Angel Wing ~8~ 「ルディア・スパークルウィング」

前回

「なんだ! 何が起こっていやがるんだ!」

 ランスウィングは驚愕の叫びをあげながら、目の前で輝きを増していく光に目掛け、今一度光球を投げつけた。だが、それまでの攻撃と同様、光球は光の中に吸い込まれてしまう。

「チクショウ、聞いてねえぞ! こんなこと……願いの天使だからって!」

 受け入れがたい事実に、ランスウィングは我を忘れて激昂した。そうしている間も光の輝きは留まることを知らず、やがてその中から一陣の閃光が飛び立った。

「なっ、一体!?」

 ランスウィングは飛び出した光と反射的に間合いを取り、戦闘態勢に入った。やがて上昇を続ける光の中から、高らかに声が響き渡る。

「「輝く希望を導くは、人の想いと天使の奇跡!!」」

 ハーモニーのように声が重なり合う叫びと同時に光が晴れ、大きな純白の翼と腰まで伸びた髪を湛えた天使の姿が顕になった。天使は太陽を背にしてランスウィングに向き直ると、堂々と名乗りを上げる。

「「愛に燃える願いの天使! ルディア・スパークルウィング!!」」

 その正体は、傷が癒え、新たな力を得たルディアだった。彼女のエメラルドの瞳の奥に、凄まじいまでの闘志と決意が燃え上がる。

「ルディア・スパークル……ウィング……」

 ルディアの名乗りを反芻するランスウィングの声は震えていた。神々しいまでに輝く願いの天使の姿に、彼は知らず知らずのうちに恐怖を覚え、そんな己への怒りを滾らせていた。

「ランスウィング、覚悟しなさい。ここまできたら、もう簡単に許すつもりはありません」

 ルディアは左手で力強くランスウィングを指差した。その腕に光る時計のような装身具を見て、ランスウィングは目を見開いた。

「それは天使の秘宝!? 何故そんなところに!!」

「これは人と天使の想いの架け橋。そして今は、美羽さんと私の絆の証です」

「勝手なこと抜かしてんじゃねえ!」

 粛々と語るルディアの言葉に、ランスウィングは逆上した。彼は両腕を大きく広げると、空中に無数の光球を発生させ、攻撃の構えに入る。

「そいつを……よこせえっ!!」

 ランスウィングは両腕を交差させるように打ち振るい、すべての光球をルディア目掛けて一斉に放った。ルディアはそれに動じず、両腕を胸の前で交差した。すると、ブレスから光が生じ、盾のようにして光球とルディアの間に立ちはだかった。

「「エンジェル・シャイニングシールド!」」

 ルディアと美羽の合わさった声が辺りに響くと同時に、ルディアは光の盾へと手を伸ばし、そのまま両腕を左右に広げた。すると、光の盾が横一面に広がり、襲い来る光球のすべてを受け止め、その衝撃を1つ残らず吸収した。

「何っ!?」

「はあっ!」

 驚愕するランスウィングの隙を突き、ルディアは高度を上げた。そしてランスウィングの斜め上方から左腕を伸ばして狙いを定めると、ブレスから金色に輝く光球を発生させた。

「「エンジェル・シャイニングドライブ!!」」

 叫びと共にルディアの左手から光球が放たれ、超高速でランスウィングへと襲い掛かった。

「なっ……グワーッ!」

 ランスウィングは反応が遅れ、光球をまともに受けた。反撃の体勢を整える間に、ルディアが一気に間合いを詰める。

「セイヤーッ!」

「ガアッ!」

 至近距離でのボディーブローが炸裂し、ランスウィングの体が後方に大きく吹き飛んでいく。

「くっ……な、なめるなよ!」

 ランスウィングは空中で強引に体勢を整えながら、牽制の光球を投げつけた。

「フンッ!」

 ルディアは左腕を素早く振り、その光球を弾き落とした。光球は泉の中に着弾し、大きな水柱を打ち上げた。

「え……遠距離戦は分が悪いか……」

 飛び散る水しぶきを浴びながら、ランスウィングは策を練った。

「だったら……接近戦ならどうだ!?」

 ランスウィングは気合いを入れ直すように叫ぶと、右腕を天高く突き上げた。すると、腕の先に黒い光が集まり、細長く伸びて剣の形に変化した。

「こいつで真っ二つにしてやるよ!」

 ランスウィングは暗黒の剣を構え、ルディア目掛けて高速で突進した。

「「エンジェル・シャイニングブレード!」」

 これに呼応するように、ルディアは美羽と共鳴する声で叫ぶと、右手をエスぺランスブレスにかざし、そこから素早く振り上げた。すると、ブレスから光が飛び出し、右手の中で剣が形成された。ルディアはそれを数度打ち振るうと、体の前で静かに構える。

