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禍話:うしろ人形

道端の落とし物はあんまりかまわないほうが良いのかな?という話。

その日は雨が降っていた。
それがやっと止んだ夜、帰り道に人形が落ちていた。
そんなに汚れていないし、濡れてもいない。100円ショップに売っていそうな、安いつくりの人形だった。雨が止んだばかりの夜の10時頃だったので、こんな時間に子どもが落としたのかな?と少し不思議に思いつつも、拾い上げてすぐそばの塀の上に置いてあげた。
ここなら踏まれたりしないし汚れないだろう。再び帰路についた。

次の日の朝、出がけに昨日人形を置いたところを通りかかったら、もうそこに人形はなかった。周辺にも落ちていないし、きっと回収されたんだ、良かったなと思った。
その日は用事が早く終わって、夕方に帰宅した。
すると今度は家の目の前にあるゴミ置き場の隅にぽつんと、人形が置いてある。背を向けて置いてあったので全く同じものかはわからないけど昨日の人形によく似ていた。まあ100円ショップにありそうって思ったぐらいだし、きっと量産型だから、近所の子どもの間で流行ってたりして、似てるのも偶然かな?と思いながら家に入った。

その夜寝ていたら、肺のあたりが痛くて起きてしまった。こんなこと生まれて初めてだけど、これが肋間神経痛ってやつかな?とりあえず水でも飲んで落ち着こう。と、玄関に面した台所へ向かった。
すると外からボソボソと声がする。時間はもう2時をまわっていた。
(こんな時間にだれだよ?)
そっとドアスコープを覗くと、お母さんと思しき女性とそのお子さんらしき子どもがいた。子どものほうはどうやら女の子で、うちの前で人形を持ってなんだかもじもじしている。持っている人形はあの人形に似ているし、なんとなく変な持ち方をしているな、と思いぼんやりみていると、人形を正面に向けようとして向けられない、みたいな動きをしている気がした。そしてお母さんのほうは「…わかるわかる…うんうん…そうだよね~…」とブツブツ何か言っている。
この親子は何なんだ、だいたいこんな時間にうちの前で何しているんだ?

「わかるよー!お兄ちゃんに顔見せるのが恥ずかしいんだよねー!」

ここでわかった。このお母さん、おそらく女の子じゃなくて人形に向かって話しかけている。

『お兄ちゃん』って、俺?

そして女の子のほうは人形が自分のほうに向く、向かないの攻防を時々「ウーン」とか言いながらずっとやっている。いよいよ気味が悪くなっていたが怖すぎて身動きがとれず、物音を立てたくないがために部屋の奥に戻ることも出来ず、しばらく見続けてしまった。ほどなくして女の子がついに「えい!」と人形をこっちに向けた。

瞬間的に(これは見たらダメだ!)と咄嗟に目を背けた。ドアスコープから顔を逸らしただけなので音は立てていないはず…なのに、今度はドアポストに人形をグワーッと突っ込んでくるのがわかった。どうにか突っ込もうと激しくガツンガツンやっている。その後ろで何故かテンションがあがったようにお母さんのほうが
「そうだよねー!顔見てほしいよねー!でも照れ屋さんだからねえ~~!」

たまらず警察を呼んだが、警官が到着した頃には静かになっていた。ただ、ドアポストあたりを警官が調べると、人形をこすりつけて付いたような塗装の跡と、人形の髪の毛部分に使われているような毛が付着していた。


※この話はツイキャス「禍話」より、「うしろ人形」という話を文章にしたものです。(禍話R 第八夜 2018年12月14日)
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/512948077

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