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「もっとあえしは歌いたい」バーチャルアイドル水科葵の音楽性に迫る

みずしーこと水科葵(みずしな・あおい)。猫耳ヘアーの可愛らしい見た目から、ふわふわした関西弁で繰り出される親しみやすいトークと、高い歌唱力の弾き語りのギャップが魅力の女の子。

メディアで歌ってみた動画が紹介されているのを、目にした方も多いのではないだろうか。

水科葵は、スクエニプロデュースのバーチャルアイドルグループ「GEMS COMPANY」通称ジェムカンに所属するアイドルである。本稿の執筆時点でYouTubeに投稿された動画は90本、ツイート数は6600件超と、積極的な発信を行なっている。

しかし、多くの歌動画を投稿していながら「水科葵はなぜ歌うのか」「水科葵らしい歌とは何なのか」について、はっきりと言及される機会はあまりなかったと思う。

しかし、水科葵を本気で推していくためには、避けて通れないのが「歌」である。本稿では、これまでに語られた内容を手がかりに、水科葵が影響を受けたアーティストを踏まえ、彼女の音楽性や歌に対する姿勢について迫ってみたいと思う。あくまでいちファンによる考察であることをご留意いただき、またところどころの乱筆はご容赦いただきたい。

水樹奈々

水科葵がシンガーを目指すきっかけになったのが、水樹奈々だ。

オリコン首位を獲得、紅白歌合戦にも連続出場するなど、今や誰もが知る国民的アーティストである。水樹奈々について、葵は配信でもその魅力を語っている。

ファントムマインのときに初めて曲を聴いて、ビビーってなって。わかる?雷が落ちたっちゅうやつか?そう。それをきっかけで知ってな、そっから聞くようになったんや。
その次に入ったのがETERNAL BLAZEな。水樹奈々様の代表曲って言ったら、あえし一番最初に挙げるの多分ETERNAL BLAZEかも知れん。名曲マジで。

水樹奈々は、非常に声量がありしっかりと歌い上げることができ、低音から高音まで様々な歌い方を使い分けることができるテクニックもあり、ロック調の力強い曲に合うシンガーだ。

水科葵は、カラオケ動画で自身が水樹奈々の代表曲と推す ETERNAL BLAZE を取り上げたこともある。

水科葵の作品の中で特に水樹奈々の影響を感じさせるのは、水科葵が作詞・歌唱を担当した舞台「君死ニタマフ事ナカレ零_改」テーマソング『鮮紅の花』である。

曲調も歌声も力強いロックナンバー。「何も知らない少年少女は」の歌い出しの「な」の音の処理や、「灰の空」の「あ」のロングトーンの音の作り方など、まさに水樹奈々を彷彿とさせる力強さではないか。

こちらの楽曲は各サイトで配信されているので、興味を持った方はぜひフルで聴いていただきたい。

やなぎなぎ

水科葵を構成する成分は、水樹奈々だけではない。水科が影響を受けたと公言するアーティストのひとりが、やなぎなぎだ。

やなぎなぎは、ささやき声のような息の多い歌声から力強いサビの歌声まで、切り替えてるわけではなく美しく同居させることができる、唯一無二のシンガー。

水科は動画でも「めっちゃ好きな曲」として、やなぎなぎのアクアテラリウムを取り上げたことがある。

水科葵の歌の魅力とは、力強いだけでなく、彼女のキャラクターを体現するような、繊細な歌声も同居していることかもしれない。

いきものがかり

幼少期の水科葵をポップ・ミュージックの世界に引き込んだのは、いきものがかりとの出会いであった。

水科は、いきものがかりとの出会いを、自身の配信でも語っている。

あえしアニソンが基本的には好きやねんけど、アニソンを知ったきっかけは、水樹奈々さんなんやけど、その前にJ-POPを聞くきっかけになったきっかけがいきものがかりやねん。
あえし小学生の時に、お父さんとよく、プラネタリウムによう行っとってんやんか。そこで流れてた曲が、いきものがかりさんの『花は桜 君は美し』と言う曲やって。この曲でJ-POPと言う枠をちゃんと認識した。

幼い頃からエレクトーンを習い、クラシックやジャズなど様々な音楽に触れるきっかけの多かった水科葵。幼いながらに音楽の素養を身につけていた少女に大きな衝撃を与えたのは、吉岡聖恵のまっすぐに通る透明感のある歌声であった。

いきものがかりとの出会いから人生が変わった葵は、音楽が人に与える影響について、同じ配信でさらに語っている。

よく、最近見かけんねんけど、あえしの配信とか観た人が、音楽まえやってたけどもう1回やってみよかなとか。あと大阪にあえし住んどってんけど、お東京に来た理由が歌う人になりたいから、っていう理由やってんけど、そういう境遇、環境の女の子が頑張ってるんやし、自分も頑張らへんとな、みたいな。そういうのがちょっと嬉しいなって思ったり。
他にもいっぱいユーザーさんが、自分もキーボード引っ張り出して来てっちゅうのが嬉しくてな。歌いたいっていう人とかも少なからずはいるわけであって。
あえしでも、普段さ、こんなんやんか。やりたいことさ、「歌いたいから歌ってるだけ」みたいな。そういう、ちゃんと考えてるようで考えてないようでなんやねんみたいな感じやけどさ。ちょっとでも、そういう風に思ってくれていることが、あえしはめちゃくちゃ嬉しい。

