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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #5 【恐怖の化身】 1

 アンバーが目を開くと、そこは見渡す限りの荒野であった。所々に台座じみた岩が立ち並び、風が吹けば砂が舞う。そんな荒廃が無限に続くかのような虚無の空間はしかし、彼女には馴れ親しんだ場所だった。

「貴女のチャーミング・フィールドですわね」

 突如聞こえてきた声に振り向くと、そこには優雅な茶髪の女性が立っていた。女性は腕を組みながら、不満げに言葉を続ける。

「相変わらず殺風景な眺めですこと。まあ、わたくしのも趣味が良いとは言えませんけども」

「自覚はあったんだね」

「……しゃらくさいですわ」

 アンバーが軽く指摘すると、イキシアはフンと鼻をならしてみせた。アンバーはイキシアの隣に回り込み、もう一度空間を見渡す。

「こういことになってるのは……タンザナさんのせいだよね? 私とイキシアを……戦わせようってことかな?」

「そうは思えませんわね。あの方はーー」

「そういう気を回すような人には見えないんだけど?」

 イキシアの言葉を遮るようにして、背後の岩場から声が響いた。アンバーが振り向くと、2人の目の前に小柄な人影が降り立った。

「カーネリアちゃん! 来てたんだね」

「まあね。っていうか、この……空間っていうの? やっぱり訳が分からないんだけど。いつもこんな感じで突然変な場所に来て、いつの間にか元に戻るわけ?」

 カーネリアは着地の勢いで顔の前に垂れた髪を手で整えながら気だるそうに言った。

「そのうち慣れますわよ」

「だといいけど」

 イキシアとカーネリアが言葉を交わす間、アンバーは直感的にやや離れた前方の岩場の上を見た。するとそこに、赤毛の女性が立っているのが見えた。

「メノウさん!」

 アンバーは2人をその場に置いてそちらへと駆け寄ると、岩場の上に飛び乗った。

「メノウさんも来てたんですね」

「ああ、アンバーか。ちょうど君のフィールドじゃないかと考えていたところだ」

 メノウは振り返りながら、後方のイキシア達を見やった。

「やはり、来ていたのは君だけじゃないか。これだけの数を一度にフィールドに送り込むとは、彼女は相当な魔力の持ち主らしい」

「チャーミング・フィールドに同時に入れる人数は魔力によって変わるんですか?」

 アンバーが質問すると、メノウは首を横に振った。

「少し違う。基本的にここは、聖剣の刃をかち合わせた者同士が闘う1対1の戦場だ。聖剣にはそのような魔術がかけられている」

 そう答えながら、メノウは空を仰ぎ見た。空には赤い満月が煌々と輝いている。本来のアンバーのフィールドにはないものだ。

「たが、強大な魔力……正確に言えば強大なバイタルをもってすれば、その魔術を破ることができる。実際に可能かどうかは別として、理論上はそういうことだ」

「強大なバイタルで、魔術を破る……」

 メノウの言葉を繰り返しながら、アンバーは宮廷魔術師のジュリアンも同じようなことを言っていたことを思い出した。

(タンザナさんのバイタルを借りれば、もしかしたらお父さんも……)

「……来ますわよ!」

 アンバーの現実逃避じみた想像を、イキシアの鋭い声が打ち消した。アンバーはメノウと共に瞬時にこれに反応し、身を翻して岩場から飛び降りた。直後、2人のいた場所に電撃のような魔力の衝撃が走った。

「……あら皆さん、わりかし勘の良い方々ね」

 強力な魔術とともにチャーミング・フィールドに降り立ったタンザナが、鉄槌のごとく振り下ろした右腕を地に着けたまま、うっそりと言った。

「もっとも、そうでなくては面白くない。よく運動した家畜ほど、甘美な味わいがするものだから」

 恍惚な表情でそう語りながら、タンザナは腰から自らの聖剣を引き抜き、アンバー達に向かって手招きをした。

「さあ、かかってきなさい。美味しく頂いてあげるから」

 その戦慄の響きは、アンバーに原初的な恐怖を引き起こさせた。だが彼女はそれに屈さず、聖剣を腰から鞘走らせた。

2へ続く

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週一で更新されるファンタジー小説『プリンセス・クルセイド』と、ほぼ毎日一文ずつ更新される恋愛小説『一日一文』の2つの小説が連載されているアカウントです。さらに新連載も始めました。作者への連絡は oreryu3271show@yahoo.co.jp まで。

プリンセス・クルセイド

王子の結婚相手を決めるため、少女たちは剣を取る。剣と魔術で闘うファンタジーです。
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