見出し画像

めちゃくちゃ治安の悪い中学校の出身だから

僕はめちゃくちゃ治安の悪い中学校の出身だ。
ビーバップハイスクールに出てくるような不良がうじゃうじゃ生息……もとい在学している中学校だ。
テレビで『沖縄の荒れる成人式』とか特集される、あの人たちが平気な顔して通っていたのが我が母校なのである。

付近の小学生は『○○中学校に近づくときは必ず親と一緒に』と警告されるほど、その中学校は危険視されていた。
不用意に近づいたがために不良に葉っぱを渡されて、『これでタバコ買ってこい』と脅されたという友人もいた。
そこに住む不良たちの通貨は葉っぱなのだ。もはやタヌキの発想である。人類の常識が通じようはずもない。

それほどに危険で、幼い頃には『絶対に近づくな』と言われ続けてきた中学校に入学させられたのだから当時は気が気ではなかった。
入学式の日には校門に『入学おめでとう!』と華やかな立て看板があったが、こちらの気持ちとしては『入学』ではなく『収監』である。
校門の横で白骨化したニワトリの死骸を眺めながら、これから三年間このマッドマックスの世界観でどうやって生きていこうかと、そればかり考えていた。

一応、今その中学校に通っている学生たちのために弁明もしておこう。
治安が悪かったのはあくまで僕が通っていた当時の話で……いや、僕が通い始めた頃にはすでに状況は沈静化しつつあった。
かつては生徒の8割が不良とまで言われていたが、僕の代になると2~3割にまで減っていたように思う。

それでも当然のように学級崩壊は起きたし、他校と集団で喧嘩が発生したり、ちょっとここには書けないような事件が起きたこともあった。
だけど先生方や保護者会の努力で中学校は徐々に平和になっていき、今ではどこにでもある普通の中学校になっていると聞く。
うちの弟たちも無論同じ中学校の出身なのだが、このあいだ母校の話題を出してみたら大きく認識が食い違っていた。

僕『一年生が通ったらボコボコにされる階段あるじゃん?』
弟『無いよ……なにそれ……』
僕『ホラあの、よく不良がタバコ吸ってる教室のとこ』
弟『中学生がタバコ吸わないでしょ』
僕『いや、それはそうなんだけど……』

聞けば、8つ下の弟の代にもなると『○○中学校は不良の巣窟』というイメージは綺麗さっぱり消え去っていたらしい。
不良なんて"授業中に堂々と寝る田辺くん"レベルでしか存在しないらしく、我が母校はすっかり真面目で清らかな普通の中学校になっているという。
まぁこの記事内で学校名を明かすつもりはないので後輩たちの弁明をしても仕方がないのだが、聞く人が聞けば見当がつくかもしれないので念のため『あくまで昔の話であって、今の在学生は無関係』だということを明記しておく。


さて、そんな恐ろしい中学校に入れられてしまった僕は、意外にも何事もなく無事に卒業することができた。
もちろん僕は不良ではない。どこのクラスでも一人はいる、"休み時間にやることなくて机に突っ伏して寝たふりをするタイプの男子"をイメージしてもらえれば学生時代の僕の想像がつくだろう。
まぁ、授業中も机に突っ伏して寝てたんだけど。それこそ"授業中に堂々と寝る田辺くん"レベルの不良ではあったのかもしれない。弟の代ならデカい面ができただろうに。

しかし不良たちは、決して僕らのようなスクールカースト最下層のメンツをいじめたりはしなかった。
どうも往年の不良漫画などで常識を学んだらしい彼らの都合上、同じ学年にいる僕は『"仲間(ダチ)"』にギリ該当していたからだ。
だから僕は恐ろしいのをグッとこらえて"仲間(ダチ)"のフリをすることで不良の餌食にならず、過酷な自然界を生き抜くことに成功したのである。生き残り方がナナフシのそれ。

