見出し画像

法務がやるべきこと、やっちゃいけないことをくそ真面目に考えてみる

私は普段企業法務の仕事をしています。(1社目はベンチャー企業で法務以外にも営業やライティングもしてました。2社目は上場企業で法務として働いています。)

一般的に法務の仕事とされるもののうち、主に契約法務、商事法務、訴訟法務、内部統制などを行っていますが、一番時間を割くのがやはり契約法務です。

そういった仕事の中で、多数の法務の方との交渉などに関わりこうした方が上手くいく、あるいはこういうことは意味がなく嫌われるといったことをまとめてみようと思います。

正直ビジネス法務などにはもっとしっかりまとまっていると思いますが、ネット上で簡単に把握できることが少ないので私の経験が誰かのお役に立てればと思います。

※先にお断りしますが、これは私個人の感想であり、絶対に正しい考えではなく客観的なデータには基づいていません。また、所属する企業、団体の意見を表明するものでもありません。

法務として意味ないなと感じること

この状況に出会ったのは過去3回ほどあります。前職で1回と現職で2回です。いずれも業界では大手とされる企業の法務担当者との契約交渉でした。

結論から言うとどのようなリスクを想定した修正なのか分からないという修正提案です。

具体的には、法律上の効果が変わらないにも関わらず、ひらがなを漢字に変えたり、点を追加したり、想定されるリスクが現実的に存在しないにもかかわらずリスクを想定した条文を追加したりといった修正です。

(1)修正が形式的すぎる

相手の契約書の数字の全角を半角に変えたり、ひらがなを漢字に変えるといった修正が行われることがあります。このような修正はほとんどの場合契約の効果に影響を与えません。

重要なのは契約の効果とそれが適用される要件かと思います。

推測するに修正した側としては社内のマニュアルがそうなっている、あるいは社内の管理上の問題(例えば検索のしやすさなど)からそのような修正をしているのではないかと思いますが、そのような場合はせめてそのように一言を断りを入れるべきなように思われます。

契約修正を実際に行うのは双方の企業の法務担当者である場合が増えていると思いますが、法務同士の信頼関係が崩れるとそもそも契約を見直すべきではないかという話になってしまいます。

法務のあり方として自社の都合をなんの説明もなしに相手に押し付けることは、特に信頼関係を前提とする長期の取引では重大な影響を生じてしまうのではないでしょうか。

そしてなんといっても、その修正によって法律効果としてなんらかの利益も生まれませんので、不毛なように感じます。

(2)商流や商品特性を全く理解しようとしない修正

法務担当者は、職務の特性上現場に出て商品そのものを扱う機会がどうしても限られます。特に会社の規模が大きくなるほど、少人数の人間で会社全体のリスクヘッジや統制、組織運営を行う必要が出てきます。

したがって、自社の商品の理解は現場担当者に比べ希薄になりやすく、ましてや他社サービスであればなおさら契約書だけ回され全く分からないということもあると思います。

そのような中で最初の修正において商品特性に理解がなかったり、現実的に生じないリスクに対処しようとする修正を行ってしまうのはある程度仕方ない面もあるかと思います。

この点に関しては、商品を提供する側の企業担当者がある程度説明をすべきであると言えると思います。

また、業務効率向上のためにテンプレートを利用したり特定の用語へ必ず変換するという処理は必要なものとして理解できると思います。

しかし、法務担当者も可能な限り商流と商品に関する理解に努力と配慮を行うべきではないかと思います。

特に、商品特性やキャッシュポイント、支払時期、全体の商品と金銭の流れ、利益率、双方が支払うべきコストといった全体を俯瞰した流れの理解が必要かと思います。

例えば10万円の商品の取引において、売り主の粗利が1万円もないような場合に買い主が不可抗力による損害においても一切の賠償を売り主に求められるという契約の修正はどの程度現実的でしょうか。

あるいは、パソコン1台を買う際にパソコンに関するすべての権利(特許権や知的財産権なども)を求めたとして、その取引は成立するでしょうか?

確かに大手企業であれば取引先を選べる立場にあり、すべてのリスクを取引先に押し付けるか、それができなければ他の取引先にシフトするということはありえます。

しかし、発生確率がほとんど0%のようなリスクの管理のために取引先を変える場合、現場の負担が増え、結果として費用だけが増大するように思えます。

上記の書籍では、より実際的な法務のあり方について、経済、経営の観点から分析を行い期待値による判断の有用性を推奨しています。

リスクの見積もりを正確に行うことで、より有益な法務の役割が発揮できるのではないでしょうか?

法務の役割とは決して字面の見栄えを良くするといった自己完結的なものではないように思います。

(それ自体は否定しませんが、本質的ではないように思われます。取引が見えない場合他に楽しさを見いださなければ仕事が続けられないので。。。)

契約審査を行う上での心得

結論から言えば、取引実態にあった形でリスクと利益を当事者で適正に配分し、それを契約上表現するということを目指すのがまずは重要ではないかと思います。

よく法務の人はかたいとか融通がきかないという話があり、一面においてそれは事実であり、むしろそういう役職でもあるとは思うのですが、企業法務に携わる人間はビジネスパーソンであり、商人でもあるはずです。

そのため現実の中で企業の利益を追求するという大きな目的のなかで法務の職務を達成するべきではないかと私は思います。

法務の方の中にはリスクがあり得るのであれば全てに対処しようとする方がおりますが、私はその考えにはあまり賛同できません。法務の仕事はリスクをゼロにすることではなく(現実的にそんなことはできないと思います。)取らなくて良いリスクを回避することではないでしょうか?

言い換えればリスクを許容可能な範囲に低減するのが役割と言ってもいいかもしれません。(もちろんそれに縛られる必要はありませんが。)

特に契約法務において自社がリスクをとならいということは、相手方当事者にリスクを押し付けるということになり得ます。取引は双方にメリット・デメリットがあり、総合的にwin-winの関係を持つことが目的です。特に長期継続する取引では信頼関係の醸成が非常に重要となってきます。

契約書に必要もなく赤を入れたり、一方的な理由で修正し、その説明もしないということは取引を継続する上であまり望ましいものではないように思います。それは、大企業の背中を借りているからこそできることであり、法務としての個人的力量としては望まれないのではないでしょうか。(逆に言えば大企業が代替可能な商品の取得のためにデメリットを取引先に押し付けることは必ずしも否定されないと思います。ただし、意味のない修正は基本的には不毛で時間の無駄のようには思います。)

また、商流や商品理解が行われた場合、契約の相手方を説得する材料が増え、結果として自分の望む結論に相手を説得できる可能性も高まると思います。

私が過去に経験した現実を無視した修正提案についても、商品特性と商流を説明してリスクの発生割合や利益配分からどちらがリスクを負うべきかを説明したところ、最終的には理解を示していただけました。(納得したかは別としてですが。)

まとめ

以上はあくまで私がベンチャー企業や一上場企業にいての感想ですので、超大手の大企業にいると違う景色が見えるのかもしれません。

しかし、弁護士に契約書のレビューを依頼して終わりではなく企業内に法務担当者を備えるメリットは、あり得るリスクの全てに赤ペンを入れるのではなく、企業実態に合わせて適切なリスクのコントロールをすることにあるのではないでしょうか?

単に、これがリスクだと担当者に言うのではなく、どうしたらそれを低減できるのか、取れるリスクはどれなのかを一緒に考えるクリエイティブさが企業法務には必要になると考えています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?