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至人は己なし(逍遥遊)~ほんとうに充実した人間は自己主張しない

 ほんとうに充実した人間には自己主張というものがない。
 荘子が理想とする人間は、大自然と心を一つにして生きる人である。大自然には、是非善悪の自己主張がない。従って、天地自然と同化している人は、自分の主張や自分の欲望で動くことは、ほとんど、ないのである。
 もし荘子に自己主張があるとすれば、その主題は、
「名誉や地位を求めて競争するのではなく、それぞれが、自分の分というものを定め、世間から非難されても劣等感をもたないので、誉められても無理な努力はせず、自然の心になりきって、悠々と、自分自身らしく、自分の本性を生きなさい」と。
 神人は功なし(逍遥遊)
 
ほんとうに充実した人間は、いくらいい仕事をしても、功績があったとしても、いばることをしない。仕事に伴う名誉などを期待したり、求めることもない。
 大自然は、いかに美しい大輪の花を咲かせても、その功績は忘れている。

『老子・荘子の言葉100選』境野勝悟(三笠書房)

老荘思想は古代日本に影響を与え
中世以降は重要な教養として浸透しました。
当然、日本人の美意識を裏づけるものとなっていますが
それが老荘思想に通じるとはあまり思わないもので
それほどまで自然に私たちの心のひだをかたちづくっているのです。
誇らず、奢らず、伸びやかにあるがまま
大自然と心をひとつにして生きる。
それは、かつての日本人の姿であったと言っていいでしょう。

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