ハードボイルド探偵バネントの日記 vol.4

 日曜日 雨 

 はい はい はい

 いいえ いいえ

 はい いいえ

 ――もういいだろう。これ以上続けても仕方ない。いや、無駄だと言っているわけでない。この世に無駄な物など存在しない。俺は飲み干した水の容器を捨てずに取っておくことがあるが、あれだってまったく無駄ではない。単に捨てそびれているだけの気もするが、おそらく気のせいだろう。

 俺が今日試みた実験について、未来の俺はどんな感想を抱いているだろうか? それはつまり、俺がこの次に日記を開いた時にどんな状況になっているかということだ。明日? それでも今はまだ遠い。明後日ですら幻想の時間。だが家賃を払うのは二週間後だ。ちょっと早すぎやしないだろうか。

 何の話だったか。そう、実験だ。俺は同居人を相手に、今まさに実験を開始した。首尾は上々だ。上手くいかない方法を一つ見つけた。この調子で行けば、すべての上手くいかない方法を見つけ出し、自動的に上手く行く方法に辿り着く。問題は上手くいかない方法がいくつあるかということだ。まあでも、多分大した数じゃないだろう。

 ただ、問題が無いわけじゃない。それはもちろん、家賃の話ではない。詳しくはよく分からないが、俺はもう家賃に関しては頭を悩ませていない。もちろん、家賃さえ無くなれば日々の食事がかなりグレードアップすることになるが、それは贅沢というものだろう。もう水だけで生きていなくてもいいのだから。

 俺の問題とは、人類の永遠のテーマである。そう、一足の靴下のうち、選ばれし片方だけが旅立つという靴下ワールドへと向かう道だ。違った、コミュニケーションだ。

 コミュニケーションには平等というものが大切だ。例えば、片方の人間だけがベラベラと喋りたて、もう一人は一言か二言しか話さないというのは良くない。だが、これはあくまで表面上での話だ。本質的には、平等でなければならないのは話す言葉の量ではなく、話そうとする努力の量だ。鼻くそをほじりながら話す相手と話す時は、せめて耳くそをほじりながら話さなければならない。何だか例えが違う気がするが、大体そういうことだ。

 問題は俺の努力だ。俺はコミュニケーションに於いて、今まで明らかに努力を怠ってきた。そのツケが回ってきた。こいつは家賃なんかより重いが、俺はやらなきゃならない。多分そうだ。俺の同居人はもうこれ以上は努力出来ないだろう。だから、俺がやる。今日確かにそう決めたと、未来の俺は知っておいて欲しい。

 いいえ



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