9月③ 稲みのりひと休みかな水ぐるま(実りの里@宮城県栗原市一迫町)
写真「実りの里」(撮影:薩摩嘉克)
このところの夏の暑さは異常だというほかありません。
ただ、そう思っていると、突然しつこい雨が降り続いたりもします。
そんな長雨が続くと、思い出すのはリドリー・スコット監督、1982年公開の映画「ブレードランナー」です。設定されている舞台は「2019年11月のロサンゼルス」でした。
酸性雨の降りしきる、高層ビル群が建ち並んだ人口過密の大都市の風景は「人類文明のどんづまり」を連想させるものだったのではなかったでしょうか。
今ひとつは1989年、松田優作の怪演が話題になると共に、彼の遺作となった同じリドリー・スコット監督の映画「ブラック・レイン」です。
「原爆投下や空襲で起こる煤煙まじりの雨」を意味する「黒い雨」をタイトルにしたこの映画も、余り希望に満ちた未来を展望するようなものではなかったように思います。
とはいえ昨今の日本に降り続く雨が、酸性雨や「黒い雨」だったわけではないのでしょう。
ただ、その鬱陶しい天候は、嘘と腐敗にまみれた政権による政治、際限なく拡大する貧富の格差、後退し始めたと思うと、後退し続ける経済、表現の自由を破壊しつくしかねない文化の状況など、いよいよ末期的な症状を露わにしつつある現代日本社会の衰退とその末路を象徴するかのように思われます。
こういうときは「晴天が年に320日に及ぶ」とされるスペインのアンダルシア地方での旅の記憶を思い出して気分を転換するほかなさそうです。
むろん快晴の空のもと、黄金色の実りが呼び起こす本来の日本の国土の姿に思いを馳せるのもいいように思います。
そんなことを考えながら、こんなコラムを書いてみました。
土地ごとの料理と出合うのは旅の大切な楽しみだ。たとえばスペインのマドリッドで食べた牛肉の石焼きの美味が忘れられない。
日本の霜降りとは違い、固くてさっぱりした独特の滋味に富む牛肉を、安くて良質の赤ぶどう酒と共に楽しんだ。
が、そんな食事が3日も続くと、胃が音をあげる。
「米の飯を食わせてほしい」
と訴え始めるのだ。
で、日本食を食べる。たちまち元気が戻り、熟睡した翌朝には胃の調子も回復している。日本食もまた異郷の旅の楽しみにほかならない。
そういえば濃紺の空のもと、白ちゃけた緑のオリーブ畑と刈りとったままの麦藁に覆われたスペイン南部の乾燥しきった風景も見事であった。
しかし帰国後、秋晴れなのに、うっすら靄のかかる稲田の実りの風景を目にすると、あらためて気分がなごむ。
そこには、さまざまに水と湿気に支えられてきた日本人の暮らしの絶景がある。
しかも、ここ宮城県栗原市一迫町の長崎地区では、実用には供されていないものの、揚水用の水車が往時の姿をしのばせてくれる。
そこで思いだすのは、やや唐突ながら、近代という時代を切りひらいた産業革命が、じつは水車による水力の利用に端を発したという事実である。
蒸気機関が紡績に利用される1785年より20年以上も前に、イギリスの水力紡績は、その急成長をはじめていたのである。
それから200年あまり、莫大な量の化石燃料の消費が、人びとの生活を豊かに変えた。が、他方では現代の文明社会を、大気汚染をはじめとする深刻な環境問題に直面させている。
もとより、そのすべてを水力の利用に頼るわけにはいくまい。
しかし、化石燃料の無用な消費のいくらかを、大昔から伝えられてきた水車の技術にまかせることが、できないわけではない。
そんな未来の可能性までもが、この風景のなかには潜んでいる。
この記事とは、余り関係がないのですが、ぼくは、こんなキンドル本を出版しています。
無論、Kindle Unlimited なら、無料でダウンロードできます。お読みいただけると、大喜びします。
21世紀になって、好ましいことの少ない日本の現状を、少し別の角度から考えてみるキッカケにならないかと思い、こんな本をまとめた次第です。
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