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誕生日に静かな決心。大丈夫、一人で生きていける。

プライベートなことを、およそ書かない私だけれど、今日は自分のために書き残しておこうと思う。
誕生日だから。
誕生日に、象徴的な出来事が重なり合い、私に静かな決心を促したから。

今朝、夢に別れた夫が出てきた。
なぜこんな日に?と後になってみて思う。
元夫は、若い日の姿だった。

50歳になった時、不思議と「一度死んだな」と思った。
「人生五十年」とは『敦盛』にある言葉だが、私にとっては還暦よりも五十歳のほうが、死と再生を感じたのだ。
そして、その年の秋に、23年間の結婚生活に終止符を打った。
お互いのためには、そうするほうがよかったし、やれることはすべてやり尽くしたという後腐れのない想いで私は出て行った。
みじんの後悔もなかったけれど、結婚前の時間を合せれば四半世紀も一緒に過ごしてきた人の面影は、容易に消えるものではない。
愛が死んでしまったとしても、かつては生き生きとそれはあったのだから。

あのころ、私は猫のように懐いていた。
彼が本を読んでいれば、私も本を持っていって、その背中にもたれかかりながら読書した。
何をするにも一緒だった。
たくさん笑ったことを想い出す。いったい、何があんなに可笑しかったのだろう。
ただそれだけで一緒にいられたら、どんなにいいかしれない。
でも、物語の中でさえ、時と共に二人の関係はかたちを変えていく。

8時40分。
私が生まれた時刻だ。
今朝のおつとめでは、母と父への感謝を震えるほど抱いた。ふだんはお念仏を十回唱える「十念」で済ませるけれど、今朝は般若心経も挙げた。
色即是空 空即是色・・・
お唱えしながら、両親がいなければ私は生まれてこなかったこと、その両親を守ってくれた人たちがいたからこそ生まれてこれたことを思った。
なんという果てしないつながりだろう。
なるほどまさに世界は華厳にほかならない。
人は、決して孤独にはなりえないのだ。

四月三日は鶴岡八幡宮の例大祭がある。
お宮参りも七五三も八幡様だった。
八幡神にお守りいただきながらここまで生きてきたので、誕生日にはお礼参りをほぼ欠かさない。
行けば、必ず祝福していただける。
たくさんの言葉にならないメッセージが降りてくる。

やがてバラバラなものが、符合していった。
元夫に猫のように懐いていた私は今もどこかで存在しているにせよ、もはやカケラでしかない。
一人では生きていけないと、あのとき思っていたかもしれない。
若き日の彼は、そんな私の象徴として夢に出てきたのではないか。

それは何度目かのサヨナラだったのだ。
私は、わたしのカケラにさよならを告げた。どこかに葬り去るのではなく、逆に抱きしめて吸収することによって、私は「一人で生きていくのが怖いわたし」に「大丈夫」と語りかけ、統合した。
一人というのは幻想に過ぎない。
つながりあわないものは、何一つ、存在しないのだ。
網の目の、結び目のひとつが、わたし。
水晶のように光り輝きながら、夥しい命のつながりの中で、私は存在している。

お参りを済ませ、参道を歩きながら、母の胎内から産道を通って生まれた時のことを思う。
神さまと、いったい何を約束してきたのか。
あのとき確かに怯えがあった。
この人生を選んだことへの怯え。いよいよ始まるという恐れ。
どうする?
最後の問いかけがあったような気がする。
その時、私は、決心したのだ。
行きます。
生まれます。
この人生を歩みます。
約束を果たしてきます。
あの決心を想い出しながら、再び、意を決して鳥居をくぐるのだ。
今年は去年とは何か違った感覚だった。
歩いているうちに、不思議に背中がムズムズした。
肩甲骨のあたり。
ああ、私は羽が生えている。
そう思った。
妙な話に感じられると思うが、本気で羽があると思えたのだ。
しかも認めた瞬間、音を立てて、大きく羽が広がった気がした。
その瞬間、深い喜びが湧き上がった。

ああ、そうだ、私は羽がある。もっともっとこの羽を広げていける。どこまでも飛んでいける。飛んでいこう。
人は決して孤立することは出来ないという真理が、私を強くしてくれる。
一人で、生きていこう。
その時々、いろんな人とのつながりを大切にしながら、必要ならば助けを求めながら、自分の足でしっかり立とう。

元夫は離婚後ほどなく新しい奥さんを迎えた。周囲の人が案じて、ふさわしい人と結びつけたようだ。
風の噂では、仲良く暮らしているという。ホッとする。もう私は心配しなくていい。
そして私は、私と生きていく。
そんな姿は、一見、寂しいかもしれないけれど、そして私も時には寂しいと感じるだろうけれど、でも、静かな安堵がある。
少なくとも今は、仲間とのつながりの中で、一人で豊かに生きている自分が簡単に想像できる。
それは、なかなかいい光景だと思う。

おめでとう、私。
新しい次元の扉を開いたね。
ここからまた、やっていこう。


写真:魚住心








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