ガラガラ、どんどん
ガラガラ、どんどん
「これはなんというんだい、だんな」
うちわをあおいで、男が狸へ声をかけた。
「鳴神といいましてね、ここがお囃子の通り道なんですよ」
この時期はこれのおかげでなかなか外に出れなくてねえ、とぼやきながら、狸は男にお茶を差し出す。
「おや、お客さんにこの湯呑は小さかったかな。すみませんよ、ここへ来るのは小さいやつばかりなんでね」
「それでいいよ。食べるのは、そいつだから」
恐縮したように肩を縮める狸に、なんでもないように男が隣を指さす。男の隣には、空の騒ぎに目もくれず、お盆の上をじっと見つめる一つ目の鬼があった。
「はぁ、こちらのお客さん、お食べになるんですね。こいつは失礼を」
どんどん、ガラガラ
「こいつはもう一品頼まないといけねえな。どうも長引きそうだ」
お囃子は軽やかに、空を駆け回っていた。