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「本が売れない」と死ぬほど悲しいから

ビジネス書の編集をしている。編集者になって10年が経とうとしている。

編集者のよろこびは、自分がほんとうに良いと思ったものを、できる限り多くの人に届けることだ。

でも、作った本が売れないことがある。悔しい、悲しい、著者に申し訳ない、逃げ出したい。色んな感情が押し寄せてくる。いちばん危ないのは、自分が良いと思った事実まで否定されたような気がしてしまうことだ。そんなことはない。俺は変わらず良いと思っている。でも他人に受け入れられなかった。それがどうしようもなく悲しい。

そういう編集者の元に、悪魔がささやく。

「だったら、売れる本を作ればいいじゃないか?」

売れる本と良い本の間に、相関関係はあっても因果関係はない。売れた本が良い本だとは限らない。「良い本」を定義するつもりはない。ただし、編集者が本当に良いと思ってもない本を世に出したら、それは絶対に良い本ではない。

考えるべきことは、本当に良いと思ったものを売れる本にするために何をするべきか、ということだ。この順番を間違えない。売れることのみを考える努力を積み重ねたくない。そんなことを繰り返し、人生の終わりに本棚に並ぶ本を見る未来を想像したくない。愛着の湧かないものを作り続ける人生など自殺行為に等しい。

そういえば就職活動をしていた頃、悩んでいた。誰にでもある就職前の憂鬱だ。毎日が楽しくなかった。過去の自分とこれからの自分が繋がらない。大げさではなく、昨日の自分が今日の自分と繋がっていないような気がした。耐えられなくなって吐き気がした。

ふと思いついて、日記を始めた。未来の自分に今の自分の痕跡を残そうと思った。なんでもいいから、少しでも心が反応した出来事を書き殴った。その先に「編集者」という職業があった。今の思考や行動の蓄積が未来の自分を作ると知った。

もう一度、あれをやってみよう。自分がほんとうに良いと思っていない本を作らないために、本当に心が揺さぶられたことだけを書く。本当に良いと思った本を売れる本にするためのエネルギーを自家発電する。

心に突き刺さるほど衝撃を受けたこと。
どうしようもなく好きなもの。
死にたくなるくらい絶望したこと。
ほっとくと忘れそうになるような、ちょっとした感動。

そういうことを書いていきます。

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