肉欲と葛藤

またGrindrを確認してしまう。
"お気にいり"に入れたアイツのプロフィールは30キロ先でオンラインになっている。
いつもそう。アイツはいつもオンライン。
じゃあそれを知ってる俺は、っていうと。。。俺もいつもオンライン。

ことの始まりはもう10年近く前だろうか。
俺がまだ学生時代だったとき、アイツがGrindrでメッセージを入れてきた。
よくある流れだ。挨拶して、写真を交換して、セックスしないか?という話になって、すぐ会ったんだ。

実際にアイツの家に行き、会ってみたら本物は写真と全然違った。写真で見た姿はタイプだったが、実際に見た姿はもっとタイプだった。別人の写真を使っていたのは身バレ防止の為なのか、それとも自分に自信がなかったのか。。。
流れるようにしたセックスはこれまでの人生でもとびきり楽しかった。

なぜアイツにここまで惹かれたのかはよく分からない。
アイツの外見はもろゲイ受けしそうなマッチョ。
結局は見た目に惹かれていただけなのかもしれない。

セックスが終わると、「用がある」とか言ってこっちに帰ってほしい空気を出してくる。
ロマンチシズムのかけらもないが、そそくさと帰る。
交換したラインで「ありがとう楽しかった」と入れると、「☺」の、一言。一言ですらない。

自分が愚かだと思いながらも、俺はアイツのことが忘れられなかった。またアイツとセックスをしたい、とばかり考えてしまうようになった。
俺はまともな恋愛はしてこなかったが、アイツと付き合いたいと本気で考えていた。
でもラインを送っても返事は一言。一言返ってくればいい方で、既読無視、ひどければ未読無視で何週間も放置。

ある日たまたま普段行かない場所でGrindrを開くとアイツがいた。
ラインでは何もよこさないくせに、向こうからメッセージ。
「今日会える?」、こっちだって色々あるのにその急な誘いはなんなんだと内心ムカつきながらも、「会おう!」呑気に返す俺がいた。

アイツは相変わらずセクシーで、俺は夢中でセックスをした。向こうもセックスしているときはまるで恋人かのような優しさ。
騙されちゃ駄目だ、俺は俺に言い聞かせるが体は言うことは聞かなかった。
セックスが終わると、アイツはまたいつもの状態に戻る。携帯をいじりながら、「シャワー浴びたら?この後用事があるからもうそろそろ出るわ。」軽く見られているのは感じていたが、言われるがままシャワーを浴び、またそそくさと帰路に着く。
アイツが何者なのか、仕事は?趣味は?好きな食べ物は?まともな会話もできずじまい。バカなことだが俺はそういうミステリアスさにもますます魅力を感じていた。

そんなこんなでアイツとは何回もセックスをした。
会うたびに今度はアイツが俺のこと気になってるかもしれない、と叶うはずのない願望ばかりが膨らみ、毎回落ち込んで帰る。そんなことの繰り返しだった。
気がつくとアイツをGrindrのお気にいりに登録し、どこにいるかチェックするようになっていった。表示される距離から休日のたびに2丁目に行っているらしいことも分かった。ゲイ受けするマッチョなアイツが2丁目で色んな男と遊び回っている、そんなことをよく想像していた。
俺は俺がストーカーのようにアイツに固執していること、そのことに自分ながら恐怖を感じるようになった。

そんな折、俺は仕事で東京を離れることになった。東京を離れれば、新しい出会いもあってアイツのこともスッパリ忘れられるかもしれない。正直ラッキーなタイミングだ。そう思っていた。

3年ぶりに戻ってきた東京にはただただ圧倒された。地方都市が束になっても敵わないような男の数。東京を離れていた3年間、結局俺にはなんのロマンスもなかった。
新生活への期待、男への欲望、俺は久しぶりにドキドキしていた。

メッセージが来た。アイツからだ。
忘れていた訳ではないが、まさか再会するとは思っていなかった。
アイツのメッセージは相変わらずぶっきらぼうでそっけない。
でも俺はアイツに会うことに決めた。
肉欲とは恐ろしいもので、アイツに会ったら俺はすぐにあの時の情けない俺に戻ってしまった。あのときはまだ学生だったからナイーブだった、という言い訳は通用しないくらい俺はあの時のままだった。

アイツへの思いは募り続ける。他にいい人いるよと頭では理解しても体が言うことを聞かない。俺は弱い人間なのだと思う。歳だけ重ねても心はナイーブなまま。

この前だ。珍しく2丁目に行ったとき、アイツを見かけた。色んな男と楽しそうに話をしていた。俺と話すときには見せたことがない表情だ。どういう気持ちだったのかは分からないが、俺を見つけると呑気に声をかけてきた。俺はドギマギして二言三言だけ話してすぐに逃げてしまった。

俺は何をしているんだろう。情けなさだけが募った。

俺は未だにアイツのことが気になっている。またアイツに会ったらセックスしてしまうと思う。アイツより優しくて気が合う男も何人か知り合いになった。でも、心の奥には常にアイツがいるままなんだ。

この話にオチはないし、これから解決することもないと思う。ただ、俺はこの苦しい思いを表現することに決めた。
アイツとのことだけじゃない、これまでに会った男たち、俺自身のこと、誰に読まれても読まれなくてもいい、でも、ひとりでしまっておきたくないんだ。
ここはそんな俺の雑記帳。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?