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メイクカウンター越しから見た世界 その1

僕の名刺には、名前の他に会社名(店舗名)と住所はじめ連絡先 の他に、2つの肩書き的なものを記載しています。

「メイクアップアーティスト / ビューティアナリスト」

メイクアップアーティスト は、言葉のごとくメイクをするアーティストです。ビューティアナリストは、美容に関してのアドバイスや診断、分析させていただきます。

メイクカウンターでお客様やモデルさんなどにメイクをさせていただくときに、彼女たちのメイクを通して見えるそれぞれ素の心の顔。
メイクはキレイになる1つですので、みんなうれしくなることではあるのですが、それぞれメイクカウンターの鏡ごしに見せる顔が違う。毎日メイクをしている僕が出会ったメイクカウンター越しの世界へようこそ。

いつも笑顔の女性と、いつも下を向いている子

いつも笑顔の女性がいる。彼女はとにかくニコニコしている。笑っていない時も瞳がキラキラしている。僕がメイクをすると1つ1つのコスメに対して、「わぁキレイですね!」「わぁ一気に目が大きくなった!」と過剰と感じるくらい反応する。すべてにおいてプラス波動なので、僕は返って遠慮気味になってしまいナチュラルに仕上げてしまう。そうなると「この色つけてみたいです!」とハッとするような華やかだったり派手なカラーを指名する。
お見送りの時も「ありがとうございました!今日はキレイにメイクしていただいて嬉しいです。また来ます。」と何度も丁寧にお礼を言い、手を降って帰っていく。
インスタグラムなどのSNSもやり過ぎていない友人との楽しい時間やポジティブに仕事をしている様子が伺える。そして彼女は世間でいう美人さんの部類に入る。旦那様もかなりのイケメンである。
何も文句のつけようがないのだけど、風の噂で聞いたこと。お子さんずっと欲しいと思っていた。そう彼女にはお子さんがいない。20代前半で結婚してずっとお子様に恵まれなかった。
メイクカウンターでの笑顔、SNSでの笑顔、でも彼女も笑顔でない時があるんだなと。でもそんな姿は絶対見せないんだろうな。今日も彼女のSNS投稿を見ながらそう感じた。

いつも下を向いている子がいる。ずっとうちの店に来てくれているのだけど、メイクカウンターの鏡の前では伏せ目がちな姿勢になってしまう。もともと赤ら顔が悩みの子で、社会人になる直前にファンデーションを試して購入していただいてからのお客様。社会人になってからはストレスからか赤ら顔にニキビができるようになった。
目的のお買い物が終わった後、「ちょっとメイク直ししましょうか」と声をかけると、とっても小さな声で「はい」との返事。とっても真面目な子で、こちらからお話ししないと会話はほとんどない。
僕:「今日も暑いですね」
 :「はい」
僕:「これからお出かけですか」
 :「はい」
僕:「お直しして、せっかくだから何かポイントメイクつけていきましょか。  つけてみたいものありますか?色とか?」
 :「・・・・・・」
僕:「じゃあ、この新色テスター入ったばかりだから、これつけましょうか。(どの番号つけますか?どんな仕上がりにしますか?と聞いても難しいかな・・・)今日はこれでいつも目元にプラス感じでつけますね!」
 :「お願いします・・・」
こんな感じの初めて見たら、かなりぎこちない会話のやりとりでも、もう7年以上こんな感じのやりとりなのだ。
「ごめんなさい、ちょっと上向きましょう」とすぐ伏し目がちになりやすい体勢を持ち上げてメイクを仕上げる。
そこで僕は「ちょっと席を外しますね」などとその場を離れたりする。彼女の視線から消えるようにする。
その時伏せ目がちな姿勢から、鏡を覗き込む。そしてニコっと口元が笑顔になる。口角が上がるだけなくらいのほんの小さな変化なのだけれど、今日うちの店に来てから1番の可愛い顔になる。すごく僕的に嬉しい瞬間。
「すみません、お待たせしました」とカウンターに戻ると、またいつもの伏し目がちな姿勢に戻ってしまう。
そんな彼女も最近彼氏が出来たようで、彼が外で待っている時がある。あんまり突っ込んでも話してくれないので、「店内で待ってもらっても大丈夫ですよ」と言うと、「大丈夫です・・・」
彼は彼女よりもさらに真面目そうで安心する反面、心配にもなる。
僕:「何かつけて行きましょうか」
 :「はい」
メイクカウンター、今日もいつも変わらない会話なのです。

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2人とも100人に1人もいないパターンの女性だと思う。


だから僕は大事にしたい。
メイクカウンターで彼女たちと過ごす時間を。



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