駐車違反の常習犯を撃退した方法

今の家に引っ越してきたのが、たしか5~6年前だっただろうか。
那覇市内にしては(たぶん誰か死んでんだろうなってくらい)安いこの借家の家賃には、1台分の駐車場料金が含まれていた。
車を持っていようがいなかろうが、家賃を払っている限りは歩いて数分のところにある駐車場を自由に使えるようになる。
この条件は、引っ越してきた当時は車通勤をしていた僕にとってありがたいものだった。

しかし、僕に割り当てられた駐車場には大きな問題があった。
仕事から帰ってくると、かなりの確率で知らない人の車が勝手に停まっていたことだ。
停まっているのは決まって黒の軽ワゴン。運転手の姿を見たことはないが、毎回同じ車が駐車場を占拠していたのだった。

うちの周囲は土地が狭いため、勝手に駐車場を使われてしまうと他に停めておく場所がない。
ちょっとした空き地があれば一旦そこに停めておくこともできただろうが、そういった余白がまったく存在しない街なのだ。
道端に停めておこうものなら10分と経たずにポリスメンがすっ飛んできて、問答無用で駐車違反を取られるような厳しい街でもある。
まぁそういう土地だから、人の駐車場を勝手に使おうと画策する輩が出てきてしまうのも仕方がないのだろうが。

とはいえ、僕だって鬼ではない。
件の軽ワゴンが「知り合いの家に届け物をする間の5分だけ停めさせて~っ(汗)」くらいの存在であれば、許容してもいいと思っていた。
ちょうど僕が帰ってきたタイミングで停まっていた場合はクラクションをひと鳴らしして、その辺をぐるりと一周回ってきてみる。
それで慌ててどいてくれるような方が持ち主なら、大して怒りもしなかった。

…が、この車の持ち主が5分で帰ってきたことなど一度もなかったのだ。
酷いときは2時間経っても戻ってこず、結局この駐車場の主であるはずの僕が根負け。自宅から歩いて15分も離れたコインパーキングを利用する羽目になったこともある。
なんで自分の駐車場があるのに、知らん人のために2時間も無駄な時間を過ごした挙句、コインパーキングの料金まで払わんといかんのじゃ…!と、このときばかりはさすがにキレた。

この状況が続くようでは今後どれだけの時間とお金がかかるか知れないので、黒の軽ワゴンの持ち主に警告を出すことにした。
僕はポケットに入っていたメモ帳を一枚ちぎり、黒のボールペンで『ここは契約駐車場です。無断で停めないでください』と書き、違反車のワイパーに挟んでおいた。

まぁ僕が引っ越してくるまで長らくこの駐車場は使われていなかったのだろうし、黒の軽ワゴンの持ち主も「空き駐車場だろう」と思って停めていただけかもしれない。
実害があっただけに腹も立ったが、悪意がないならこの警告文を見て反省してくれるに違いない。…そう思っていた。

翌日。

はたして、黒の軽ワゴンはいつものように我が家の駐車場に停まっていた。
それだけでもキレそうだったわけだが、さらに僕の神経を逆なでしたのが、昨日の警告文がクシャクシャに丸められて駐車場に捨てられていたことだった。
悪意がなければ許そうとは言った。けどコイツ完全に悪意の塊じゃねぇか。許さぬ。絶対に許さぬ。

僕は昨日と同じようにメモ帳を取り出し、そこへ赤のマジックでこう書いた。

『おぼえた』

それを昨日と同じようにワイパーに挟む…とまたアッサリすてられてしまうかもしれないので、運転席側のガラスに挟んでおいた。

こういう紙を貼っておけば、黒の軽ワゴンの持ち主もきっと『やべぇ奴に絡まれた』と思ってくれるのではないかと思ったのだ。
世の中、何が怖いってお化けでも猛獣でもなく狂人が一番怖い。黒の軽ワゴンの持ち主に、ここは狂人の住処なのだと思い込ませればきっと近寄らなくなるだろう。

とはいえ相手も、まともな警告文を一発で丸めて捨てるような狂人だ。一筋縄ではいかないだろう。
狂人VS狂人のやべぇバトルになることは予想できたが、当時の僕は会社が嫌すぎて若干病んでいた…ありていに言えばマジでちょっと狂人だったので、このバトルにも意気揚々と参戦するつもりでいたのだった。

…あれから5~6年の月日が流れた。
黒の軽ワゴンは、あれ以来ただの一度も僕の駐車場を占拠することはなくなった。
今にして思えば、あの車の運転手はマナーという概念が欠落していただけで、それほど狂人でもなかったのかもしれない。
少なくとも『おぼえた』という意味深なメッセージを読んで何らかの危機感を覚える程度には常識を持った人物だったのだろう。

あれから我が家の駐車場に、露骨な違反車両が現れたことは一度もない。
思えば、僕が近所を歩いていると奥様方がひそひそ話すようになったのもあれくらいの時期からだったかもしれない。
いつでも自由に駐車場を使える権利と引き換えに何かを失った気もするが、まぁやっちゃったもんは仕方がないので後悔はしていない。

後悔はしていないが、皆さんには強くこう言っておきたい。
奥様のネットワークって想像以上にえげつないので、近所であんまり奇行に走らないほうがいいよ、と。

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