幸いにして中止にならなかった撮影案件を終えて、遅めの昼食を食べようと、帰り道、上品な雰囲気感じる和食屋さんに入った。
 ランチタイムのピークは過ぎていたので、お客は自分一人。カウンター席に座り看板メニューにあった牛もつ煮込み定食を注文。
「ご飯はたっぷりあるので、おかわりしてくださいね」
 ありがたく頂いた。
 厨房からスタッフの会話が聞こえた。
「胃が痛い」
「人通りの多いあの店に相談するから、そこで弁当を販売しよう」
 僕が座るカウンター席から見える牛もつ煮込み鍋。美味しそうな中身は、まだたっぷりと残っていた。
 また来ます。今はそんな言葉も気軽に言えない。
 今の自分にできることは、ただ、目の前に出してもらった食事を味わっていただくことだった。
 世の中のほとぼりが冷めた頃、またこの店で、牛もつ煮込み定食を食べられることを切に願う。

はじめまして。写真と映像制作をしているフリーランスの小西と申します。文章作品にも力を入れています。作品はご自由にお読みいただけますが、応援したいというお志も大歓迎です。