フジミツ タスク

不定期に小説を投稿しています。こういったブログやSNSには不慣れな者ですが、よろしくお…

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不定期に小説を投稿しています。こういったブログやSNSには不慣れな者ですが、よろしくお願いします。

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最近の記事

感想『愛されてんだと自覚しな』

 前回の投稿から一年と少し経ってしまいました。その間に一本長編の小説を書き上げて賞へ応募し、また新たな小説を書いていることを考えると、どんな形であれ日々忙しない中で物語を紡ぎ続けているのは良い傾向なのかもしれない、と自分の中では考えています。  逆に小説を読む機会はめっきりと減ってしまって悩ましかったのですが、やはり自分にとって理想の一人である作家さんが書かれた物語は気になってしまうものなので、河野裕先生の最新作『愛されてんだと自覚しな』の感想を少々綴ろうと思います。  今

    • 感想『君の名前の横顔』

       最近は賞に応募する為の長編小説ばかりに気を取られていて、noteへ短編を投稿できないどころか、文章の書き方のインプットとアウトプットをごちゃ混ぜにしないように読書そのものも避けていました。  しかし友人から感想を聞いてどうしても気になってしまったので、河野裕先生の最新作である『君の名前の横顔』を読んだ感想を綴ろうと思います。読み始めたのが22時頃でこれを書いているのが真夜中の2時頃になるのですが、今すぐに自分の感情を言葉に落とし込みたいと思えるほどに、深く考えさせられる物語

      • 短編『夕刻のアイスクリーム』

         最後の直線に差し掛かり、無我夢中で先を目指す。トラックのタータンを交互に蹴り上げる両脚は、まるで自分のものじゃないみたいだった。体に鞭を打ち更に速く前へ進もうと、少し前を走る背中を見据える。  それから二十秒も経たないうちに、到着地点のゴールを走り抜ける。結局目の前の選手を抜かせなかった私は、二着だった。元々二番手でアンカーとしてバトンを受け取って差を縮めたものの、一位を奪うまでには至らなかった。  しばらくトラック上で立ち止まり、肩で息継ぎをする。空を見上げると真夏に相応

        • 短編『青の餞』

          「先輩、辞めてしまうんですか?」  仕事の休憩中、突然話を切り出した先輩に対して僕は困惑を隠せなかった。 「黙っていてすみません。もう再来月には東京にいないんです」  彼女は申し訳なさそうに告げると、ゆっくりと僕から目を逸らした。一年程の短い付き合いではあるけれども、先輩が丁寧語以外で話をしているのを聞いたことがなかった。  一月の半ばも過ぎた頃、休憩室は僕ら以外にも他のスタッフ達がくつろいでいて、少し混雑していた。僕は普段休憩室をあまり利用しないけれど、外の見晴らしが良い公

        感想『愛されてんだと自覚しな』

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        • 短編 前後編1
          2本

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          感想『昨日星を探した言い訳』

           待ちに待った河野裕先生の最新作、『昨日星を探した言い訳』を読了しました。  今回の最新作はカドブンでも連載されていましたが、一気に終わりまで読みたかったので、単行本化を待っていました。  シリーズものではなく一本完結だったためすんなり読みきれましたが、読み終わった後に残った感情が多岐へ亘ったので、少し感想を綴ろうと思います。  本来は三ヶ月ほど前に読み終え、感想を綴り終えていたのですが、短編の後編を書き終えた今のタイミングだからこそ、投稿しようという気になりました。

          感想『昨日星を探した言い訳』

          短編(後)『この世界に、神さまがいなくても』

          「ねえ、レイ」  誰よりも透き通った声で名前を呼ばれた僕は、ゆっくりと後ろを振り返る。僕の視線の先に佇む少女は、いつも哀しそうに笑い、辛そうに話をする。まるで彼女は、自分が紡ぎ出す言葉は全部間違っていると、確信しながら生きているみたいだ。 「この世界に、神さまはいると思う?」  静かだけれど、真っ直ぐに僕の元へ届く少女の言葉は、いつだって心地良かった。 「僕は、いないと思ってる」  出来る限り彼女と交わす会話の波長を乱さないように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。  僕の答えに概ね満足

          短編(後)『この世界に、神さまがいなくても』

          短編(前)『この世界に、神さまはいますか』

           私が高校に通い始めて三年目になるが、登下校の際、毎日気になっている場所があった。それは、住宅街から少し外れた所にある小さな教会だった。  家から学校まで、歩いておよそ二十分かかるが、その道のりの中程に教会は位置している。朝も夕方も思わず目線を送ってしまうその場所は、どこかこの世のものとは違う世界に思えていた。  けれども、興味を惹かれるだけで足を踏み入れたことは一度もない。自分と今まで関わりのない所へお邪魔するのは、少し気後れしてしまうからだ。  私は、神さまを崇拝している

          短編(前)『この世界に、神さまはいますか』

          短編 『箱を壊して、触れたくて』

           重苦しい音を立てて到着した電車に乗り込もうとした時、ふと思い出したように自分のポケットを確認した。触ったり叩いたりしてみても、両腿とコートのポケットには何の手応えもなかった。一つ溜息を吐き、電車に乗るのを諦めて踵を返す。どうやら、携帯電話を置いてきてしまったらしい。  ゼミの講義室でカレンダーを確認するために携帯電話を開いたところまでは、記憶があった。それ以降はおそらく、触っていない。  改札を逆方向にもう一度通り抜けて、僕は再び大学へと戻ることにした。  校舎の四階

