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山崎元氏の訃報に接して

 驚き、とは違った。「ああ、そうか」と嘆息した。
 氏は癌を公表し、メディアへの露出を続けていた。最近Youtubeで見た氏は以前よりあきらかに痩せ細っていて、赤の他人ながら「その時は近いのかもしれないと」ぼんやり思ったほどだ。
 氏の数々の記事や著作は、投資というジャングルのなかの、ひとすじの光明であった。氏は忖度のない言説で、「個人投資家がとりうる最適解」を筋道立て、理論的に、明確に示してくれたように思う。
 その著作との出会いは、20代後半にさしかかったころだった。当時、転職をしたばかりの私は経理の仕事を任された。そこで出会ったのが「個人型確定拠出年金」いわゆる「iDeco」である。制度拡大の折で、金融知識に長けた一部の人々が早速制度を利用し始めていた。
 当時の私は、新卒で入ったアパレルの仕事が東京で暮らすには最低限の給料で、貯金を食い潰しなら資格の勉強をして転職をしたばかり。とにかくお金のことが不安だった。
そうそう、それでまず生命保険の勉強を始めたのだった。書店で買った2冊の本のひとつは、「掛け捨てのなるべく安い保険」に入ることが推奨されていて、もうひとつは「貯蓄型の保険になるべく早く入る」ことが推奨されていた。正反対の論調に混乱したし、どうして良いか余計に分からなくなった。書籍を選ぶにも「誰が」「どんな意図で」書いたものかを判断するチカラが必要だったが、そんなものは当時の私にはなかった。
 指針が決まらぬまま年末調整の時期になった。経理の仕事のひとつに、年末調整関係書類のチェックがあった。源泉徴収票の作成のために、扶養控除申告書等をチェックする。後から振り返ると、この経験は本当に貴重だった。自身の税金額がどう決まるかを実際に知れたし、各商品の所得控除の額の目算ができるようになったことが大きい。特に目を引いたのが、先述したiDecoである。掛け金のすべてが所得控除の対象になるのを目の当たりにして、まず始めるべきだと感じた。
 さて、SBI証券で口座開設をしたものの、私は頭を抱えた。掛け金の配分を選べないのだ。事前に数冊読んだ本の知識から、「定期預金」「保険」「投資信託」「REIT」「債権」なる商品があって、「分散」することが重要だということは分かっていた。また、「定期預金」等の元本確保型商品では年利が低いため手数料負けすることもあるらしく、「投資信託」「債権」あたりを選ぶことが必要であることも。
 しかし、その「投資信託」も「債権」も無数にあり(しかも当時の確定拠出年金商品は現在よりも玉石混交だったように思う)何をどう選べば良いのかわからなかった。

 そんな時に出会ったのが、ダイアモンド・オンラインでの氏の連載記事「山崎元のマルチスコープ」だった。私の「インデック投資」の知識はこの連載記事で培ったと言っても良い。氏の見解は極めてシンプルだ。税制優遇のある口座で、なるべく低コストの投資信託(アクティブではなくインデックスファンド)を買いあとは起きっぱなしにするというもの!正直拍子抜けした。四季報にやチャートとにらめっこするイメージをしていたからだ。(当時の私の中の株式投資は低い値で買って高い値で売る、いわゆる売買差益で儲けるイメージしかなかったのである。)商品を定額で買い付けてどうして儲かることがあるのかも分からなかったが、氏の著作を読んで納得したし、とても合理的だと感じた。肩の力が抜けたのもよかった。
 その後、名著と言われるいくつかの書籍を読んだが、いずれも、氏の見解に沿うことがいかに合理的であるかの答え合わせをすることとなった。
 近年、NISA等の普及により株式投資は若い世代にも身近なものとなった。身近になったからこそ、適切な知識を得られず、時に詐欺に巻き込まれてしまう話も伝え聞く。大切なのは仕組みを知ること。知識を持つこと。私は身近な人にNISAやiDecoのことを聞かれたら、必ず氏の著作を勧めるようにしている。
 一読者に過ぎないが、氏には大変感謝している。ありがとうございました。ご冥福をお祈りしております。

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