ハードボイルド探偵バネントの日記 vol.1

 木曜日 雨

 俺の名はバネント。ハードボイルドを志す私立探偵だ。今日はこうして日記を書いている。何故なら、どうしても書きとめなきゃならんことがあったからだ。

 それにしても、この日記を書くのも久しぶりだ。前のページを辿ると、1月3日にタバコを買いに行ったことを書いて以来らしい。今は6月だから、俺は半年ぐらいなら日々の出来事を余裕で記憶できるようだ。決して三日坊主ではない。それは違う。俺は単に筆不精なだけだ。ハードボイルドな男とは、毎日女々しく日記なんかつけたりしない。多分そうだ。

 何の話だったか。そう、あれは俺が今日昼寝をしていた時のことだ。未来の自分のために誤解の無いように書いておくと、別に暇だったわけじゃない。むしろ逆だ。昨日の夜中に3か月ぶりの依頼をこなしたから、疲れを取っていただけだ。なかなかきつい仕事だったが、これで溜まっていた2か月分の家賃が払える。大家のバアさんは4か月分溜まってるとか言っていたが、多分嘘だ。が、言われたとおりにした。それにしても、随分と払いの良い仕事だった。何をしたか、よく覚えていないが。

 何の話だったか。夢だ。その夢で、俺は何やら不思議な生物に出会った。ピンクの羊っぽかったと思う。高校時代に好きな子の気を引こうとして購入したものの、そこまでの関係に至れず、結局そのまま家に置いてあるぬいぐるみのような雰囲気だった。これは俺の勘だ。ちなみに、俺の勘はよく当たる。

 何の話だったか。そう、タバコだ。違った、羊の話だ。とにかくそいつは、俺に伝えたいことがあるらしく、急に語り出した。急にだ。羊のくせに喋った。だが向こうからしてみれば、俺は人間の癖に羊の話が聞ける奴だと思ったかもしれない。人と羊、どっちが偉いか。そんなこと、誰にも分からない。

 何の話だったか。羊の話だ。別に俺は、久々の日記でテンションが上がってダラダラと長ったらしく書いているわけではない。だが、もう本題に入るべきだろう。

 羊の言葉によると、土曜日の夜に更新されてるやたらと女子ばかり出てくる小説は、今までどおり更新するらしい。こんなことを言われても、俺には正直意味が全く分からない。だが、そいつはいつも読んでくれてありがとうと言っていた。

 もう一つ、今日から毎日トークの形式で別の作品を投稿する予定だと言っていた。これはあくまで遊びとしての企画で、一日に一文だけ投稿して連載し、週末にまとめるつもりだということだ。よく分からんが、アホだと思う。そいつが言うには、中途半端な長さの短編になりそうなので、どうせなら普通に投稿するんじゃなく、変わった形式でお送りしようとのことだ。やはり、アホだ。ジャンルは恋愛小説だとの話だ。

 そして最後に、土曜日に連載を更新できないと思った場合、適当に茶を濁すと言っていたが――まるで意味が分からなかった――それはまあ、大体こんな感じの内容になると言っていた。こんな感じってなんだ。

 以上のことを日記に書けと言い残し、羊は消えた。そこから大穴馬券を買って臨んだ競馬で、俺の予想に反し1着になったカバが、俺の実の従兄だと知るというビジョンを経て、俺は目が覚めた。競馬などやったことのない俺でも、これはおかしな夢だと分かる。従兄は滅多に出走しない。

 何の話だったか。とにかく俺は、やるべきことはやった。つまり、①土曜日の更新はこれまでどおり。ただ夜遅くなるので、日曜日に読んでほしい。②毎日トークで一文連載を開始する。③土曜日に連載が更新されない場合、こんな感じの文が載る。④大家のバアさんは意外と融通が利かない。ということだ。四つ目に関しては、羊は何も言ってなかったかもしれない。

 今日はこのぐらいにしておくか。多分明日は、目も眩むような美女がストーカー被害に遭っていて、その護衛を依頼してくるかもしれないから。俺の勘は女と金のこととなるとまるで当たらないが、今回は違うだろう。とにかくもう寝よう。ところで、昨日仕事から帰った俺のスーツに緑色の謎めいた液体が付いていたのだが、一体何なんだろう?



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