ハードボイルド探偵バネントの日記 vol.6

 土曜日 曇り

 正直言って、今日はかなりギリギリだった。一歩間違えば、大惨事になっていたかもしれない。事務所のテーブルの上に、無造作に銃が置かれていた。何かのきっかけでついうっかりと置きっぱなしにしていたのだろうが、それにしても危なかった。物を置きっぱなしにするなとは昔から言われていたが、その俺の習性みたいなものが悪い方向に出てしまったらしい。しかし、置きっぱなしにするなとはおかしな警告だ。結局、机の引き出しにしまおうが金庫の中にしまおうが、その机や金庫はどこかに置きっぱなしにしてあるんじゃないだろうか。

 何の話だったか。そう、銃だ。俺の同居人はかなり好奇心旺盛な割に危なっかしい性格をしているので、銃なんぞ見つけたら触ってけがをするに決まっている。よく自衛のために銃を持つとかなんとか言うが、あれはガンマン気取りのあほの言うことだ。銃なんて攻撃範囲が狭いし、当然こちらを襲ってくる敵はボケっと突っ立ってなんかないし、そもそも相手も銃を持っている可能性が高い。まっとうに暮らしている奴は、どう考えてもぼうりょくを生業にしている奴らに敵うまい。そもそも、まっとうに暮らしていれば銃なんぞ必要ない。だから銃なんて持っていても、うっかり暴発させてけがをするのがオチだ。

 そうまで分かっている俺が、こうして銃を持っているということは、俺はまっとうな人間じゃないということだ。まあ、当然だ。俺はハードボイルドを志す探偵で、探偵というものはあんまり清廉潔白タイプとは言えない。昔はこうしてスペース・レジデンスに住んでいる人間は、大概がはみ出し者で、銃を持っているのが普通だった。最近では、我らが母星クレイドルに住んでいる奴の方が珍しい。だから当然、このレジデンスにも銃規制ができた。そういう面でも、机の上に置きっぱなしはマズイ。これは今書いていて気付いたことなのだが。

 俺の銃はいわゆる光線銃で、引き金を引くと弾丸の代わりに圧縮したエネルギー的ななにかが飛んでいく。仕組みはよく分かっていないが、当たると相当痛い。今はエネルギー残量が少なくて出来ないが、出力を上げれば何かを殺すことも可能だろう。こんな危険なものなのに、なんで俺が持っているのかがイマイチ思い出せない。レジデンスに銃は持ち込めないから、おそらくはクレイドルから引っ越してきたあとに調達したのだろう。それも、この事務所に引っ越してくる前だ。そういえば、クレイドルから直接この街に来たわけじゃない気がする。それまで俺はどこに住んでいたんだろう。この銃が元あった場所から移動していたわけも思い出せない。最近は思い出せないことだらけだ。また今日も、服が謎の液体で汚れている。

(今日のプリンセス・クルセイドはお休みです)

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