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プリンの時間。

モンテビデオで出会ったプリンと、雨のカボポローニョで再会した。

フランスを発つ前にボーリングの球を落として足の指を負傷した彼女。確かにどことなくプリンのように、苦みの効いたでも率直で親しみやすい人柄で、「あんたそれ日本ではあのお菓子のプリンのことよ」って言うと、「はははーじゃあこれからはフランスでもフランねー」なんてげらげら笑って、スペイン語がほとんどわからない私とも通じ合う。

ウルグアイに1か月の休暇旅行。何ということはない、医者にも行かず予定通りここへ来た。本もたくさん詰め込んで、けがの休暇を楽しむ用意もばっちりだから感心する。タバコが好きで、寒い日も外に座ってぷかぷかやっている。器用に巻いて一服一服味わう人のタバコって嫌いじゃない。タバコもおしゃべりも観光もウノも、ひと時ひと時を上手に味わう彼女。フランスでは労働者を支援して企業に監査を入れる会社を友人と経営している。「忙しいのよ~」ってあまり忙しくなさそうに言うプリン。詰め込まれた本の中にもウルグアイの労働組合について書かれたものが覗いている。休みの日は何してるのって聞くと、「ボーリングとーテニスとーあと今はイエローベストのプロテストに毎週行ってて」。国外でなかなか報じられなくなったイエローベストの運動は、政府からの弾圧が激しくなるにつれ参加者が減っているものの、今もたくさんの人が黄色いベストを着て通りに集まる。日々新しいニュースが多くて私も忘れかけていた。

なにかガムシャラに自分の夢に向かっていくのがいいことだと言われる社会だけどそれってやっぱりそうでもなくて、周りに目を向ける心の余裕は持っていたい。ちゃんと休んで、意味のないことにも時間を割いて、人との出会いや知らないものへ興味を向けることってとても大事で、そうゆう時間のない人生ってちょっと悲しい。彼女とワインを飲んでウノをしたりカボポローニョの誰もいない浜辺で黙々と絵を描いたりしていると思うのだ。

冬のカボポローニョは本当に静か。浜辺を散歩中、アザラシやペンギンの死体をたくさん見かけた。向き合ったまま並んで死んでいる2体のペンギン。浜にはビニール袋の断片やペットボトルの破片がたくさん落ちている。プリンがゴミを拾いながら歩くから、こちらも何となく拾いだす。あっという間に袋がいっぱいになって、そのあとは貝殻探しに没頭した。

カボポローニョで別れを告げるころには、彼女の足もだいぶ良くなって、これからもう少し散策も楽しめそう。何にしても自由で楽しい人だから、もう一度今度はボーリングの球を両足に落としても、「やーもー大変だったのよー」って車いすでプロテストに出かけるだろう。

またひとついい出会い。私も今度は袋を持って海岸へ行こう。スペイン語も頑張らねば。


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