プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #5 【恐怖の化身】5

「太陽のプリンセス? 随分と大仰な通り名ね。それは自分でつけたの?」

「ウィガーリーより東に位置するマクスヤーデン。人呼んで太陽王国。わたくしはその国の麗しきプリンセス。故に、ですわ」

「ふふっ、おかしな方ね。普通の人は、自分のことを『麗しきプリンセス』などと呼ばないものよ」

「ヴァンパイア風情が何をおっしゃるやら……」

 タンザナと正面から睨み合い、舌戦を繰り広げながら、イキシアは思考を巡らせた。ペガサスから勢い良く飛び降りたはいいものの、彼女とタンザナとの魔力の差は歴然。如何な武芸十八般の達人といえど、その差を埋めることは容易ではない。打つ手を一つ間違えれば、即座に葬られてしまうだろう。

(まあでも……当たって砕けろですわね)

 イキシアは自嘲気味にそう考え、僅かに口元を緩めた。そして両手で握った聖剣からゆっくりと左手を離す。すると、その手の中に眩く輝く光の剣が出現した。
 かつてはウィガーリーの騎士ガーネットの聖剣に宿っていたこの力を、なぜイキシアが使えるようになったのかは分からない。だが今は、この力に賭けるしかない。

「でえりゃあ!」

 イキシアはおよそプリンセスらしからぬ叫び声をあげながら、それぞれに剣を持った手を大きく広げ、タンザナへと突進し、光の剣を一閃した。
 タンザナは初めて見るイキシアの技に一瞬眉をしかめたが、即座に反応して剣を構え、斬撃を受けにかかった。光の剣と、タンザナの剣が交錯し、お互いに弾かれる。

「はあっ!」

 イキシアはこの時を狙っていた。跳ね返って一瞬無防備になったタンザナの剣に目掛け、右手に握った実体の聖剣を打ち振るう。

「ふんっ!」

 だがタンザナは、剣を強引に持ち替え、素手で刃を握ると、柄を打ち下ろしてイキシアの刃を受け止めた。

「くっ……」

「てえいっ!」

 逆に体勢を崩されたイキシアの腹部に向けて、タンザナが剣を一閃させる。

「ぐうっ!」

 痛みに顔を歪めたイキシアだったが、その傷は浅かった。しかし、タンザナは追撃を放たず、逆にイキシアとの間合いを取った。

「はあーっ!」

「せいっ!」

 そして間合いの外から超高速で切り込んできたメノウに対応し、繰り出された剣の柄を掴んで斬撃を止めた。

「隙を突けば敵う程度の実力差だと思いましたか?」

「どうかな? 私はただ、動きを止めに来ただけだ」

「何を舐めた口を……やあっ!」

「があっ!」

 タンザナは力任せに掌底を繰り出し、メノウの身体を突き飛ばした。だがその一撃のために費やした時間は、次の攻撃が放たれるには十分の時間であった。

「セヤーッ!」

 カーネリアの鋭いドロップキックが、タンザナの脳天を貫こうかという勢いで放たれる。

「ふざ……けるなっ!!」

 タンザナは激昂し、衝動的に自らの身体から魔力を爆発させた。

「……ハッ!」

 カーネリアはその衝撃に吹き飛ばされたが、空中で滑らかな姿勢制御を行い、流麗な着地を決めた。

「……小癪なっ!」

 すべてが一連のセットプレーであるかのようなカーネリアの動きに激昂し、タンザナは今度こそ追撃を放とうとした。

「……ハイヤーッ!!」

「なっ……せいっ!」

 だが遠方から聞こえてきた叫びに対応し、タンザナは反射的に斬撃波を放った。刃から飛び出した細い光の筋が、迫りきていた太く長い光の束にぶつかり、その軌道を逸らす。
 アンバーの斬撃は波はタンザナから離れ、虚空に消えた。

「……もう終わりかしら? 終わりよね? もういいでしょう」

 イキシアたちが間合いを取ったまま斬り込んでこないのを確認すると、タンザナはわずかに構えを解いた。

「……まったく、腹立たしいまでのしつこさだこと……そういう態度でいると、長生きできないわよ」

「それは申し訳ありませんが、これはすべてわたくしたちの作戦ですので」

「作戦? 一体何を言っているの?」

「すぐに分かりますわ……はあっ!」

 眉をひそめたタンザナ目掛け、イキシアが今度は剣に炎を灯しながら突進していった。

「多少小細工に走ろうとも……同じこと!」

 タンザナは怯まずに足を踏み込み、かつてエリカが同じものを放っていたイキシアの炎の剣を自らの聖剣で受け止めた。

「そのような一本調子の攻撃で……私が倒せると思っているの?」

「わたくしの攻撃は単なる起点……気をつけないと、次が来ますわよ」

「ふん、それが……」

 イキシアの挑発と剣とを同時に受け止めながら、タンザナは視線をメノウのいる方向に逸らした。すると、メノウの剣から分離した刃の破片が彼女に襲いかかってくるのが見えた。

