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旅と出会い 野辺山の爺さんと飲む

旅の心得
民族学者 宮本常一さんの父親、宮本善十郎さんの十箇条に、旅の心得がある。内容が素晴らしいので、ここに転載する。

父の十箇条の一部 (宮本善十郎さんの言葉)
(1)汽車に乗ったら窓から外をよく見よ、田や畑に何が植えられているか、育ちがよいかわるいか、村の家が大きいか小さいか、瓦屋根か草葺きか、そういうこともよく見ることだ。
駅へついたら人の乗りおりに注意せよ、そしてどういう服装をしているかに気をつけよ。また、駅の荷置場にどういう荷がおかれているかをよく見よ。そういうことでその土地が富んでいるか貧しいか、よく働くところかそうでないところかよくわかる。

(2)村でも町でも新しくたずねていったところはかならず高いところへ上ってみよ、そして方向を知り、目立つものを見よ。峠の上で村を見おろすようなことがあったら、お宮の森やお寺や目につくものをまず見、家のあり方や田畑のあり方を見、周囲の山々を見ておけ、そして山の上で目をひいたものがあったら、そこへはかならずいって見ることだ。高いところでよく見ておいたら道にまようようなことはほとんどない。

(3)金があったら、その土地の名物や料理はたべておくのがよい。その土地の暮らしの高さがわかるものだ。

(4)時間のゆとりがあったら、できるだけ歩いてみることだ。いろいろのことを教えられる。

旅と旅行の違い
日本語で旅というとなんとなく、目的もなくさすらう感じがする。
旅行は行く目的がある。そう感じる。
また、一人旅とは言えるが、一人旅行とは言えない。
団体旅行とは言えるが、一人旅行とは言えない。
人生は旅と言える。人生は旅行ではない。
旅はなんとなく不確定な要素と出会いがある。

ちなみに英語の「travel」はごく一般的な旅を指し、「trip」は比較的短い期間の旅を指す
「Journey」は長期間の旅行を指す。
「Life is a journey」という言葉もあり、日本語の旅に近いようだ。

旅先の出会い
さて、旅は人生、人との出会いがある。
2019年の8月3日 コロナ前の時代。この違いは大きい。
長野県野辺山へ妻と一緒に車で行く。ちなみに20年以上毎年、八ヶ岳の麓へ夏は遊びに行ている。
昔はマウンテンバイクレースの参戦も兼ねていた。今回はレースはない。それでも車には遊び道具、自転車(シクロクロス)、スケートボード、ドローンを積んでいる。

急に行く事が決まったので、宿泊先がない。どこも満室だ。出来ればペンションが良かったが、ゲストハウスを野辺山にようやく見つけた。
それでは車でGO!
朝早くでたので、野辺山には10時前に着く。

シクロクロスコースのある公園へ行く。スケートボード用の広場もあり、多少雨模様だったが遊ぶ。

シクロクロスコース
スケボーパーク?

お昼を食べた後、陶芸をした。初めて電動ろくろを使った。面白い。

電動ろくろ

午後3時も過ぎたので、宿泊先の「高原野菜」というゲストハウスへ向かう。

ゲストハウス高原野菜

ネットにあった古いホームページには一人旅大歓迎とある。
今読むと「危ねーっ」と思う。
このゲストハウス、野辺山高原のど真ん中にあるので、天気さえ良ければ、夜は満天の星空が見える。それだけ空気が澄んでいる。
それを期待して宿泊した。ここの天候のパターンで深夜によく晴れる。

また観測環境がいいので、近くに国立天文台 野辺山宇宙電波観測所がある。なかなか壮観だ。

デカい!

さて、このゲストハウス、とにかく古い。常連さんも多そうだ。
雰囲気的にはアウェー感満載であった。
オーナーは爺さんで癖が強そうだった。常連と大声で話しなが笑っていた。
「嫌な予感はあった」

食堂において、全員での比較的遅めの夕食は終わり、他の人は早々と消えていた。私と妻は何となくゆっくりと食事をしている。
すると頼んでもいないのにビール瓶を持って、その爺さんが話かけてきた。
「どうも、ビールでも」
返事もまたずに、グラスに注がれた。
ロックオン完了。

まぁいいや、つき合おうと何時ものように開き直る私。
初めは、このゲストハウスはどんな人が利用するのか、天気や星の話などをしていた。ビール大瓶が2本消えた。

そして黒霧島(芋焼酎)のソーダ割に酒が変わった。
段々酔いが回ってくる爺さん。
突然爺さんが私のことをエリートと言いだした。
「貴方はエリートだ。見ただけでわかる」
外れだよ、会社は自転車操業、吹けば飛ぶような会社だ。

「御社はどのような仕事を?」
御社ってなんだよ??
「学校の情報システム構築なんかをぼちぼちやっています」
「やはりねぇ、エリートは違う」
あのねぇ、インフラの仕事ですから、IT土方と言われいる人々ですよ私は。私も酔っていたので、適当に受け答えしていると、今度は自分を語りだした。

爺さんは若い頃、海外協力隊(JICA)で長年活動しており、昭和の時代、海外の僻地で、
「東芝やソニーや日本の大きな看板、企業広告を目にすると凄く誇らしい」と言う。
日本の企業戦士が世界を闊歩していた時代だ。
その爺さんが言う、
「今や中国と韓国企業の看板ばかり、日本はこれでは駄目だ」
1人で勝手に憤る。

「御社はどうなの?」
どうって、世界を相手にしてないし。

今度は酔っ払いの定番で話が愚痴になる。
30年前、農業をしようと、此所に移住したが、キツすぎて無理。
地元のイジメもあったとか、それで結局今はゲストハウスをやっているそうだ。

次は嫁の話となる。
神田の和菓子屋の娘をさらってきたと、嫁の実家自慢の話になる。

更に娘の話となる。
娘は東京のどこそこに嫁にいったとさらに身の上話が続く。
この辺りから私は半分寝ていた。
時計を見ると、いつの間にか日付が変わっていた。

翌日、宿泊費の支払いをする時、奥さんが
「ごめんなさいね、付き合わせちゃって」と謝ってくれた。
出来れば昨日止めて欲しかった。
「あの人、ああなると駄目なのよ」
何時ものパターンなのか、このため深夜に起きて星を見る事が出来なかったが、これも旅の出会だと思う。

それでも世界を闊歩した世代のパワフルさを垣間見たと思った。

「今日、御社の予定は?」朝から元気だ。
「ドローンを飛ばします」
「ドローン、はぁ? エリートは違うね」
可笑しくって笑ってしまった。
こんなおもてなしも嫌いじゃない。

ドローンから八ヶ岳、赤岳など南八ヶ岳を撮影


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