バニラムーンは笑わなかった

19だった 金がなかった
伸びきった前髪も着回す薄いシャツも
ちっとも苦しかなかったけど
バイトしたその喫茶店で
唯一香りを覚えた
バニラムーンは笑わなかった
きかないおまもりはニタニタした
バニラムーンは笑わなかった

20になった 死にたかった
おさなごを突き落とした記憶がある
話したことがない たり前た余所行き
ぼくの十字架 ぼくは十字架
バイトしたその焼肉屋で
唯一作法を覚えた
バニラムーンをわすれた
きかないおまもりはニタニタした
バニラムーンは笑わなかった

起きない衝動
遅すぎた黒い春
A Worldには寿命も固有もない
the worldで泣いてるあの子の帰ってくる音がした、おかえり
句読点も濁点も、ただの距離だった、もっと近くでぎゅうぎゅうに平仮名をならべて、それはきもちわるくて、劣等生みたいだった

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