旅と絵

旅は好きで学生の頃からよくしたと思う。

自転車で北海道や本州をずっと旅したりヒッチハイクをしたり。


そして絵描きになってからは絵のおかげでたくさん旅をするようになった。絵がいろんなところに連れて行ってくれる。


旅の中で何が好きかというと人と出会うことのような気がする。



そしてもう一つ。

特別な観光地でもなくて、スペシャルに美味しいものを食べたときでもなくて、、、ただなんともない瞬間にやってくる何か言葉にならない感情。

(あぁ、このシールは一生覚えているのかもしれないか)とか(なんかこのシーンをずっと待っていたような気がするな)

というような感情。それらはその瞬間に確かにそこにあるのだけど時間とともに薄れていってしまう。匂いのようなものだけが残っていく。

そんなものを絵を表すことができたらいいなと思う。それも個展用のような丁寧に仕上げていくような絵ではなくて、ほとんど無意識を使うように瞬間的にスケッチがいいんだと思う。



今年は3月の終わりから4月の上旬に台湾に行くことが決まっている。台北で個展があり台南・高雄でライブペインティングがあるのだ。台湾はずいぶんと縁があって今までに2015年、2016年、2017年と個展とライブペインティングをしてきた。今年の2019年で4回目だ。

しかし台湾に初めて行ったのは僕が鳥取大学の大学院の修士課程2回生の時なので2002年だ。それは僕の恩師と行った。先生は森林学といって森林を研究されていた。僕はそこで学んでいた。先生の専門は一つは鳥取のローカルの山村の人と森の付き合い方であった。しかしもう一つ、国際的な森林の取り扱いのルールにもNGOの立場で積極的に関わっていて海外の森林についても興味を強く持って入られた。

それで台湾の森林を見に行くことになり僕ともう一人の大学院生も誘われて一緒に行ったのだった。


目的地は阿里山だった。それは一つは森林鉄道という日本政府の統治時代に作られた森林資源を運ぶ鉄道を見たかったこと。そして阿里山の針葉樹林を先生が見たがっていたからだ。

先生はちょっと不思議な人で本来研究者が森林をみるということになると研究機関や大学など公式なところに連絡をとりその方に紹介してもらうというのが一般的であると思う。


しかし先生は「ただフラッと行こう」というのである。「ただ見てみよう」と。

それが何になるのかわからなかったけれど、研究にどうつながるのかわからなかったけれど僕は先生が好きだったし(そんなものか、、、)とついていった。

そして我々は森林鉄道に乗り阿里山を歩くことになる。ただただ歩くのである。先生は時々「立派ですねぇ」とかいう。僕たちも「すごいですねぇ」とかいう。

そんな風にして1日が終わった。

そしてその日は阿里山にあるホテルに泊まった。次の日はどうなるか僕には全くわかっていなかった。

そして朝、僕は先生に散歩に誘われた。

「近藤くん、少し散歩をしてみましょう」「はい」

それでぶらぶらしていたらちょっと不思議なところについた。木々に覆われた石畳の空間がある。そして男の人たちが数名お茶を飲んでいるのである。


先生はその人たちに声をかけた。しかし先生は中国語ができない。ただ声をかけたのである。

するとその人たちも返事をした。

先生は「ヤァ、ヤァ」なんていう感じでさらに会話を進めて行く。向こうのかたたちもそうだ。

そんな風に会話をしているうちに先方は我々にお茶を出してくれて、先生は森林の研究をしていることを伝えていた。すると先方はとても喜んだ。彼達はここら辺の森の管理をしている方達だったのだ。とてもニコニコとして先生と一緒に身振り手振りで地図を見せたり笑いあったりしているのだ。

僕はその様子をちょっと後ろで見ていた。

なんか不思議な童話のようだった。

そんな景色は20年も前なのに時々頭の中にふっと蘇る。

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