、「綺麗」は美しいことに使われることが多い。気がする。 いやここは異論がある人も多いだろうけど、少なくとも私はそう思っていて、だから私が小説を書く場合、主人公が朝焼

          あの日君と見た朝焼けみたいな

          スーツケースを抱える人の群れに

          連休最終日、電車に乗る人々はスーツケースを抱えている。 しかも、大体、でかい。コナンの映画なら、コナンくんが入っているくらい。 きっと帰省していたのだろうな、と想像して、けれど私の想像はそこで終わる。私には帰省するという経験がないから。 実家を出てはいるものの、実家まで徒歩圏内なので帰省という距離でもないし、祖父母の家に遊びに行くとか、親戚の家に集まる、というような経験もない。 おかげで帰省ラッシュに揉まれずに済むし、この歳になっても結婚がどうたら言われることもない。 今年

          スーツケースを抱える人の群れに

          明日は休みだから、毛糸を買って帰った。

          勤務状況が不安定過ぎるので、次の通院までおやすみしましょうということになった。次の通院は月曜日。案外近いが、それからすぐ復帰できるとも思えない。 たったの三時間で出来るところまで残務を片付けて、引き継ぎはやってられないから分かりそうな他の人に投げた。もしかしたら一週間くらいで戻れるかもしれないし、という、淡い期待を胸にして。 と、言うわけで。明日から連休です。もう今日か。日付が変わってしまった。 いつも休みの日は小説を書いているんだけど、ここの所疲れてしまってうまく書けない

          明日は休みだから、毛糸を買って帰った。

          【小説】ねえ、先生

           先生。ねえ、先生。  わたしのことどうか嫌ってみせて。 「中東に住んでいた頃は、サソリだって見慣れてたんだけどね。毎朝靴の中に入り込んでないか確認するのが日課だったんですよ」  子どもの頃、世界中を点々としていたという先生は、恥ずかしそうにそう言った。今はすっかり、虫は苦手になってしまいましたねえ。生物の先生らしからぬ言葉に、教室の中に笑いが起きる。  わたしはちっとも面白くなくて、ノートの隅にサソリの絵を描く。しっぽのところがむちむちとした、毒々しい、かわいくないサソリ

          【小説】ねえ、先生

          【小説】ルージュ

           ルージュを引いて学校に行った。  悪いことをしているわけじゃないのにどきどきして、教室に入ってからもあたりを伺ってばかりいた。ペットボトルの飲み口にうっすらピンクが残るのが後ろめたかった。 「今日ね、メイクしてきたの」  隣に座った友達に、待ち構えていたように報告する。今日なんか違うね、なんて言われた日には、恥ずかしくて消えてしまうんじゃないかと思ったから。  薄いなー、と彼女は笑って、私の口の端を拭う。「メイクしてる時はこすったらだめだよ」そう言う彼女の顔は私よりずっと大

          【小説】ルージュ

          【小説】「これは、保存用」

           彼はよく写真を撮る。  例えばおいしかったパスタ。例えば綺麗だった月。例えば高得点を取ったゲーム。  スマホで撮った、工夫も加工もほとんどない画像を送りつけては感想をねだる。  最初は恋人と何でも共有したいめんどくさいタイプかと思っていたけれど、話を聞くとちょっと違う。わたしだけでなく適当に知り合いに送っているようで、つまり、こいつにとって写真というのは、単なる世間話の延長に過ぎないらしいのだ。  世間話を忘れていくように、送った写真は端から消していくようで、彼の写真フォル

          【小説】「これは、保存用」

          【小説】彼女と海を見に行く話

           海へ向かう道には僕たちしかいなかった。  青々とした夏空に、白いワンピースがよく映えた。 「その歌、何」  僕が聞くと、彼女はきょとんとした顔で振り返る。 「昔の、CMの歌だって」  それだけ答えて、また歌いはじめる。少し間の抜けた明るい曲。合間に荒い息が混じるのを聞きながら、僕は気づかないような振りをして、細い脚がゆっくりと前に進むのを追う。  針葉樹の群れを右手に、熱されたアスファルトを歩き少し勾配のあるカーブを抜けて、彼女が立ち止まる。 「海だ」  幼い、子供のような

          【小説】彼女と海を見に行く話

          【小説】素敵な人

           さちの恋人は素敵な人だ。  優しくて、真面目で、ちょっとユーモアに欠けるところもあるけど、穏やかで紳士的な、いい人。  一流企業に勤めて、広すぎずそこそこ立地の良い1LDKに住んで、すらっとした体にセミオーダーのスーツをまとっている。顔は取り立ててかっこいいわけじゃないけど、清潔感があって優しげだ。  こまめに連絡を取り合い、毎週のようにデートして、たまにさちの手料理をねだる。普通の日にしては手の込んだ、けれど平凡な料理をほめちぎり、また作ってと約束を取り付ける。月に1度は

          【小説】素敵な人

          【小説】ネオンピンクの朝焼けを

           絵の具をたっぷりつけた筆がキャンバスの上を走る。迷いなくピンクの軌跡を残し、またパレットの上に舞い戻る。  先輩は、僕のことなんて忘れたように、ただ黙々と筆を操っている。僕はその手元を目で追いながら、部屋の隅でじっと息を殺す。  燃えるように赤い森、海のように青い家々、金色に輝くコンクリートジャングル。あちこちに散らばる絵は、どれも先輩が描いたものだ。どれもこれもすべて、デッサンが狂っていたら何を描いたか分からないような、奇抜な色使いをしている。  今日は一心不乱にピンクを

          【小説】ネオンピンクの朝焼けを