スカーレットちや子

朝ドラ『スカーレット』の「中淀市」は吹田か?ちや子のモデルは??

『スカーレット』に登場する「中淀市」はどこ?

 NHKの連続テレビ小説『スカーレット』を観ていますか??

 主人公・川原喜美子(戸田恵梨香)が戦争で焼けた大阪から信楽(現・滋賀県甲賀市)に家族でやって来て、やがて陶芸家となっていく姿を描いたドラマです。

 このドラマに「中淀市」という架空の町が登場します。
 吹田にある「太陽の塔」で有名な岡本太郎がモデルになっているともいわれている世界的芸術家・ジョージ富士川(西川貴教)が特別講師をしている美術研究所があり、喜美子の友人・庵堂ちや子(水野美紀)の事務所がある町です。

 「ん?『中淀市』ってもしかして吹田がモデルじゃない!?」と思う描かれ方があったので、吹田との共通点を紹介します。そして、庵堂ちや子によく似た実在の人物についても紹介したいと思います。

ドラマ内に「大阪市」は別に存在している

 「中淀」という名称から、東淀川区・西淀川区・淀川区を抱える大阪市が「中淀市」のモデルではないかと最初は推測しました。
 でも、じっくりドラマを振り返ってみると、喜美子が大阪の荒木荘で働くことになる場面に登場する文書には、「大阪市南区下心斎橋八丁目二番・・・」と住所が書かれており、「大阪市」は別に存在していることがわかります。

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大阪の保育・学童運動が登場

 第17週「涙のち晴れ」のエピソードで、主人公・川原喜美子(戸田恵梨香)は、大阪万博開催80日前(1969年)の大阪にやってきます。そこで喜美子は、フリーランスの記者をしている友人・庵堂ちや子(水野美紀)の事務所に泊まることになるのですが、、、

 テレビを見てびっくり!
 ちや子の事務所は「中淀はたらく母の会」の自主保育の場所となっており、女性たちが幼児保育の時間延長や公立学童保育所の新設を求めて署名活動や議員への要請行動にとりくむ拠点になっていたのでした。

 事務所内には「ポストの数ほど保育所を」「カギっ子を無くそう」というのぼりがあることもわかります。この頃は高度経済成長期で女性も労働力として期待された時代でしたが、子どもを預ける保育所や学童保育は不十分であり、この言葉は当時、吹田をはじめ各地で保育所や学童保育を求める運動のスローガンとして実際に使われていたのでした。

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 万博前の吹田は万博の関連事業が優先され、保育所や学校の整備は後回しにされていました。また、学童保育については、当時、国に制度がありませんでした。吹田市は人口が増える中で、ちや子の仲間たちが行っているような保育所や学童保育の設置を求める運動が活発に展開されていきます。

 ドラマでは、「はたらく母の会」の女性たちが「やったでー!市議会議員の時宗先生が請願書に署名捺印してくれたで!」「私らの署名運動も効いたんちゃうの!?」と語り合うやりとりが出てきますが、この時期、保育所増設など12件の請願が議員の紹介を得て、吹田市議会に出されていることもドラマとの共通点です。

 こうした署名や請願運動によって、吹田では保育所の建設や全小学校での学童保育開設がすすみ、さらに学童保育の制度を条例で定めることが実現していくのです。

ちや子のモデルは吹田市議?

 ドラマで保育・学童運動を応援してきた庵堂ちや子は、記者から転じ、第19週「巣立ち」で、中淀市議会議員に当選しています。
 
ちや子は、喜美子に「市民運動の仲間や、働く女性や主婦らが一緒になって応援してくれたおかげや。ほんでもっと嬉しかったのは、うちらの選挙活動で、女性の投票率が上がる言われたことや」と語ります。

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 このエピソードでの喜美子との別れ際のセリフが話題でした。

ちや子「がんばりぃ、女性陶芸家さん」

喜美子「ちや子さんもがんばってください。女性市会議員さん」

(二人で口をそろえて)「『女性』は余計や!(笑)」

 このドラマの訴えたいメッセージを端的に表現しているやりとりのように思えます。

 実は吹田市には、ちや子のように学童運動との関わりから、このドラマの時期に"女性"議員になった人がいます。岩本尚子さん(故人)です。

 岩本さんや当時の親たちは、千里ニュータウンの古びた府営住宅で最初の手づくりの共同保育をはじめています。そういえば、ドラマで自主保育に使われているちや子の事務所も団地のような建物の一室でした。

 岩本さんはやがて子どもたちが小学校に入ると学童保育開設の運動に関わり、吹田の学童団体で初代会長になります。こうした運動の中から、1975年4月の吹田市議会議員選挙に共産党から立候補し、33歳で当選。7期27年間の議員として活躍し、吹田市議会副議長などを歴任します。

 当時の同僚議員は、次のように岩本さんに賛辞を贈っています。

 「あなたが取り組まれた女性の地位向上、保育・子育て支援、児童・高齢者福祉、教育、そして環境、まちづくりなど、本市の発展を願うあなたのあくなき情熱が、今日の本市の礎を築いたといっても決して過言ではありません」(2002年12月4日、吹田市議会で藤木祐輔議員)

 ちや子の生き方と通じる姿勢に思えないでしょうか。

ちや子が取材に行った学者はだれ?

 第17週で、ちや子が「次の選挙に出るという噂がある」という民事訴訟法の大学助教授に取材するというエピソードがあります。「堀中ヤスエ」という名前から女性であろうと推測されます。

 この時期、関西で女性の研究者で選挙に出た人といえば、土井たか子さんが思い浮かびます。土井さんは民事訴訟法ではなく憲法学が専門でしたが、この第17週のエピソードのすぐあとにあたる1969年12月27日投票で行われた衆議院議員選挙に社会党から立候補し、当選しています。

 あるいは、もう少し後の時期になりますが、学者で選挙に出た人といえば吹田市に住んでいた大阪市立大学法学部教授の黒田了一さんがいます。黒田さんは1971年の大阪府知事選に立候補し、当選しています。

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(写真は参議院議員の市川房枝さんと握手する黒田了一知事)

 堀中ヤスエは、ドラマにはこの投稿の時点では登場しておらず、どんな人なのか、選挙に出たのかどうかもわかりません。今後のストーリーで登場するのでしょうか。楽しみですね。

戦後の女性たちの願いやしんどさを描いた作品

 脚本家の水橋文美江さんは、インタビューで、「喜美子を通して『仕事を持っている女性の人生』を丁寧に描き出そうとしています」と語っています(こちら)。

 このドラマでは、「男の意地」と言う父に対して喜美子が「女にだって意地も誇りもある!」という場面や、後に夫となる八郎に対して「(ほかの男性に対しては名前で呼ぶのに)なんで『喜美子』って呼んでくれへんの?」「男と女やから?」という場面など、この当時(今もですが)、多くの女性たちが感じたしんどさとともに、自分らしく生きていくことへの願いが丁寧に描かれているように思います。

 はたしてどんなクライマックスを迎えるのか、「中淀市」はまた登場するのか、注目ですね。


※『スカーレット』劇中の画像は放送されたものより引用させていただきました。

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