ゆっくり

個展が始まって1週間。今日は久しぶりの休日だった。
 

お昼には父さんとジョイフル本田というホームセンターに行った。画材が充実しているので画材は大抵ここで買う。

その後、自転車で利根川の土手を少し走った。関東平野が広く、空は高いところに白い雲が薄く広がり低いところには灰色の雲のかたまりが素晴らしい速度で流れていた。そしてその隙間から光が下にこぼれていた。

今回の個展のタイトルは「slow」にした。

絵にゆっくりとした時間が流れればいいなと思ったのだ。

そのゆっくりとした時間とは僕たちの日常の感覚とはまた違う、自然や神秘の中に漂う時間感覚。


それに近いものを絵でも描かればいいなと思った。


そしてもう一方で「slow」は僕の生き方も反映されている。



思えば、僕はゆっくりなことが好きだし、そしてゆっくりに物事を進めるのが得意だ。いや、得意というか癖としてそうなってしまうというか。。。


これは母の影響もあるかもしれない。

小さい頃、僕の自転車がパンクした時。僕はその自転車を自転車屋さんに持って行かずに、パンクの修理セットを買ってもらってそしてそれを自分で直した。しかし、初めてのことだし誰かに教わったことではないから、それはとても時間がかかった。半日ぐらいかかったのかもしれない。

しかし僕はゆっくりと時間をかけて直した。昼間ぐらいから初めて夜の暗い時間まで玄関でそれを直した。少し進んでは止まって、少しは戻って。その繰り返しで直した。

それを見て、かあさんは褒めてくれた。「康平は諦めずにゆっくりとやるから偉いわね」と。 


そんなことをまだ覚えているから小さい僕はとても嬉しかったんだろう。

思えば人生の歩みもゆっくりだ。

高校では大して勉強しなかったから成績が悪かった。僕の高校は生徒数が多くて1学年700人くらいいたと思うけれどその中のビリの方だった。しかし高校三年生の時に突然「砂漠の緑化の勉強をしたい」と思うようになり、そこから鳥取大学を目指すことになった。そして大学に入るまで2浪をすることになった。

大学に入ってからは森林学の面白さに目覚め大学院まで進学することになった。ユニークな性格の教授に出会い、その先生のもとで勉強した。その先生の変わった助言もあり就職活動をすることなく卒業したので、僕にはどこにも就職先がなくまずはアルバイトから始めた。最初にやったのは花屋さんのバイトだ。その時が26歳。

そのあと1年後に絵本屋さんで働くことになり、そのずっと後に絵を描くことを覚え、そして絵描きになったのは6年ぐらい前かな。

ゆっくりと人生を進んでいる。そして思いもよらない方向に進んでいる。

これも母さんや父さんの言葉が大きく影響している。

二人とも小さい頃から僕に「康平は大器晩成型だからゆっくりでいいんだよ」とよく言っていたのだ。

そして呑気な僕はそれを素直に受け取っていた。成績が悪くても、人生の流れが滞っていても(そのうちになんとかなるのだろう)と呑気に構えていられたのも二人の言葉のおかげだ。

僕はゆっくりとゆっくりと自分のペースで自分の発見したやり方で物事を進めそして達成するのが好きなんだ。なんていうか人生を発見し続けてるような感覚だ。
なんというか長時間かけて実験をしているような気持ちでもある。

変わった人生になったなと思うけれど、それも今でも心の中には母さんの(康平の速度で康平のしたいことをすればいいのよ)という声が聞こえる。そして父さんは日々静かに僕を見守ってくれれている。

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