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1年前にスタートした小さなスタジオ起業に技術スタッフとして参加した。
稼働率も上がらず開店休業状態のまま、ヨソの会社へ譲ることとなった。
最初から無理があると感じるビジネスプランだった。
起業者は壮大な夢を語るも、果たしてどうだろうと皆不安に思いながら、それぞれの役割を果たそうとした。
僕は機材オペレーターとして参加した。機材の設置から始まり、何度か練習をするも、本番は数えるほどで結局終わった。
最初は、かつてお世話になった元上司からのお声がけで参加した。
一緒に活動できるのは、懐かしく、嬉しくもあった。
だが、結局は一年を持たずして終わることになった。
ヨソの会社へ機材の説明をしながら引き渡しをした後、昼食を元上司とご一緒した。
「兵どもが夢の跡、だな」
残念な結末となり、何を話せばいいか言葉に詰まり、二人とも静かに食べていた。
もしかしたら、もう会うことはないかもしれない元上司。時を隔てて、二度一緒に仕事できたのは縁であり、感謝すべきことだと思う。
「人生あっという間だよ。つい最近60になったと思ったら、もう70だしな」
そのさらりと言った言葉が妙に説得力を持った。
ごちそうさまでした、僕がお礼を述べた後、
「それじゃな」
元上司は去っていった。

今回の起業は周囲に不安を抱かせる無謀なものであったかもしれない。
では、その起業を行動に移すべきではなかったのだろうか。行動に移さなければ経済的損失は避けられただろう。でも思いはずっとくすぶったままに人生を終えてしまうかもしれない。そして、その思いがなければ出会わなかった人や経験も多くあるだろう。僕も、元上司と再び一緒に活動することもなかった。
ただ、きちんと市場をリサーチしてニーズがあるか、自分の武器は何かなど現実を見据えた戦略はもっとあって良かったかもしれない。

巷では、起業した人が10年後も活動を続けていけるのは2割程度だと言われている。それほど起業は厳しい。その数字に尻込みするようなら止めるべきだし、それでもいいから挑戦したいと思える人が起業すべきだと思う。
自分も会社を辞めてフリーランスになり2年が経とうとしている。いつまで続けられるかは正直分からない。
ただ、後悔したくない。自分の気持ちに正直に生きたい。そう思い、フリーランスを選んだ。その選択においては今のところ後悔していない。

「夏草や兵どもが夢の跡」
松尾芭蕉の俳句。
志半ばにして散るのは悲しいことかもしれない。
でも、己の志を無視して生きるのはもっと悲しい。
かつての兵どもは、挑戦したという経験は得られる。
それは立派な財産だと思う。

はじめまして。写真と映像制作をしているフリーランスの小西と申します。文章作品にも力を入れています。作品はご自由にお読みいただけますが、応援したいというお志も大歓迎です。