          短編 『箱を壊して、触れたくて』

          短編 『テレスコーピオは夢の跡』

           十一月に入り、少し凍てつく夜が増えてきた。厚手の黒いコートを羽織って、僕は家のドアを開いた。空を仰ぐと、満天の星が視界いっぱいに広がる。今日が曇りにならなかったことに心から安堵し、家の裏にある庭へ向かった。  僕は庭の端に佇む、小さな天体望遠鏡の前で足を止めた。これを外に持ち出すのも、今日で最後になるかもしれないと思うと、胸が痛かった。  望遠鏡を一度地面に降ろし、支えていた三脚を折りたたんで、細い布製の袋へ詰める。袋の紐の部分を肩で担ぎ、望遠鏡を脇に抱える。銀色に塗られた

          短編 『テレスコーピオは夢の跡』

          短編 『366日目のキミへ』

           真っ赤な郵政カブが、潮風を浴びながら目的地へと向かう。七月も終わる頃、本格的な夏を彷彿させる熱気の中、先へ先へと車輪が駆動する。日が沈みかけた夕暮れ、本日最後の郵便物を届けるために、僕はオートバイを走らせていた。オレンジの光に反射した海を傍目に、海岸を使うルートで配達するのが、日課の楽しみだった。  海岸を抜けて、山道を少し登った坂の上に、小ぢんまりした古い建物へカブを停める。入り口に立ち見上げるように視線を移すと、塗装が少し剥がれている看板には、『しおり』と書かれている。

          短編 『366日目のキミへ』

          短編 『合わせ鏡の涙と雨』

           校舎の廊下を歩く足音だけが、響き渡る。先ほど階段を登った時も誰ともすれ違わず、廊下に出ても他の人は見かけなかった。  ふと窓の外へ視線を移し、足を止める。閉じられた窓が無数の水滴を弾き、雨音を奏でている。濡れた硝子の先にある景色は、雨水で滲んでいてよく見えなかった。  外から視線を外し、再び歩き出す。しばらく廊下を先に進み、『二年一組』の表札が掲げられた教室の前で、立ち止まる。少し耳を澄ませてみたが、特に物音は聞こえなかった。  教室の引き戸に手を掛けて、少し力を込める。カ

          短編 『合わせ鏡の涙と雨』

          感想 映画/小説『天気の子』

          これは–––僕と彼女だけが知っている、世界の秘密についての物語  公開初日と今日の2回、映画『天気の子』を見終えて、2回目を見る前に小説版『天気の子』も読了したので、少し感想を綴ろうと思います。本編の内容にも触れるので、ネタバレはご容赦ください。  映像の美しさと音楽の良さは、圧巻の一言に尽きます。「天気」という壮大なものが話の中心にあるだけに、細かい雨水と晴れ間の描写、そこに絡むBGMが本当に美しかったです。  新海誠監督の作品は『ほしのこえ』から『君の名は。』まで、

          感想 映画/小説『天気の子』

          短編 『蛍の行方に、明かりが灯る』

          「蛍は、一週間ほどで死んでしまうんだ」  まだ小学生のわたしに、兄は語りかけた。二人で毎日のように、蛍を草原へ見に来ていた頃の話だ。 「どうして?」  純粋な疑問だったからか、幼いわたしは兄に問いかけた。柔らかな風で、白と黄色に彩られた花が揺れるのを、ただ眺めていた。 「成虫になると、食べ物が食べられずに水しか飲めなくなってしまうんだよ」  苦笑しながら、兄はわたしに優しく語りかける。いつだって怒鳴ることもなく、何か間違っていたら優しく正してくれるのが兄だった。  足元から伸

          短編 『蛍の行方に、明かりが灯る』

          短編 『ただ、投げ捨てたかった願いは』

           会社を退勤した後、僕は通っていた高校のすぐ側にある、小さな湖へ向かっていた。高校を卒業するまでの間に数えきれない程訪れていたその場所だが、約五年ぶりに再び足を運んでみようか、と思いついた。  夜が深い中、賑わいも無く灯りが消えた商店街を抜けて、広い道端から外れた湖に辿り着く。最低限の外灯しか存在しないからか、それよりも明るい満月と星々が水面を照らしている。夕方の時間にしか訪れたことが無かったため、初めて来た場所のように思えた。 「この場所は、こんなに綺麗なのに」  暗闇の最

          短編 『ただ、投げ捨てたかった願いは』

          感想 『きみの世界に、青が鳴る』

           五年前、友人から借り受けたシリーズ一作目の『いなくなれ、群青』と出逢い、ついにシリーズ最終巻、『きみの世界に、青が鳴る』を読み終えました。  普段は何か読み終えた後、感想を文字に起こすことも無いのですが、またとない機会なので、最近まともに触れ始めたnoteへ綴ろうと思います。  本作の作者である河野裕先生の別作品、『サクラダリセット』も全て読了しているのですが、『サクラダリセット』の世界観をより抽象的に描いたものが『階段島シリーズ』の世界観というイメージを抱いています

          感想 『きみの世界に、青が鳴る』

          短編 『幸せのサンタクロース』

           目を開けると、星々に照らされた海が、さざ波を立てている。果てなど見えるはずもなく、どこまでも続いているその景色を、ただ眺めていた。  七月七日、僕はたしかに自分の部屋にあるベッドで眠りについたはずだった。それがどうして、こんな場所にいるのだろうか。深い青色の海から自分の服装へ見下す形で目線を移すと、半袖の黒いシャツに薄手の黒いスェットという簡易的な格好だった。やはり、僕の寝巻きで間違いなかった。  砂浜も海と同じで、終わりが全く見えない。頼りない明るさしかないせいか、それと

          短編 『幸せのサンタクロース』