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2019吹田市長選挙で後藤圭二さんはなぜ再選できたのか

 2019年4月21日投票の吹田市長選挙は、無所属現職の後藤圭二さん(自民・公明推薦)が、60,708票を得て、大阪維新の会新人のえのき内さとしさん、無所属元職の阪口よしおさん(立憲・国民・社民・自由推薦、共産支持)をやぶり、2回目の当選を果たしました。

画像は、吹田市長選 | 統一地方選挙 2019 | NHK選挙WEB より


後藤市政を初当選からふりかえる

 後藤さんは、2015年4月の市長選で元市長の阪口さんや当時の現職市長だった井上哲也さん(維新推薦)をやぶって初当選しました。この際、後藤さんは自民・公明から「人物本位」(当時、公明党吹田支部長談)で推薦を受けるとともに、長年吹田で市長を輩出してきた「明るい革新吹田市政をすすめる会」から求められた6項目の課題について文書で考えを回答し、同会の自主支援を受けたことも918票差の勝因と言われています。

後藤圭二氏と明るい革新吹田市政をすすめる会との文書確認

●「政治とカネ」の問題の根を断ち、清潔、公正な市政をすすめること
●行政の維新プロジェクトは一旦白紙に戻すこと
●何でも民営化ではなく、地方自治体の公的な役割と責任を果たし、暮らしを守るとりでとして、福祉の増進に努めること
●上からの統治機構改革ではなく、行政も、議会も住民の声を生かした改革と運営を貫くこと
●暮らしを壊し、大阪を壊す大阪都構想はストップ。吹田への押しつけに反対すること
●憲法と地方自治法を遵守し、健康づくりまち宣言、非核平和都市宣言、安心安全の都市づくり宣言を守ること

(2019年3月1日 吹田市議会本会議での塩見みゆき議員の質問より)


 当時は、井上維新市政下で数々の市民サービスが削減されていました。後藤さんは、「対話と傾聴」をスローガンに掲げ、「公立保育所の民営化を、現場も知らずに『運営費の高い安い』で判断すべきではない」「民主的な議論を経ずにこれまでの方向性を変更した事案については、改めて白紙から意見交換をして新政権としての方向性を議会、市民に問う」として、大きな期待を集めていました。


「市民党」から一転、再び自公推薦へ

 しかし、4年間の市政運営の中で、自民・公明・共産との関係が悪化。とりわけ、「選挙公約には法的な制約より重い『市民へのお約束』という政治生命そのものの重さがある」(2015年3月、公開質問状への回答)とコメントしていた後藤さんが、公立保育所5園の民営化実行や障がい当事者との話し合いなく重度加算を削減したことに、関係者は「裏切られた」と不信感を募らせました。

 昨年11月25日に後藤さんが出馬表明した場には、公明市議と無所属クラブの生野秀明市議以外、市議会関係者は誰も参加しませんでした。さらに、この場で後藤さんが、「1期目は政党推薦をいただいて薄氷の勝利を得た。今回は政党の応援はいただかずに『市民党』という党があるのかどうか、市民のみなさんに応援していただいて今の政策を継続していく。無所属の身でご審判をいただきたい」と述べたことで、後日、「唐突感を否めません」(公明・井上真佐美市議)、「これらの政党のこの政策と後藤市長の考えに何かそごが生じてきたと、そういうことなんでしょうか」(維新・えのき内さとし市議)と追及されることになりました。

 こうした後藤さんの動きに対して、自民党の中には、府議選に立候補予定の奥谷正美市議を対抗馬に立てるべきという議論がおこりました。
 また「明るい革新市政をすすめる会」は、後藤さんが約束を裏切ってきたこと、障がい者重度加算について後藤さんが「予算を削減することはありません」と言っていたのに補正予算で2000万円、来年度予算で8000万円を削減したことで決裂し、過去の市政運営への反省を表明し、文書で政策協定を結ぶことに応じた阪口よしお元市長との間で政策合意に達しました。

 さらに大阪維新の会の知事と大阪市長が辞職し、「入れ替え選挙」を行い、その影響で維新新人のえのき内さんが浮上する可能性が強まりました。
 「現職だから自分は強い」と豪語していた後藤さんですが、この事態に困り果て、「追いつめられている」と自民党のとかしきなおみ衆院議員に頼んで、自公から推薦を受けるに至ります(とかしき氏、3月談)。
 ある自民党市議の関係者は、「奥谷さんを立てるという話があったが、党内の『上下関係』があって出ないことになった」と語っていました。

 「政党の応援はいただかずに『市民党』」として挑戦すると表明してから一転し、政党推薦を依頼したことについて後藤さんは一度もその理由を説明していません。


後藤さんの勝因は? その1

 こうした後藤さんの姿勢に自公両党は強い不信感を持ったまま選挙戦に突入することとなりました。
 前回は自公候補の宣伝カーから、「市議は●●、市長は後藤圭二」とアナウンスがありましたが、今回はどの候補からもなく、公然と阪口よしお元市長の出発式に参加する自民党元市議の姿もありました。
 維新は選挙中、「大きな組織(現職)とたたかっています」と訴えていましたが、NHKの出口調査を見れば、後藤さんは推薦を受けた自民支持層の5割、公明支持層の6割しか固めきれていないことがわかります。

吹田市長選の出口調査|NHK 関西のニュース
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20190421/0014750.html