「くだらねえ手品だな! そいつごと叩っ斬ってやる!」

「ハアッ!」

 突撃してきたランスウィングが振り下ろした斬撃を、ルディアは正面から自らの剣で受け止めた。衝突の勢いで、両者の顔が近づく。

「そうやって……秘宝の力を使ったからって、てめえが強くなったわけじゃねえだろ!?」

「あなたが今対峙しているのは、私一人の力でも、秘宝の力でもありません! 美羽さんと私……人間と天使の絆の力なのです!」

 ルディアは想いを込めてそう叫ぶと、剣を強く押し出し、ランスウィングを突き飛ばした。

「ぐ、グウッ……」

「ハーッ!」

 ランスウィングが怯んだ一瞬を突き、ルディアはその場で体を反転させた。そのまま右脚を引き、体を回転させながら蹴りの構えに入る。

「「エンジェル・シャイニングソバット!!」」

 叫びとともに、ルディアは鋭く右脚を伸ばし、ランスウィングの腹部に強烈なサイドキックを見舞った。

「ガーッ!!」

 体をくの字に曲げながら、ランスウィングの体は再び吹き飛んでいった。今度は空中での制御も利かず、蹴り飛ばされた勢いのまま後方の木へと激突した。

「……くっ、くそっ……ふざけるなよ!」

 大きなダメージを受けたランスウィングは、状況を打開するべく再び緋色の光球を作り出そうとした。しかし、形成の途中で光が四散していく。

「ありゃ、ど、どうしてだ!?」

「「これで決着をつける!!」」

 うろたえるランスウィングを見て、ルディアと美羽の魂の叫びがこだました。それをきっかけとするかのように、ルディアは腕を胸の前で交差させ、ランスウィングとの間に光の盾を作り出した。そして右手を体の前で水平に構え、左手を腰の辺りに引いた。

「「願いよ、駆け抜けろ! エンジェル・シャイニングレイ!」」

 ルディアは美羽と心を合わせて叫びながら、光を押し出すようにして左の拳を突き出した。すると、盾が金色に輝く光線へと変化し、ランスウィング目掛けて放たれた。

「グ……グワーーッッ!!」

 眩い光に呑みこまれたランスウィングは、悲痛な叫び声を上げた。身体の自由が利かず、口を動かすことしかできない。

「……くそっ、こんなところで……このまま願いの天使にやられてたまるか!」

 しかし、ランスウィングは憎しみとともに最後の力を振り絞ると、なんとか光の中から脱出した。

「……ハアッ、ハアッ……」

 自らの脇を通り過ぎ、凄まじい勢いで昇天していく光線を見届けた後、ランスウィングは息絶え絶えにルディアを睨みつけた。しかし技を出し終えた後も、ルディアの瞳には依然として油断なき強い意志が宿っていた。

「くっ、くそ……今日の所は引き上げだ!」

 ランスウィングはそう悪態をつくと、翼を翻してルディアに背を向けた。そして間髪入れずに沈み始めた夕日に向かって逃げ去っていく。

「……」

ルディアは追撃をかけることはせず、ただ黙ってその姿を見送った。彼女のほうにも戦う力は残っておらず、ランスウィングを睨めつけるのが精一杯だった。

「……美羽さん、ありがとうございました」  

 ランスウィングの姿が見えなくなった頃、ルディアはそう呟くと、ゆっくりと地上に降り立った。

「……できることなら、これから……共に……」

 ルディアは全身から光を発すると、小さくなって空中へと飛び立った。彼女が立っていた場所には、代わりに美羽の姿が現れた。

「元に……戻った……?」

 現実世界に舞い戻った美羽は、自分の体を見回し、どこかに異変が無いか確かめた。そうしている内に、光となったルディアが美羽の左腕のエスペランスブレスに収まった。美羽は翼の付いた腕時計のようなそのブレスを眺め、静かに呟いた。 

「……今のは一体……何だったんだろう……」

 自分に起きた出来事の答えを求めるかのように、美羽はぼんやりと泉を眺めた。だが泉は何事もなかったかのように、暮れなずむ夕日を反射しているだけだ。

「……分からないや。夢だったのか、現実だったのかも……」

 美羽は途方に暮れて頭を振った。そんな彼女を、赤ぶちの眼鏡を掛けた学生服姿の少女が、土手の上の道路から見下ろしていた。

「……そうよ。貴女は帰ってくる。ずっとこの日を……待っていた」 

「……え?」

 美羽に少女の呟きは聞こえなかったが、その不可思議な気配は感じられた。しかし、彼女が振り返った頃には、既に少女の姿はなかった。

「……願いの天使……」

 美羽はまだ頭の整理がついていなかったが、妙に確かな響きを感じるその言葉を発すると、家路に着くべくゆっくりと歩き出した。

つづく

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