ところが"仲間(ダチ)"のフリをし続けたしっぺ返しが最後の最後に僕を襲う。
それは高校受験当日のことだった。僕が受験したのは、まぁこれも学校名を伏せるが地元ではそこそこ有名な不良校だった。
なんで不良じゃないのに不良校ばっかり行くの? と疑問に思われるかもしれないが、なにぶん僕は"授業中に堂々と寝る田辺くん"の異名を持つ漢なので頭の出来が不良なのである。
ありていに言えば、授業をさっぱり聞いていなかったので不良でも受かるような底辺校に進まざるを得なかったわけだ。

有名な不良校なので、受験会場には県内各地から有名な不良たちが集まってくる。
なかには平成の世とは思えないほどボリューミーなリーゼントの生徒もいて、『おいおい受験当日にその髪型……! 受かる気ゼロかよ……!』と畏敬の念を集めたりしていた。

そんな具合に不良だらけの会場にあっても、我が母校は注目の的だった。
制服を着て会場内を歩いていると、そこかしこから『おい……○○中だぜ……』等とウワサする声が聞こえてくる。
スポーツ漫画で強豪校が会場に到着したときのアレを体感できて、正直気持ちよかった。問題はうちが不良の強豪校だったことなのだが。

しかしそれだけ注目されてしまうと、特に不良でも何でもない僕は困ってしまう。
そう、同じ学校の不良から下手に離れてしまうと、他所の不良に絡まれてしまう可能性120%だったのである。
捕食者は常に弱そうな個体から狙うもの……ハリーポッターみたいな眼鏡をかけ、学年で一番身長が小さかった僕は、明らかに他校の不良(ディメンター)たちの恰好の的だった。

僕は不良の群れからはぐれないよう、必死こいて『僕も不良ですが何か?』みたいな顔をしながら受験会場を歩いた。
群れの先頭をゆく不良の『っんに見てんっオイッッ!』という鳴き声に合わせて、僕も一応『やってやんぞコラ!!!!』と心の中で念じておいた。いざとなればエクスペクトパトローナム打ちますよ、という気持ちで。
それから、どうも不良たちは服装のだらしなさで強さをアピールしているようだったので、申し訳程度に学ランの第一ボタンだけ開けておいた。

そんな涙ぐましい努力の結果、僕は見事に不良の群れに加わることができた。
朝は『教ッどこッッじゃらッッ』という群れのボスの掛け声に会わせて動き、危なげなく試験会場を探し当てることができた。
昼は『メシッッ食ッぞッらッッ』という群れのボスの掛け声に合わせて動き、彼らの縄張りで安全に昼食を取ることができた。

そして試験終了後は『なんッッ!ッラテメッッ!!!』という群れのボスの掛け声に合わせて移動してみたら、他校との喧嘩に巻き込まれた。

他校との

喧嘩に

巻き込まれた。

"授業中に堂々と寝るナナフシ"の異名を持つ僕でも、これにはお手上げである。
いくら僕が不良に擬態していたからといって、マジの喧嘩が始まってしまったらもう成す術がない。
擬態はあくまで擬態。必死で枝のフリをしたからといって、ナナフシから花は咲かないのだ。

僕は恐怖で震える体を抑えながら、すぐさま第一ボタンを閉めて群れから離脱した。
それから『僕は不良じゃありませんけど何か?』みたいな顔をしながらそっと受験会場を後にした。

その日は何事もなく帰宅することができたが、『あの人たちと同じ高校に行くのか』と思うと夜も眠れなかった。
不良だらけの中学校を無事に生き残れたと思ったら、引き続き不良だらけの高校に通う羽目になるとは……マッドマックス2、ここに開幕である。


ところがそんな心配をよそに、その後三年間 僕は中学校時代よりもずっと穏やかな高校生活を送ることになるのだった。
受験会場でケンカしていたあの人たちは、普通に落ちていたから。

すっかり落ち着いて普通の大人になった群れのボスに会い、思い出した懐かし怖いお話。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

33

昆布山葵

世界でも有数のヌンチャク使いです。僕くらいのレベルになるとヌンチャク無しでも生きていくことができます。

コスミックキノコ

思いついたことを何でもかんでも書いていきます。
1つ のマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。