赤い_

禍話:赤い女のビラ

とあるマンションの集合ポストに、普通の便箋にボールペンか何かで書かれたビラがたびたび投函されるようになった。それぞれのポストに一枚一枚、すべて手書きのようだった。

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赤い女に気をつけてください
インターホンを執拗に押して来たり
ノックを執拗にしてくる全身真っ赤な女性には注意してください
その女は付き合っていた彼氏にむごたらしく殺された女で
犯人の彼氏を探しています
ドアを開けてしまったら隠し持っている刃物で殺されます
対処法は霊感のある友達に来てと頼んで来てもらうしかありません
だから 赤い女に気をつけてください

この不気味なイタズラは何度か続いた。マンションの管理会社も不要なビラの投函禁止ポスターを貼り、監視カメラを設置するなど対策した。警察も心なしか巡回を増やしているようだったが、ビラは時折届いていた。

[赤い女はいよいよこのマンションに狙いを定めているのです]
マンションの住人のひとり、Aさんは何度目かのビラにあったこの一文を目にし、たまりかねてバイト先の飲み会の場で相談した。するとメンバーのひとりが、酔って気が大きくなったのか、見に行きたいと言い出した。その場のノリもあってAさんはみんなにマンションを紹介することにした。みんなで外廊下を見上げ「4階のあの部屋が俺の部屋でー」、…あれ?
その外廊下を、右から左にゆっくり往復する人影が見えた。よく見ると、赤い服。長い髪。赤い、女?
するとひとりが突然「俺、捕まえてきますよ!」と言い、マンションに向かっていった。「おい、やめなよ~」「やばいって!」引き留める声もむなしく、走って行った彼はあっという間に人影が見えた外廊下にたどり着く。
…誰もいない。
勇んで走って行った彼も各階を確認しながら下りてきたが誰にも遭遇しなかったという。その間エレベーターは動いていなかったし、誰も下りてきていない。どこかの部屋に入った物音一つ聞こえなかった。メンバーのひとりが「まじでオバケなんですか?」と言うともうみんな酔いもさめ、それぞれに帰宅していった。

それから数か月、Aさんはとにかくバイトが忙しかった。ビラのことなど忘れるほど忙しく、連勤が続き、ある日も残業が長引いて深夜に帰宅した。疲れからか鍵を開けるのに手間取っていたAさんは、蛍光灯が切れて暗くなっている外廊下の奥にふと目をやると、誰か座っているような人影を見つけてしまう。薄暗い中にぼんやり見えるその人影は、言葉を発しながら立ち上がり、ゆらりゆらりと近づいてきた。
「…ぜんしんまっかなじょせいにはちゅういしてくださいそのおんなはつきあっていたかれしにむごたらしくころされたおんなで
赤い服。あの女だ。Aさんはとたんに焦りだす。
「はんにんのかれしをさがしています…どあをあけてしまったらかくしもっているはものでころされます…
ちらりみると片手を後ろ手にしていて、文言のとおり刃物を隠し持っているようにも見える。やっとのことで鍵を開け、自室に滑り込んだ。するとやがてゆらりゆらりと部屋の前に到着した赤い女は、通り過ぎることなくインターホンを執拗に押し、ドアをノックしはじめる。ピンポンピンポンあかいおんなに!!きをつけてください!!ドンドンドンドンそのおんなは!!!つきあっていたかれしに!!!むごたらしく!!!!
こんなに執拗に女が叫び、インターホンとノックの音が鳴り響いているのに、他の住人は誰も助けに出てきてくれない。
「ドアをあけてしまったら!!!かくしもっている果物ナイフで!!!殺されるんですよ!!!!!!!
果物ナイフを持っていてインターホンも押していて、どうやってドアを叩いているんだろう?息を殺してのぞき穴からのぞくと、顔こそ見えなかったが頭や肩、腕など全身を使ってもはや体当たりしている。
完全にヤバイ。
「あなたが助かるすべは!!!!!もう無いんですよ!!!!!対処法は!!霊感のある友達に!!!来てと頼んで来てもらうしか
霊感のある友達、に心当たりはなかったが、Aさんは悪いと思いつつ状況を説明せずに近くに住む後輩を呼び出すことにした。
「赤い女に!!!気をつけてください!!!インターホンを執拗に押してきたり!!!!ノックを執拗にしてくる!!!全身真っ赤な

〈〈 ピンポーーン 〉〉

どれぐらいの時間耐えたか、インターホンが一度はっきり鳴らされた瞬間、女の声とノックが一瞬にして止んだ。のぞき穴を見ると後輩が不思議そうな顔で立っていた。「先輩、どうしたんすか~?こんな夜中に~。」

この後輩が、本当に霊感があったかどうか?それはもうどうでもいい。とにかくこの日以来、赤い女のビラが投函されることは無くなった。ただ、この世の者かどうかもわからない全身真っ赤な女が、色々な土地で目撃されているという。もしかしたら今もどこかで犯人の彼氏を探しているのかもしれない。だから、赤い女に気をつけてください。


※この話はツイキャス「禍話」より、「赤い女のビラ」という話を文章にしたものです。作中のビラ画像は想像で作成したものであり、実在するものではありません。

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