04月21日 20時02分
NHKは21日、有権者の投票行動や政治意識などを探るため、出口調査を行いました。
大阪の吹田市長選挙では、市内の16の投票所で有権者1757人を対象に調査を行い、このうちおよそ65%にあたる1138人から回答を得ました。
一方、20日までの期日前投票で有権者のおよそ10%にあたるおよそ3万人が、投票を済ませていますが、これらの方々は調査の対象にはなっていません。
この調査結果はあくまで、21日投票した方々の投票傾向を表したものです。

NHKの出口調査によりますと、吹田市長選挙は、▼大阪維新の会の新人で元吹田市議会議員の榎内智さんと▼無所属の現職で自民党と公明党が推薦する後藤圭二さんが競り合っています。
▼大阪維新の会の榎内さんは、大阪維新の会と日本維新の会の支持層の70%台後半を固めたものの、無党派層からの支持は20%余りにとどまっています。
▼無所属の現職の後藤さんは、推薦を受けた自民党支持層の50%余り、公明党支持層の60%余りの支持を得たほか、無党派層からおよそ50%の支持を集めました。

 では、なぜ後藤さんは勝利できたのか。注目ポイントは、無党派層の50%が後藤さんを支持している一方、維新のえのき内さんは20%しか獲得できていないことです。これは2週間前に行われた大阪府知事選で、府内で維新候補が無党派の61.5%(FNN調査)を獲得して圧勝したことと対照的です。 

(参考)自民票、維新へ流れる 大阪ダブル選出口調査
https://www.sankei.com/politics/news/190407/plt1904070035-n1.html

 吹田市は2015年まで維新市長で、市民サービスのレベルダウンや「政治とカネ」の問題が噴出していました。選挙戦で対立する市長候補や市議候補らが維新批判を強める中で、その記憶が呼び戻されたこと、えのき内さんが市内全域で知名度があるわけではなかったことが要因として考えられます。

 ただ、この傾向は前回も同様で、下の画像のように2015年の出口調査でも後藤さんは自民支持層の50%程度、公明支持層の60%程度しか固めきれていません。この時は、現職で維新推薦の井上哲也さんが維新支持層さえ固めきれず、3位で落選しました。

 また吹田市長選と同日に行われた八尾市長選では、現職の田中誠太さんが、公明支持層の80%台後半、自民支持層の約60%、無党派層から50%台後半の支持を得たものの、維新候補に敗北しています。

八尾市長選の出口調査|NHK 関西のニュース
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20190421/0014754.html
…大阪維新の会の大松さんは、▼大阪維新の会と日本維新の会の支持層の80%余りを固めたほか、▼無党派層から30%余りの支持を得ています。
一方、無所属の田中誠太さんは推薦を受けた▼公明党支持層の80%台後半を固めたほか、▼自民党支持層からおよそ60%の支持を得ています。また、▼無党派層からも50%台後半の支持を得ています。

 出口調査の精度にもよりますが、一定の投票傾向を示していると考えると、次のことが言えそうです。

 ①八尾市と比べると吹田市は無党派層が多く、相対的に維新支持層が多くない。後藤さんの勝因は、無党派層の支持を得たこと。

 ②後藤さんが前回より得票を約1万8000票も増やしたことは、「維新はいや」という無党派層の支持を現職の知名度・求心力で獲得したことと、今回の出口調査では読めませんが、前回自主支援した共産支持層や阪口さんを推薦した立憲民主支持層などが維新回避のために一定程度、現職の後藤さんに投票した可能性があること。

 ③その反面、阪口さんは前職だった前回選挙では新人の後藤さんより、「維新はいや」という無党派層から多く支持を得たが、今回はその票は後藤さんに入り、前回は獲得していた自民党支持層の一部をえのき内さんに奪われたため、得票を減らすこととなった-と考えれます。


後藤さんの勝因は? その2

 もう一つ注目したいポイントは、後藤さんの公約への反応です。後藤さんは今回100項目の公約を提案していました。自身のSNSには公約で「やってほしいこと」の投票結果を公開していますが、この上位を見ると、「子ども医療費の助成対象を高校生まで拡大」(2位)、「中学校給食」(4位)、「保育の質は落としません。その上で保育所・認定こども園を増」(5位)となっています。

 例えば中学校給食については、昨年、全員が食べられるあたたかくておいしい中学校給食を求めて、吹田市長あてに1万3,300人、市議会あてに1万人を超える署名が提出されています。吹田市教育委員からも「まずは全校で全員喫食に」と意見が出ており、ニーズが高まっている課題です。

 また、これらは阪口さんも「明るい革新吹田市政をすすめる会」との政策協定を結んで重点政策にしていた項目で、後藤さんが子育て中の無党派や共産支持層の支持を得ることに影響があった可能性があります。


まとめ 何が期待されたのか

 選挙結果から言えることは、まず「維新市長はいやだ」という市民の思いがはっきり示されたということです。後藤さんと、3位になった阪口さんを合わせると、投票者の67%が維新を選んでいないことがわかります。

 次に政策的には子育て支援を強めてほしいという思いです。上記のようにこの点では後藤さんと阪口さんの政策に共通するものもあります。ただし、同様の政策を掲げた阪口さんに一定の得票があったことは、後藤さんが前回約束を守らなかったことへの不信感もあったことと思われます。

 議会構成に大きな変化がない中で、2期目の後藤市政がこれまで掲げた公約や発言を守って吹田市政をすすめていくことができるか、1期目の時には不十分だと言われていた「対話と傾聴」の姿勢を貫くことができるか、注視されています。

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