ある曲との出会いから音楽の道を志した原体験を持つ水科葵は、自身の歌もまた、誰かの音楽を始めるきっかけになったり、音楽以外でも人生に影響を与えられることが嬉しいと語る。

人を動かすような歌、人の心に届くような歌。彼女が目指している歌とは、自らを突き動かしたような、そんな歌であるようだ。

水科葵の側にはいつも歌があり、救われたり、笑ったり、泣いたりする。その経験を糧に水科葵が歌うことで、また救われたり、変われたり、富士山登頂に成功したりする、ぶくぶくの民がいる。YouTube配信という形態は、まさにリスナーの人生に寄り添うような、水科葵らしい活動と言えるかもしれない。

人生経験によって、音楽も変化していくことについては、ほかにも水科独特の表現で何度か言及されている。

そんな水科葵の感性に最も大きな影響を与えている環境の変化とは、アイドルグループへの所属という道を選んだことではないだろうか。

師匠こと、音羽雫との出会い

同じグループの仲間は誰もが特別な存在だと思われるが、なかでも同じシンガーという夢を目指す音羽雫(おとわ・しずく)のことは師匠と呼び特に慕っている。

伸びやかでどんなメロディラインでも崩れない安定感のある音羽雫の歌は、水科葵にない魅力を持っている。

彼女の歌唱力は、バラードでその真価を発揮するように思う。所属するユニットcitrossのオリジナル曲がまさにバラードの名曲なので、ぜひいちど聴いてみてほしい。

音羽雫のはっきりと伸びて聴きやすい歌声。そのテクニックも他のメンバーに比べて明らかに高い。

『「また会おうね」というその笑顔が私に安らげる居場所をくれた』という難しい歌詞のパートが彼女に振られているのも必然。母音や鼻濁音を美しく歌えないと曲が台無しになるところを、完璧に歌いこなし曲全体を引き締めている。

それでいて、ユニゾンで歌うサビも一人だけ浮くことはなく、優しく他の二人の歌声と調和しており、まさに、親しみやすい音羽雫のキャラクターを彷彿とさせるではないか。

水科葵は、音羽雫と二人で歌う配信も行なっている。

ソロヴォーカリストに影響を受けて音楽の道を目指した水科葵だが、同じ道を目指す仲間で、かつ自身と違った魅力を持つ音羽雫の存在は、きっと彼女の音楽にも大きな影響を与えていることと思う。

ユニットを組む相棒、桃丸ねくととの出会い

YouTubeで様々なアーティストの楽曲のカバーを行なっている水科葵だが、ついに GEMS COMPANY としてのオリジナル楽曲が発表された。

歌唱力のある水科葵はソロデビューの可能性もあるかと思われたが、追加オーディションで選ばれた12人目のメンバー、桃丸ねくと(ももまる・ねくと)とのデュオユニットでの楽曲発表となった。

桃丸ねくとは、多趣味で明るい性格の女の子。何にでも興味を持ち、ポジティブな積極性が魅力だ。人見知りで自宅警備員を自称する水科葵にとって、対極のような存在と言えるかもしれない。葵の世界を大きく広げてくれるような、彼女にとっての大きな存在となってくれるのではないかと、勝手ながらファンとして期待を寄せてしまう。

二人のユニット名「fulfill」も、ねくとのアイディアだという。葵自身も、ねくとのことをパートナーと認め、感謝の気持ちを投稿している。

彼女たちのオリジナル曲『形而境界のモノローグ』は、疾走感抜群でありながら、静と動が同居するような難しい楽曲。

葵とねくとがパートナーになったからこそ、そしてもちろん、彼女をサポートする全てのスタッフ、そしてYouTube配信活動を継続することで得たファンの応援があったからこそ、はじめてこの世に出てくることができた。何度も繰り返し聴くほどに、そう思う。

待ちに待ったオリジナル曲を発表できた『じぇむかんTV#7』で、葵は喜びのコメントを残している。

【水科葵】一番最初のうたひながMVを出した時から、ずっと自分も早くみんなにユニットを組んで歌ってる歌声を届けたくて、こうやって実際に形にして、みんなに届けることができて、ほんまに、ほんまに嬉しいです。あ〜!
【花菱撫子】すごい思いが伝わってきます。ありがとう、ありがとう!
【葵】この曲、最初は難しいなって思いでいっぱいやったけど、すごい、あの…(涙で言葉に詰まる)
【撫子】ひーん、みずしーが〜!エモエモのエモで、目から聖水が〜!ちょっと、あたしのハンカチで!
【葵】いらんわ!(笑)すごい、たくさんの人に支えてもらって、協力があって、このMVがひとつの作品として完成したことが、すごく嬉しいです!ひとりでも多くの人に聞いていただけると、ほんとにほんとに嬉しいです!よろしくお願いします!

公開されたオフィシャルMVは口コミのみで発表から瞬く間に1万再生され、なお再生回数は増え続けている。水科葵の歌声が世に広まる瞬間に立ち会えたことを、ファンとして嬉しく思う。

そして、これからも GEMS COMPANY で様々な試練を経験し、アイドルとして得た積み重ねが、みずしーらしい表現へと昇華する事を願わずにはいられない。

それでは、4000文字を超えてしまったところで、最後に最高のMVをここまで読んでくださった方にご紹介して、筆を置きたいと思う。
ぜひじっくり聴いていただきたい。

fulfill で、『形而境界のモノローグ』。



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