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滑川への道⑤

 朝8時。朝食会場のレストランで和朝食をいただく。うっすらとした疲労感はあるものの、旅行ハイなのか割と元気でほっとする。9時過ぎにホテルを出発。天気は小雨。目指すは金太郎温泉だ。人影のない農村の道をぐんぐん進む。本当にこんなところに温泉があるのかと不安になってきたところで金太郎温泉が現れた。かなり大きな温泉ホテルだ。金曜日の午前10時なのだから空いているのでは、と考えていたが、ここでも予想は裏切られる。思った以上に駐車場が混んでいたのだ。
 靴用ロッカーに靴を入れて、カウンターに向かう。料金は時間ごとだったので、1時間でお願いすると、脱衣所のロッカーのカギと引き換えに靴用ロッカーのカギを回収された。鍵の受け渡しで滞在時間が確認できることになる。客は靴がなければ帰れないわけで、シンプルで合理的な管理方法だと思う。
 施設が大きいだけあって、お風呂も広い。内湯と露天風呂、いずれも広々しており、恐れていた混雑もない。小雨とはいえ雨が降っているので一番広い露天風呂には人がいない。これ幸いと2人でゆっくり露天風呂につかる。T先生は半ば瞑想状態で温泉を楽しんでいるようだ。
 私は途中で内風呂に移動し、立ち湯やジェットバス、プレーンな浴槽の風呂などをめぐってみた。さすがに熱くなってきたので、一足先に出る。全身の血の巡りが一気によくなった気がした。ビンのコーヒー牛乳を飲んで出発だ。

 車に戻り、ランチについて相談した結果、気になっていた「珈琲哲学」に行ってみることにする。
 ホームページの情報によれば、「珈琲哲学」は1983年創業の喫茶店で、富山県内に、富山西店と富山東店を展開している。店の外観は、木造の昔ながらの洋館のようなとんがり屋根が特徴で、木を基調とした店内はぬくもりと素朴さを感じさせる―とのこと。
 
 11時過ぎ、珈琲哲学東店に到着。国道沿いで駐車場もゆったりしている。店内に入ると、お客さんはまだほとんど入っておらず「空いている席にどうぞ」と言われる。店内の造りにも席の配置にもゆとりがあり、ほっとする空間だ。
 メニューを見るとやはりパスタとピザが売りのようだ。ランチセットでそれぞれ頼み、互いにシェアすることにした。昔ながらのナポリタンと西京みそを使ったタケノコのピザを頼む。まず、セットのサラダとスープが質量ともにちゃんとしている。野菜は新鮮で、しっかり水切りされているためレタスなんてパリッパリだ。ナポリタンもトマトの甘味がしっかりと立った手作り感溢れるソースが美味。西京みそとタケノコのピザもみそとチーズとタケノコが素晴らしいバランスで互いの力を引き出し合っていた。この店、ピザ窯でピザを焼いていることからしてもただの喫茶店ではない。そもそもここのお店ではピザではない。ピッツアだ。
こんなお店ならデザートも期待できるのでは、とパフェを頼むことにする。ストロベリーフェアをやっていたので、私はミニイチゴパフェを、T先生はこぼれそうな程フルーツの乗ったヨーグルトパフェ、それとどうしても気になった白いシフォンケーキを一切れ。
 ミニイチゴパフェは「どこがミニ?」と不思議なほど立派なイチゴパフェ。イチゴもアイスもクリームもみんなフレッシュ。シフォンケーキも手作りの優しいお味。あぁ、ランチセットで注文したオリジナルブレンドの珈琲も苦みと酸味がちょうどいいバランスで、ブラックでおいしくいただいた。

 予想以上の感動と共に「珈琲哲学」をあとにして、一路富山市内へ。途中、直売所に寄って、フキノトウとミズを購入してから、富山駅近くの「青山総本店」に注文していた鱒ずしを回収した。その後しばらく市内をドライブしてレンタカーを返却。夕飯はきときと市場内の回転ずしで締めることにした。
 よく食べた2日間だったが、後悔は1ミリもない。確かなことは、富山にはおいしいものがたくさんある、ということだ。その一方で、気軽に楽しめるキャッチーな観光地は悲しいほどに少ない。「富山の皆さんは観光による集客なんて考えず、とにかく今あるおいしいものを守り続けていってほしい」―帰りの新幹線の中、襲い来る睡魔と戦いながら、そんなことを考えていた。

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