「……それが一本調子だというのよ!」

 タンザナは魔力を再び爆発させ、その破片とイキシアとを同時に吹き飛ばした。

「ぐうっ!」

「セヤーッ!」

 吹き飛ばされるイキシアと入れ替わりに、カーネリアが連続バック転で接近し、至近距離からのローリング・ソバットをタンザナに向かって放った。

「だから! 無駄だと! 言ってるでしょうが!」

 繰り返されるタンザナの怒りがついに限界に達した。カーネリアの脚を手刀で打ち払うと、剣で身体を袈裟斬りに切断しようとした。

「させるか!」

 だが超高速移動に入っていたメノウが割って入り、間一髪でカーネリアの身体を剣の切っ先から遠ざけ、戦線から離脱させた。

「ちいっ……!」

 タンザナは舌打ちを放ちながら、次なる攻撃に備えた。この後はアンバーの斬撃波が遠距離から飛んでくる――はずだった。

「……?」

 だが、太く長い光の束が彼女を襲うことはなかった。
 タンザナは攻撃の新たなサイクルをが始まるのを警戒し、イキシアらを見回したが、そちらにも攻撃の気配はなかった。

(万策尽きたのね……)

 そう考えたタンザナが反撃に打って出ようとした、まさにその時であった。

「ハイヤーッ!!」

 アンバーの叫びが、チャーミングフィールド中に響き渡り、太く長い光の束が、タンザナのいる逆方向に向かって輝いた。

「何が……っ!」

 一瞬呆気に取られたタンザナだったが、こちらに向かってきた驚異に気づくと、即座にバックステップを放って斬撃波から距離を取った。

「セイ!」

 直後、斬撃波を推進力にして飛んできたアンバーの渾身の斬撃が、直前までタンザナの立っていた場所に炸裂した。

「ふんっ……意表を突いたところで所詮は……」

「「「ハーッ!」」」

 勝ち誇ったタンザナがアンバーを挑発した直後、三方向からの斬撃波が襲ってきた。

「何!?」

 タンザナはこれらを同時に撃ち落とそうと、三度魔力を爆発させる姿勢を取った。だがその一瞬が、アンバーに二の矢を放つ時間を与えた。

「ヤーッ!」

 空振りした斬撃の反動を殺さず、逆にその場で一回転したアンバーが、2発目の斬撃波を、今度は直接タンザナ目掛けて発射した。

「なっ……まさか!」

 タンザナは驚愕に目を見開いた。攻撃をすべて凌ぎ切るだけの十分な魔力の充填が間に合わない。感情に任せて爆発させ過ぎたツケだ。斬撃波に切り替えてアンバーの斬撃波に対処すれば、もう一方の斬撃波にやられてしまう。
 迷ってている間に、眩いばかりの光は阻止できない位置まで迫っていた。

「おのれ……おのれ……脆弱な人間の小娘のくせにーっ!!」

 タンザナは怒りのあまり、手にしていた聖剣を力任せに投げた。
 大局的に見れば、これが逆に幸いした。彼女の身体は光に包まれて見えなくなったが、聖剣は間一髪で粉砕を免れた。剣はそのまま宙を飛び、斬撃波を放ったばかりのアンバーへと襲いかかった。

「はあっ!」

 アンバーはその剣を油断なく回し蹴りで蹴り落とすと、振り抜いた聖剣を静かに鞘に収めた。

「……終わった……ようやく。本当に……」

 眼の前が白い光に包まれていく中でアンバーは細く長い息を吐いた。長く果てがないかに思われた恐怖の夜が、今終わったのだ。

第2部 #5 【月夜に嘲う】 完

次回 第2部 エピローグ 【貴女に巡り逢うために】

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週一で更新されるファンタジー小説『プリンセス・クルセイド』と、ほぼ毎日一文ずつ更新される恋愛小説『一日一文』の2つの小説が連載されているアカウントです。さらに新連載も始めました。作者への連絡は oreryu3271show@yahoo.co.jp まで。

プリンセス・クルセイド

王子の結婚相手を決めるため、少女たちは剣を取る。剣と魔術で闘うファンタジーです。
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